第1話 俺、過失運転致死罪(無効)デビュー
俺はトラックドライバー。トラックドライバーの茨木健。34歳独身だ。
突然だが、今俺は人を轢いた。
驚くことは無い。よくあることだ。
ぶっ飛んでいく少年。16歳ぐらいだろう。よくある年齢だ。
あぁ、魂が抜けた。死んだな。俺のトラックは轢いた相手は絶対に逃がさない。百発百中で魂をぶっこ抜く。
魂が消滅する。それと同時にナビがとても朗らかな声で話しかけてきた。
『転生確認、ジョブ:勇者、世界:エルドランデ神話世界。お疲れさまでした!』
さらば少年。何世界か知らないけど頑張ってくれ。応援してる。
思えば始まりは俺が運送会社に入社して、初めてトラックを運転した時だった。回想シーン開始。
俺は初日から人を轢いた。
赤信号を渡ろうとした子供を助けようとした高校生だった。
やってしまった。俺の人生は終わりだ。
そう思ったのもつかの間、唐突にナビが勝手に喋りだした。
『私は神です』
ナビまで壊れたか、自分が幻聴を聞いているのかと思った。
『違います! あのですね、今あなたが奪った魂、人の役に立ててみませんか!?』
何言ってんだコイツ。
『いや、違うんですよ、ちょっと話聞いてくださいよ』
警察呼びたいんで電話させてくれねーかなー。
『私の話聞いてからにしてください!』
携帯電話携帯電話。早く電話して負傷者の救護に当たらないと。いや、どっちが先だっけ。電話? 救護?
『聞いてよぉ……グスッ……聞かないと永遠にトラックの中に閉じ込めます……』
そうナビが言うとトラックのドアの鍵が勝手に全部かかった。ついでに携帯も圏外になった。マジかよ。
『あっ聞いてくれるんですかっ聞いてくれるんですね!』
お前が無理矢理聞かせてるんだろとは思わなくもない。
『えーっとですね、どこから説明したら良いんでしょう?』
知るか。
『えー、じゃあですね、めんどくさいので地の文を読んでください。どうせ回想シーンなので』
こいつ……。
私神ですのでなんでもありです!
一人称の地の文にまで介入してくるんじゃねえ!
とにかく、こいつは神だった。
この世界には魂という概念がある。
殺された魂は殺したものの支配下におかれる……らしい。だが、それは殺したものが魂の使い方を分かっていればの話。じゃあどう使うのかといえば、殺された魂は残りの寿命の分だけ異世界に転生させることが出来る。
何十万とある異世界はそのどれもがなんらかの形で窮地に立たされていなかったり立たされたりするのだが、そこに異世界の魂を送り込むことで世界に変化をもたらしうんぬんかんぬん。この辺はよく分からない。
まあそんなわけで、神には殺された魂が必要だった。だが、そう上手くも行かない。
『いや、だって神話の世界じゃあるまいし。私が直接殺すなんてもうそんな時代じゃないわけですよ。かといってね? 魂の支配権を持ってるのは人間な訳ですから。勝手にそれをどうこうもできないわけですよ。昔ならそりゃー百戦錬磨の兵士とかに交渉して魂を異世界送りにしてもらってたんですけど、今は割と平和なんですよねー。この世界が平和だと他の世界が困っちゃうけどまあそれも性格悪いっていうかそのためにこの世界に戦争起こすのも変な話です。で、ですよ!』
地の文に任せるんじゃなかったのかよ。
『いいんです! 私しゃべりたい! ほら、交通事故ってあるじゃないですか! あれの死者数って凄いんですよね〜。アレどうにか使えないかなって思って! 殺したことに代わりはありませんしね! なので、交通事故を起こしまくれば良いって気づいたわけです!』
俺寝てるわ。もう知ってる話だし。回想シーン終わらせとくね。
『えっ、酷い……でも読者さんがいますもんね! なので、私は交通事故が起きるであろう場所に事前にワープして死ぬべき運命だった人を轢き殺せるトラックを作ったのです! 轢き殺したあとは異世界に魂ポーイ! そのあと証拠とか全部隠滅して事件を闇の中にポーイ! 完璧です! で、そのトラックにこの寝てる人が偶然乗ることになっちゃったわけですね、運が悪いですね〜』
お前ほんと今度ぶっ殺すからな。
『まあいいじゃないですか。罪には問われないんだし。ついでに神にもしてあげたじゃないですか』
神にでもならないと証拠隠滅できなかったの間違いだろバカ。おかげで俺は天涯孤独無職童貞だ。俺の方が転生したいわ。
『もう死ねませんけどね〜』
そんなこんなで、俺は今日も色んな人を轢き殺しまくって異世界に送り込んで異世界を救ったり救わなかったりしているのであった。誰か異世界転生して俺のこの状況なんとかしてくれないかな。助けて。