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あ、小鳥  作者: 一滴
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2 ネコのお願い『ゴブリンの目玉』

主人公はヘタレです。


 クロネコは屋根の上をゆっくり歩いて行く。

 僕は家の屋根に何とか登ってついていく。

 皆が寝静まった夜に家を抜け出して屋根を歩くのはドキドキする。

 月が綺麗だ。

 夜は外に出ないで寝なさいと言われているけど、もう出てきてしまった。


(ちょっとぐらい、いいよね?)


 クロネコは体が真っ黒だから闇夜に溶け込んでついていくのに苦労する。

 月の光が照らしてくれなかったら絶体見失うだろうな。


 何だろ? この光景少し前に見た気がする。何時だったかな?


 クロネコが不意に屋根から降りた。

 僕は飛び降りれない。

 ネコ君、僕はどうすれば?


「……あ」


 少し進んだ所にハシゴがある。

 何でこんなに都合よく?

 ……まあいいや。


「ごめん、すぐ行く」


 クロネコは路地裏に続く道に入っていった。

 路地裏の中に入って行くクロネコにそっと付いていく。

 ほぼ完全に影に隠れて見え辛くなっちゃったけど、金色の目が光っていて少しだけ見える。

 右に左に折れ、時々小さなトンネルを潜る。

 階段を降りて上がって植物が勝手に伸びている壁を登ってまた階段を上がる。

 暗い。

 月の光が雲に隠れた。

 でも十分闇に目が慣れたからか、何とか付いていける。


 いつの間にか降りていた階段と暗いトンネルを抜けたとき、不意に視線が晴れた。


「うわあぁ……」


 ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコだらけ。

 町の大通りの広場みたいな場所に数百のネコがいる。

 大小模様彩り種類、見事にバラバラ。

 さらにおかしいのが、皆人種語を喋ってる。


「またゴブリンが増えだしたに~」

「冒険者の活躍だね」

「……お手並み拝見」

「北の森では雪花種が大量発生だよ」

「うわあ、寒そうだにゃ~」

「寒いのキライ」

「南はまたあの緑さんだよ! また同志を助けてくれた!」

「ああああ、あの人になら正体をさらしてもいい。いや、むしろ全てをさらしたい! そして撫でられたい!」

「ウム、既に何人か狙ってるらしいよ? 早くこっちに来ないかな~」

「会いに行こうかなー?」

「ダメダメ。あっちは今空龍様がいるからねん」

「あ~そりゃダメだ」

「代わりに蒼い鳥と彼が近くに来てるよ~?」

「アイツら空龍様を嫌ってるから私も嫌い!」

「それより、あの騎士だよ! 何なのアイツ!? ベタベタ擦りついてきてうっとおしい!」

「「「「「諦めろ」」」」」


 情報交換ってやつなのかな?

 普通ネコってしゃべらないのに。


「連れてきました!」


 そんな中、僕が付いていったクロネコが皆に声をかけた。

 瞬間、一斉にネコ達皆がこっちを向く。

 そして一斉に耳まで裂ける三日月の笑みを浮かべた。


「ようやく来たね、我々の下僕よ。手始めに我々の言うものを持ってきてもらいたいのよね?」


 一言で言って不気味だ。

 突っ込みたい所が多い気もするけど、僕は早速付いてきた事を後悔し始めていた。

 目の前の真っ白なネコからお願いされた。下僕とか言われたし。


「我々は今やりたい事があってね? そのために少し人間に協力願いたいのよね?」

「何故僕?」

「君はそこのクロネコを見ることができるし我々と話ができているからよ?」

「何故下僕?」

「下僕は下僕よ? 下等生物」

「……」


 ネコに下等生物って言われた。

 かなり凹む。


「君にお願いしたいことはたくさんあるけど、まずゴブリンの目玉を持ってきてもらいたいのよね?」

「まだやるって言っ……」

「今夜中に持ってきてね?」

「僕ゴブリンを倒したことな……」

「なるべく綺麗な目玉を持ってきてね?」

「あの……」

「出来れば十個は欲しいわね?」

「……」

「ちなみに我々には変身能力があってね?」

「……?」

「明日の朝、裸の君に化けて町中を走り回ろうと思ってるんだけど……」

「何としてでもゴブリンの目を持ってくるから止めてください! お願いします!」


 そんな事されたらあの子にも絶対見られる!

 そうなったら僕、死ねる!


「「「「「残念無念……」」」」」


 皆本気で残念そうな顔するのマジ止めてくれません?

 でも今夜中にやらなきゃならないねんて。

 少しのお出掛けが大変な事に。


「やります。やりますけど、ゴブリンをどうやって倒せばいいんですか? 僕ゴブリンを見たこともないんですけど」

「一人お供を付けるから彼女に聞いてね? じゃ、よろしくね~?」

「「「「「よろしくね~?」」」」」


 イヤだーーーーーー!

 正直もう帰りたい!

 来るんじゃなかった!

 親の注意聞いとけば良かった!


「さあ、いきますよ。南に森がありますから、そこでゴブリンを狩ります」

「イーヤーだーーーー! せめて心の準備をさせてーーー!」


 さっきまで案内してくれてた黒い体に金色の瞳のネコに首根っこ掴まれて引きずられていく。

 ネコが二足歩行!? 

 じゃなくて、何でこんなに力強いんだよ!?

 あんたがゴブリン仕留めに行けばいいでしょ!

 何でわざわざひ弱な僕がこんな事に?

 何だかこのクロネコ凄く堅いし。ちょっと苦手かも。

 いや、この一瞬でネコ全部に苦手意識ができたかもしれない……


 広場を出てトンネルを通った途端、僕の首根っこを掴んでいたネコが月に照らされた途端に人間の女性になった。

 ネコの獣人みたいにネコミミと尻尾が無い。

 見た目、二十歳過ぎの若い騎士みたいな女性。さっきまでの堅い口調がピッタリ。全身黒一色の服を着て、金色の瞳、ブーツ、ズボン、黒シャツ、腰の上まで伸びた黒髪を頭の後ろでくくっている。

 カッコいいかも。


 とか考えながらしばらく引きずられていたらいつの間にか森の中まで来ちゃってた。

 デコボコだらけの森だ。地面は隆起して所々藻が生えてる。岩が地面を突き破って地上にたくさん突き出てる。背の高過ぎず低すぎない木々が絶妙に月の光を(さえぎ)ってるから暗いし怖い。

 武器無し。

 知識無し。

 経験無し。

 やる気無し。

 森に入ったの人生初。

 ヤバイ、シンジャウ、カエリタイヨママ!


「この先に三匹います。そこら辺の石でも本気で投げつければ大丈夫です。以上」

「ちょっ、それだけ!?」

「では、」

「では、じゃなくて! ってもういない!? 本当に武器も無し!?」


 気付いたらもういなくなってる!

 酷いよ、いきなり森の中に置いてけぼりなんて!


「ってぎゃあああああああああ来たあああああああああ!」


 ゴブリンが木の間から本当に三匹出てきた。

 見た目キモい!

 それ以上に怖い!


「ぎゃあああああああああああ!」


 もちろん逃げる。

 だって死にたく無いんだもん!

 涙も鼻水もお構い無しに全力で逃げた。

 木々の間を走り抜く。ジャンプして段差を飛び越える。岩の後ろに隠れ……ようとしたら先客!……じゃなくて先ゴブ!

 びっくりし過ぎて岩を飛び越えちゃった。

 って岩の向こうには三匹いたからこのままじゃダメだ。なんとか岩の上に着地ぎゃああああ十匹位に増えてる! 囲まれてる!


「……プククッ……申し遅れましたがここはゴブリンの巣穴です。騒げば騒ぐほど寄ってきますからご注意を」


 おいいいいい今笑ってたよね!?

 遠巻きから高みの見物とかじゃないよね!?

 僕をゴブリンの餌にするつもりじゃないよね!?

 って、巣穴に放り込まれたの僕!?


「貴方が何故下僕として我々に選ばれた理由ですが、」


 大きい岩の上でゴブリン達をしのいでると、のんきにさっきの質問に答えだした。


「まず我々ネコが出した条件に貴方が当てはまったから」


 ヤバイ、ゴブリンの数が二十匹に越えた。


「そして貴方はネコの我々を差別しないから」


 ぎゃあああやめてえええええ岩を壊そうとしないで!


「最後に扱いやすいからです」

「ザケンナコンチクショウ!」

「後、あえて言いませんでしたが貴方には『加護』を与えましたからゴブリンに噛まれても叩かれても死にませんよ?」


 ………………え?


「プッ、気づいてませんでしたか。貴方が泣きながら森の木々の間を走り抜けるとか、そんな大岩をジャンプで飛び越えるとか出来る訳無いじゃないですか」


 そう言えば……。


「とっととゴブリンの目玉をえぐって帰りますよ、この下僕」


 ムカつく!

 コイツムカつく!


「うおおおおおおおお!」


 もうやけくそだ!

 岩から飛び降りゴブリンを飛び越えて地面に着地。

 おお、本当に体が軽い。

 でもゴブリンであっても生き物殺す事はまだ、何だか気が引ける。

 とにかく逃げる!


「ガアアアアアア!」

「ゴウオオオオオ!」

「ぎゃああああああああああああ!」


 たとえ、いくら噛まれても叩かれても死なないと言われても、実際に身長一メートル位のキモいモンスター(現在30匹)に囲まれて噛まれたり叩かれたりするのは、イヤだ!


「ほら、何してるんですか? さっさと倒して目玉をくりプッ……ン"ン"ッ、くりぬいて帰らないと明日の朝起きられませんよ、このヘタレ」


 楽しんでる。

 絶対楽しんでる!

 今コイツ笑いこらえやがったし!

 逃げるにしても帰る方向判らないし、大人しく帰しちゃくれないだろうし。

 どうすればいいんだよ!


「ゴブリンなんて倒しても倒してもすぐまたわき出て来るキモンスターなんですから、倒しても誰も悲しみませんよ。むしろ喜ぶでしょう。冒険者の仕事の手伝いとでも考えてとっととやりなさいこのヘタレ下僕! 段々飽きてきましたから!」

「本人の、前で、堂々と、飽きたとか、言うなああああああ!」

「「「ゴアアアアアア!」」」

「わああああああ、来るなあああああああ!」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、がむしゃらにそこら辺に落ちてる石ころを掴んで投げつけた。


ドパパパパン!


 投げ捨てた石が目の前まで迫っていたゴブリンを四匹ぐらい貫いて森の奥へ消えていった。


「……」

「「「……」」」


 双方沈黙。

 一瞬何が起こったのか判らない様に両方止まってしまった。


「だから言ったでしょ? 貴方には『加護』を与えました、と。すでに貴方は素手でゴブリンを殺せるのです」


 静寂の中、妙に無機質に聞こえる彼女の声が響いた。


「速くしろ」


 その妙に冷たく感じる声が聞こえた瞬間に、僕は行動していた。何だか命令を聞かないと大変な事になる気がしたから、とかは考えない。うん、考えない。何か負けた気がするから。

 そこら辺に落ちてる石を手当たり次第に投げつける。

 目を開いて見てみれば、投げつけた石は見たこと無いスピードで『パンッ』と言う音をたてながら飛んでいき、ゴブリンをミンチにしていった。


「さ、綺麗にえぐれた目玉を拾って帰りますよ」

「……ちょっと思ってたけど、グロい言い方するよね?」


 またいつの間にか姿を表した彼女が目玉を拾って袋に入れていく。

 散乱しているゴブリンのミンチから目玉探して持っていく美人の絵はなんと言うか、恐ろしい。

 初めて生物を殺しちゃったけど、なんだか実感が湧かない。何で?

 それよりゴブリンの死体の臭さが気になる。グロい以上に臭いんだな。ゴブリンは汚いって事は知ってたけど臭いのは知らなかった。鼻がまがりそう。

 オエッ…………ン?

 何? これ。ゴブリンの死体の中にビー玉みたいな物がある。何処かで見たような。


「あ、それ魔玉ですね。我々はいらないので欲しければどうぞ」


 魔玉、たしか市場で結構高く売られてた覚えがある。

 苦労した自分に少しでもご褒美あげてもいいかな?

 いいよね?

 貰っちゃお。


 その後、僕は(・・)帰るため森の中を迷いなく歩いていく彼女についていっていた。

 ヘトヘトだ。

 色々走ったり、隠れたり、転んだり、叫んだり、飛んだり、投げたり、普段絶対しないことをこの一夜でお腹一杯経験した。正直もうたくさんだ。

 帰って寝たい。

 げんなりしながらついて行くと、不意に前を歩いていた彼女が立ち止まってしゃがみこんだ。


「何してるの?」

「調べなければならない事があります。しばらくお待ち下さい」

「……どれくらい?」

「後4ヶ所程」

「……」


 僕は、何時、かえ、れる、の?


「フフフ、だから早くしなさいと言ったでしょ?」




 広場に戻った僕を待っていたのは、


「「「「「ア~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」」」」」


 ネコ達の大爆笑だった。

 皆僕の逃亡劇の話で盛り上がっている。全員見てたらしい。

 もう一々突っ込むのもおっくうになってきた。

 帰……


「……」


 空を見て気がつく。

 空が明るくなりだしてることに。

 それはつまり何時も起きる時間に僕が家にいない事が家族にバレたと言うこと。


 母さんおこ。

プラス

 父さん激おこ。

プラス

 妹げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム。


イコール


 ……………………考えたくない!!!


 僕は青くなり出している空に向かって静かに、泣いた。

 あ~人間って全てを諦めた時は自然と笑顔になれるんだね~。

 うふふふふふふふふふふふふふふふふふ……ハァ

ありきたりな主人公TUEEEですね。

まだ序の口なので、今後に期待。

ちなみに強さはまだ弱い方です


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