妄想癖
余計なことは考えない。私の目標。
【面接】
緊張する。噛んじゃったらどうしよう。答えられなかったらどうしよう。落ちたらどうしよう。
「余計なことは考えなくていいの。」
【作法】
着物を着た上品な女将がお茶を差し出す。どうやって飲むのかな。回す?どっちに?どっちの手で支えるの。お菓子はどう切ったらいいの。楽しくするのが作法だって。
「余計なことは考えなくていいの。」
【発表会】
ピアノ、論文、劇。発表会なんて手に何回“人”って書いたらいいのだろう。今までの自分でいいの。練習した通りでいいの。決まったことさえすればいいの。
「余計なことは考えなくていいの。」
何言ってんの?私の『余計なことを考えない』そんなしょうもない目標じゃないんだけど。
その1。今前から来てる人が私を殺そうとしてる。私はいつでも殺し返せる。
その2。エレベーターがきた。エレベーターの窓から見える範囲には誰もいない。が。開いたらこちらを見つめながらしゃがんでいる人がいる。ナイフを持ってる。エレベーターのドアってそんなに早く閉じてくれない。だから私は数歩下がってエレベーターを待つ。
その3。マンションの8階から景色を見過ぎない。後ろから押される。そいつの手を引っ張って道連れにできる反射神経は備えてるけど。
その4。お風呂で洗顔。泡を洗い流して目を開けると笑った女性。
その5。お風呂の浴槽の下に誰か。
その6。引き出しを開けると生首がある。誰のかは想像におまかせ。
……………
どう?わかった?
これを考えないのが私の目標。