4話 復讐者になるまで-4-
「ちょ、ちょっと、警戒しないでくれ」
「…それは無理な相談だ。悪いが殺人鬼の戯言を聞くほど馬鹿じゃないので」
「いやいや、それは誤解だって、俺たちは操られていたんだ。あ、自己紹介がまだだったね。俺はシュウヤ。召喚された勇者だ」
「…………」
「ちょっと無言は酷くない!?」
すると後ろにいるシュリカが震える声を出した。
「……わ、私は、シュリカって、いいます」
「シュリカちゃんか。それで男の子の君は?」
「…………ヒューリだ」
「ヒューリ君か。ありがとう、それでさ」
そこでシュウヤの声が変わった。
「お前、舐めてんの?勇者に向かってタメ口とかガキが調子に乗るのも大概にしろよ?」
「…やっぱり操られているわけじゃないだろ」
「ああそうさ、せめて会ったら自己紹介ぐらいはね。でもおめでとう。君たちはこの勇者である俺が初めて殺す相手に選ばれたんだ。光栄に思って──────死ね!」
そしてシュウヤは腰にある剣を構え一気に間合いを詰めてきた。
それを回避すべく、シュリカを抑えながら風魔法で自分を後ろに飛ばす。
だが、回避しきれずに足の太もも当たりに剣が当たってしまう。
けれども痛みはない…なぜだ?
「どう?この剣、切っても痛みはないんだってさ。魔物で試してみたいけどあいつら吠えてるのか鳴いてるのかわからないから痛みがないのかわからないんだよね。それで、どう?…反応からして痛みはやはり無いのかな?」
なんだそのふざけた剣は…痛みはないが足からは血が出ている。しかもうまく動かない…これはやばいな。
「それで、今のどうやって回避したの?あの姿勢からだと回避できないと思うけれど?」
「……風魔法を使って体を後ろに飛ばしたんだよ」
「へぇ〜風魔法が使えるのか。珍しいな」
珍しいとかはどうでもいい。今はここから抜けることを考えなければ。
そんなことを考えていると二人の女性が歩いてきた。
森精と竜人…こんな状態の町を作った張本人達だ。
「あら、まだ終わってませんでしたの?」
「ああ、そんな慌てるような事じゃないだろ。それで、どうだった?」
「空から確認したところ、確認が出来た全ての人が男2人によって殺されました」
「あら、全てっていうけど、あなた最初にブレスを放って沢山の人を焼きませんでした?」
「それはアタクシに限ったことではありませんこと。貴女も──いえ、貴女こそ、町の真ん中にあんな火の球を投げて、あれの方が死にましたよ?」
「まあまあ、そんなことは後で考えよう。それで、タイガートとルガインはどうした?」
「もうそろこちらに…あら、来ましたね」
そして男2人が歩いてきた。
ドワーフの方は両手で大きな槌を持っている。だが血は付いていない。対して獣人の方の小手にはたくさんの血がついている。
「きたか、どうだった」
「あんまし硬いものは無かったが大きなものを壊すってのはスッキリするな」
……まさか、まさかだが、こいつらストレスが溜まっていてそれを発散させるために…じゃないよな?
いや、シュウヤは剣が本当かって聞いたし、しかもシュウヤは話してることからしてほかの人を殺してはいない。
しかも聞いてる限りだが、森精と竜人の2人も、最初のみでそれ以降は殺してはいない。まあ最初のアレでもうスッキリしたってのもあるかもしれないが…
「いやー、人が溜まってるところがあったから結構すぐ終わってしまったよ。強いやつもいたけれど俺には適わなかったな」
笑いながら獣人の男は小手についた血を払う動作をする。まあ払えるわけもなく。
「まあ、こっちもすぐに終わらせるよ!」
シュウヤは再び間合いを詰めてくる。俺は先程と同様に風魔法を使い回避を続けるが、回避しきれないで当たることが多々ある。
30分ほど経っただろうか…いや、たぶん5分も経ってないか……
体中は傷だらけ…逃げられるかどうかわからなくなってきた。
しかもだんだん寒く…ああ、これは一度経験したことあるぞ。死ぬ時のやつだ。
なら、全魔力を使ってやる…
もともと魔力は人の筋力と同様に、使える最大限量には体が自動的に制限をかける。
そしてその制限した量の限界値に迫ると気絶したり目眩がしたりするのだが、これが体の危機になると制限がずれる。しかも死の間際だと最大値がなくなると書いてあった。
いまの俺の状況は死の間際だ。つまり魔力の最大値は無し。
ここで風魔法を使って五人全員ぶっ飛ばす…そうすれば逃げられるはずだ。
「さて、もういいだろ。大人しく死ねよ」
「それは…無理な相談…だな、これを…やるまでは」
「お?最後の悪あがきってやつか?俺は親切だから待ってやるよ」
自分で親切とか…
「じゃあ、最後の悪あがき………くらえ!」
「───!?!?」
そして5人は遠くに飛んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁ、行くぞ…シュリカ」
「う、うん、大丈夫?」
「問題ない…とは言えないな…でもとりあえず行くぞ」
足がボロボロのため、うまく走れないがそれでもあそこから逃げようと森の中を可能な限り早く走る。
「生きれば…いつかあいつらにやり返すことが出来る…いつか必ず…殺してやる」
「………」
いつか殺ししてやる。そう思い走る。
だがそれは終わりを迎えた。
ドスッ
「ど、どうしたの!?ヒューリ!」
もう立てる気力もなくなり、地面に倒れ込んでしまった。
「ハ、ハハ、もう…無理みたいだな」
「な、何を言ってるの…?」
「走れ…シュリカ……そして逃げろ…逃げてくれ」
「嫌だ…嫌だよ!嫌だ嫌だ嫌だ!一緒に行こうよ!」
「逃げろって言ってるだろ!」
「……嫌だよ……ヒューリがいなくなるくらいなら…嫌だよ…………だからね、一緒に─」
そこでシュリカの言葉は絶え、俺の隣に倒れてした。
シュリカの背中には大きな傷があり、そこから沢山の血が出ている。
「あー、シュリカちゃんだっけ?1発かー」
シュリカのいた方向を見てみると、シュウヤが立っている。
まさか……しんだ?
───嘘だ、
───嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
声をだそうとするも声が出ない。
せめて睨もうとするも、首を動かせない。
もう体がピクリとも動けない。
「って、ヒューリ君ももう死ぬじゃん…はぁ、最初がこんなって…まあいいか、帰ろっと」
…畜生…
いつか…
絶対…
いつか絶対───
───殺してやる!!!
そしておれは2度目の死を迎えた。