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あ、小鳥  作者: 一滴
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人魚は歌うのが好き

文章力が欲しい

 一部の綺麗な海。

 人間が町を造りそこからさほど遠くもなく近くもない場所。

 そんな場所に『人魚族』は住み着く。

 大体5から10匹で群れを作り生活している人魚は、メスしかおらず繁殖に他種族のオスを使う。主に人間のオスが標的で愛で結ばれた事は無いとされている。できないのではなくやろうとする者が人魚族に現れないだけなのだが。


 ではどうやって人間のオスを誘い込むのか?

 単純に美と歌と熱とテクと催眠魔法だ。

 歌で気付かせ耳を奪い、美で相手の目を縛り、催眠魔法で頭の中を自分達で埋め付くしたら、後は抱きついて濃厚で熱いキスでもしてやれば堕ちない男はほとんどいない。後は堕ちた男に群がってテクで絞り尽くすのみ。

 ちなみに捕まった男は色々搾り取られた後、彼女達の食料となり骨まで残らない。実にエコな生き物だ。

 寿命は個体差がかなり大きく、20未満の者もいれば300の者もいる。寿命の違いは絞った量の差であり、より多く搾り取った人魚はさらに美しく艶を持った個体に成長する。何百年と生きた人魚はそれこそそこに存在するだけで様々なオスを心身共に捕食する。

 ちなみに彼女達人魚は老けない。搾り取れなければ死ぬだけだからだ。

 そして人魚の知能は人間の少し下。

 具体的には自分の欲をあまり我慢できない。つまり人魚は少し我慢できる者がリーダーに、それ以下は我慢しない獣として人魚の社会は構成されている。

 簡単な会話ができる程度の知能しか持たない。

 よって人魚達は日中やることと言うと食べること、寝ること、搾ること、歌うこと、遊ぶ事、排泄する事。大体これぐらい。

 特に歌っている時間と遊んでいる時間が多い。そのため歌は非常にうまく、人魚達自身も歌を好いていた。


 故に、セイレーンがやって来た時は、入り江にいた人魚達に小さな波乱を呼んだ。

 そのセイレーンは突然現れ歌った。

 その瞬間、人魚達だけじゃなく全ての周囲の生物の感覚全てが奪われ、歌った。

 小鳥達は歌い踊り、魚達は自分達の体で模様を描き、大地は花を咲かせ、日は一層輝き、海の波はリズムを刻み、人魚達は自然にセイレーンと歌とリズムと音色と自分達の美声で曲を奏でた。

 セイレーンを中心に自然が一つになって歌い踊った。


 それから人魚達は大きく二つに分かれた。

 片方はセイレーンと共に歌を楽しむ単純思考な者達。

 もう片方は中途半端に頭が良いせいでセイレーンに嫉妬した者達だ。

 自分達より(はる)かに美しく強く格上の美声を持つセイレーン。

 どれだけ嫌っても結局一緒に歌ってしまう事が悔しかったのだ。

 嫉妬した人魚達の筆頭は100年生きたここら辺の副リーダーの人魚で、知能は人間でいう10才の子供程。人魚で言ったところのプライドが高くて死にやすい年頃だ。


 彼女はセイレーンにここから出ていって貰おうとけしかけた。けしかけたと言っても会話自体があまり出来ないから態度で示す。

 具体的に危険な魚や毒を持った生き物を投げつけたりした。


「りゃああああ!」

「ッ!? …………?」


 しかしセイレーンに毒は効かなかった。


 今度は美貌で勝負しようとしたがセイレーンの歌っている顔を見ただけで撃沈。美しすぎる。

 戦闘力で張り合おうとしたら夜中に人間の少年に向かって音波の衝撃波を浴びせてるところを見てしまいそそくさと退散。


 結局一緒に住むことが決まってしまった。

 まだ不満な者もいたが、反対するなら仲間達の和を乱すとして食料になるか出ていくということで決定した。

 そうして、セイレーンはこの海の海岸付近に住み着くことになった。

 セイレーンがここに住むようになってからほとんどの者達が楽しい日常を送るようになったのも事実。余計に追い出せなくなった。

 毎日セイレーンは時間があったり気分が乗ったりした時は、歌って皆を楽しませた。

 しかもセイレーンは歌を邪魔された時は怒り狂って邪魔したものを撃退したお陰で、ここら辺の海岸線は人魚達にとって人間の被害が少ない非常に安全な場所になった。

 余計に人魚は仏頂面になったが。


 そんなある日、まだセイレーンに煮え切らない思いがある人魚が倒れた犬を撫でるセイレーンを見つけた。セイレーンが撫でる犬は既に死にかけていた。

 人魚にはセイレーンが困っているように見え、セイレーンの隣まで移動して瀕死の犬を一緒に覗き込んだ。


 セイレーンは、悲しい顔と言うよりは困ったような顔をしていた。それは死というものがまだよく知らなかったからだ。

 この犬はこのままほおっておいたらどうなるのだろう。瀕死の状態は苦しいのだろうか。昔の自分もそんなことがあったような。私もあのままほうっておかれていたらこの犬と同じようになっていたのだろうか。

 セイレーンの心は混乱していた。

 そのセイレーンを人魚は笑う気にはなれなかった。

 わからない。わからないけど、人魚はイラついた。理由がわからないのにイラついていた。セイレーンがいつものように歌っていないこの状況が気に入らない。

 やがて、憂さ晴らしかそれとも応援か、人魚はおもむろに歌い出した。

 なぜそんな事をしだしたのか、セイレーンは人魚が理解できなかったが、それでも追随して歌い始めた。

 いつものように自然の輪ができる。相変わらずの人魚とは次元が違う影響力だ。

 気分が乗らない今のような状態でもそれなのだから、歌いながらも人魚は嫉妬したが、その日の輪はその人魚とセイレーンが中心だった。


 そしてそこに迷い混んだ者達が現れた。


 エルフ、妖精二匹、そして人間の形をした何か。

 この者の周りには信じられない生命エネルギーと魔力を持ち、強い妖精が付き従っていた。

 エルフは静かに、とても美しい表情でこの光景を観察していた。

 セイレーンも人魚も他のモノ達もこの者がただの人間に思えずしばし唖然として歌を止めかけてしまったが、その得体の知れない者は歌に合わせて腕を振った瞬間、植物が光とエネルギーを放出し周りをさらに照らしあげた。

 周りがエネルギーで満ち溢れ、妖精達が瀕死の犬の傷を舐め始める。

 エルフは弓を取りだし魔力で糸を造り、ハープにして奏でだした。

 セイレーンも人魚も雰囲気に合わせて再び歌った。

 いつの間にか得体の知れない者を中心に光が回り、セイレーンと人魚を中心にメロディーが渦巻き、犬は完全に傷を治した。


 その犬はひとしきりお礼を言うように吠えた後、去っていった。

 得体の知れない者達はその場に少しとどまり、人魚達やセイレーンと楽しく歌って過ごした。

 そして次の日の朝には忽然と姿を消していた。

 若干人魚達が人間の形をした者を熱い目で見ていたが、セイレーンも記憶力の乏しい人魚もこの時の不思議な出来事は記憶に残っている。

 とても不思議で、とても楽しく気持ちよく歌ったあの時間。


 叶うなら、また会って一緒に歌いたい、と。


 その数十日後にまた会うことを知らずセイレーンと人魚達はあの者と再び歌う事を恋い焦がれ待ち続けた。

読んでくれてありがとうございました!

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