プロローグ
読んでいただきありがとうございます!
普遍の人生。
普遍の生活。
そう、何も変わらない人生だ。いや、3年前に両親が他界したからその点は何も変わらないとは言えないかもな。
小中高と平均的な公立校に行き、大学は専門校を付属した大学───いや、大学を付属した専門校に4年間行った22歳。今は小企業の会社の内定を貰い帰るところだ。
「おう、上機嫌だなぁ秀哉」
「まあ内定貰ったからね。ってか上機嫌って裕翔もだろ」
「そりゃあ受かるとは思ってなかったからなー」
こいつは秀哉。俺の中学校からの幼なじみ(?)だ。
趣味が合い、なんやかんやで会社も同じところに内定をもらった。まあ、俺の場合ぎりぎり内定をもらったって感じだろうけど…
「まあ、上機嫌なのは内定貰ったことだけじゃないけどな」
「ん?どういうことだ?秀哉」
「実はな…とうとう彼女と結婚することになりました!」
「け、結婚だと!?」
「おうよ!未だに童貞のお前とは違うのだよ!フハハハハ!」
「うるさい。まあとりあえずおめでとう」
「おう、ありがとな」
くそう…こいつもう結婚するのかよ。彼女いない歴=年齢の俺とは違うな…
「それで?結婚式はいつするんだ?」
「まだ決まってねーよ。そもそも結婚式なんてウン百万ってかかるんだぞ」
「高いところだとそうだろうけど小規模ならそこまでかからねーよ?」
「そうなのか!?って、彼女もいないやつがよくそんなこと知ってるな」
「うるせーそんなこと気にするな」
俺は結婚式の画像みて妄想してるんだよ悪いか。彼女作れて結婚できたお前と違うんだよ。
と、その時だった。
「きゃーーー」
悲鳴が聞こえた。悲鳴元を見てみると中肉中背の男が、一人の女性をを手で抑えながら首元に刃物を向けている。
「動くな!警察にも通報するんじゃねぇぞ!」
脅迫か、街中で何がしたいんだこいつは…建物やバスの中とかなら分かるがこんな街中でやったら効率(?)が悪いだろうが馬鹿な俺でもわかるぞ。
動くなと言われて動かないでいられているのは俺と秀哉と他にちらほらいるくらいだ。
それ以外の人たちは刃物を見て怖くなったのか悲鳴をあげながらいち早く逃げ出そうと動いている。
倒れている人も何人か。あ、踏まれてる。可哀想に…
「動くなっつってんだろうがあああああああああ!」
人質がいるのに自分の要求を無視された男は大声で怒鳴った。その大きな怒鳴り声に止まったが、男の周りは円状に人がいない。
「なあ裕翔、やった方がいいか?」
「ああ、俺が行くから後ろから頼む」
「りょーかい」
俺の頼みを聞き受けた秀哉は人混みの中移動した。
それに合わせ俺も一歩づつ、一歩づつ犯人へと迫る。
そもそも俺達がこの状況でも冷静でいられるかというと、何度も巻き込まれたことがあるからだ。
2回ほど立てこもり事件に巻き込まれ、3回ほど立てこもり未遂に巻き込まれた。
3回の未遂は、俺達で解決した。俺が犯人の注意をひきつけている間に柔道をやっている秀哉が後ろから犯人を捕らえるという方法でだ。
あれ、これを考えると普遍の人生じゃなくね?
あ、ちなみにだが俺の親は病死だから立てこもり事件の被害者とかじゃないぞ。
今回も同じ方法で捕らえる予定だ。幸いにもここは人が多い&街中という密閉された空間じゃない。
この条件下ならば捕らえることは可能だろう。
「あ?おい!そこのお前!動くな!」
おっと、どうやら男が俺が動いているのに気づいたようだ。だが秀哉のことは気づいてない様子。
一歩、また一歩と歩いて男との間隔を縮める。
ある程度縮めたあたりで人質や刃物を持っているのに歩いてくる俺が怖くなったのか、俺が一歩進む度男が一歩下がっている。それに合わせほかの人も犯人と距離をとる。
「お、おい!動くなっつってるだろが!こいつがどうなってもいいのか!?」
男は刃物を強調する。捕まっている女性は恐怖のあまり視点も定まっていない。
すると男の後ろに秀哉がいることが分かった俺は歩くのをやめる。
「分かった分かった、歩くのはやめるよ。ただ、後ろには気づいた方がいいぞ?」
その言葉に男は振り向いたがもう遅い。
秀哉は男の刃物を持っている左手をつかみ女性から引き離し、そのまま地面に叩きつけた。叩きつけられた男は気絶している。
捕まえられていた女性は解放されその場に座り込んだ。精神的に一番辛かったのは彼女だろう。
そして俺は警察に通報する。未だに男は気絶しているため拘束はしなくていいだろう。縄持ってないし縄の代わりになるようなものも持ってないしな。
「おつかれ裕翔」
「お疲れ様秀哉、おれは歩いてるだけだから疲れてないぞ」
「そうか?ヘイト稼ぐのは一番危険なのは現実でもゲームでも同じだろ?」
「うるさいゲーム脳め」
そんな会話をしているとようやく状況が読み込めた周りが騒ぎ出した。
「おおお!」
「すごいぞあの2人!」
「ありがとう!」
うん、周りの人から感謝の言葉を向けられるのは悪くないな。
そう気楽にしていた俺は気づかなかった。男の気絶していたという演技に、
グサッ
腹部に違和感を感じる…熱い、どうなっているんだ?
「裕翔?おい裕翔!」
「秀哉?どうな…ってるんだ?腹が…熱いぞ…?」
腹部を見てみると、刃物が刺さっていた。
男は拘束されながら俺を見ている。
「男がお前に包丁を投げたんだ、今救急車がくるから持ちこたえろよ!」
「持ちこたえろって…そんなこと…自覚して出来るもんじゃないぞ…馬鹿な俺なんて…生きてても死んでも同じだろ」
「同じじゃない!同じじゃないから諦めるな!」
そう言われても、もう熱くもないし…意識が保ててるのがやっとだよ。
はあ、生まれ変わるとしたらこんな馬鹿じゃなくて頭のいい奴になりたいな。
《ならばスキルは【知識本】がいいかな》
なんだ?今の声?
「秀哉…なんか…言ったか?」
「同じじゃないって言ってるんだよ!」
「違う…その後だ」
「何言ってるんだ?何も言ってないぞ?」
「そうか…はは…幻聴でも聞こえたのかな…おれ、死ぬのかな」
「死なない!死なせないから!」
《転生はするよ》
…ほんと誰なんだよお前…
「はは、うるさいやつだ…もう…眠いのに寝れないじゃんかよ…」
「寝るな!?寝るなよ!?寝たらダメだぞ!?」
「はは…うるさいって…秀哉、妻を…大事にしろ…よ…」
「裕翔?おい裕翔!裕翔!」
「……」
「裕翔!裕翔おおおおおおおおお!」
この日、俺は死んだ。