短剣の体験 (笑)
大幅修正。
すみません。
地中の奥深い底のさらに下の下。
ゆっくりとマグマが流れている。
その一部が溜まりだした。
マグマはエネルギーの塊。
貯まればエネルギーを逃がすため、上に向かって発散される。
そうして地上にまた一つ火山が出来上がった。
流れ出たマグマはやがて冷め、長い時間を掛けてただのマグマは固まり、結晶を造り、鉄分になる。
そして、それを堀り集める者が現れた。
猫だ。
猫は集めた鉄分を熱で溶かし金槌で叩いた。
型に流し込み冷ました後、研ぎ上げる。
そうしてただのマグマから掘り出された鉄分は短剣となった。
その猫が作った短剣に特別な能力は無い。
ただ叩いて作っただけのただの短剣。
長さ35センチの両刃の直刀。
切れ味は木の小枝を切れる程度。
本当にただの短剣。
その短剣は他の武器や防具と一緒に売りに出された。
露店に並び、特に変化することもなく、時間だけが過ぎていった。
そしてついに特に裕福そうでもない猫に買われることになった。
猫は冒険者として依頼を受け、短剣を遭遇したモンスター目掛けて投げた。
そして見事に外れ、木に突き刺さった。
「使えねえ!」
そう言って猫は回収せずに去っていった。
短剣は木に突き刺さったまま放置された。
長い年月が過ぎ、短剣は風化し、粉は砂鉄として風に流れていった。
砂鉄の一部だった鉄達は草に捕まったり、木々に引っ掛かったり、川に落ちたり……。
その内の一部がまたマグマに溶かされまた猫に拾われることになった。
熱して叩く。
今までと同じ。
ただし今度はロングソードだ。
量産品として騎士の武器として城から発注され一人の騎士の得物となった。
仕事熱心な騎士だ。
実力は他と大差はないが、付き合いのいい真面目な性格をしている。
手入れも完璧だった。
しかし運悪く任務でワイバーンに狙われ、騎士と剣はワイバーンのブレスで焼かれ死んでしまった。
ロングソードは騎士と一緒に原形も留めない程に溶けてしまった。
溶けた鉄はそのまま少しずつ風化して風にさらされちりじりに散布される。
そして一部はまた作り直された。
今度は『翼』だ。
空に夢見た犬が翼を欲した。
鉄の骨組みが作られ、羽の形に組あげられ、鳥の羽毛を繋ぎ会わせて翼が作られた。
魔法の力も手伝って、その翼は浮き上がった。
しかし、身動きの取り方がわからず転落。
犬は足を失った。
しかし、犬は諦めず、また新しい翼を作ろうと這いずりながら制作を続けた。
何度も失敗を積み重ねながら翼を作り続け、とうとう動かなくなった足に接続した翼で、再び空へと舞い上がった。
犬は満足した。
しかし、迎撃システムを考えていなかったせいで空のモンスターに食われてしまった。
鉄はそのまま地に落ちて風化した。
風に流され散布した。
一部熔解して流れていった。
一部再製造された。
破損した。
廃棄された。
風化。
散布。
一部熔解。
再製造。
破損。
廃棄。
風化。
散布。
一部熔解。
再製造。
破損。
廃棄。
風化。
散…………
時にはスプーン。時には釘。時にはハンマー。時には食料。時には金。時には柱。
雑に使われた。一度しか使われず放置された。モンスターの体内で溶けた。飾られたまま朽ちた。開花させられた。一生付き従った。
叩く者も違った。猫、犬、ドワーフ、リザードマン、スライム……
時には叩かれることなくそのまま他の鉄と混ざったり、山の奥で溜まり続けたり、魔力を取り込み結晶になったり、川に流され、海に流され、風に流され、砂に埋もれたりもした。
様々な姿にその形状や役割を変え続けたその鉄は、今度は人間によって鍛えられた。
高熱の炉でツボに入れられ、ドロドロの液体になるまで熱され、剣の型に流し込まれて形になる。
水で冷やされた後は、研いで磨いた後、文字が掘られた。
鉄の記憶を呼び覚ます、不思議な文字だ。
鉄の記憶は熱と叩き鍛えられたもの。
新たに作り上げられた短剣は、切りつけると同時に、熱と打撃を与える魔剣となった。
そして魔剣は、冒険者になったばかりの少年に握られた。
一生懸命貯めた金で買ったのだろう。
特に強いものがあるわけでもなく特別でもない彼は、自分の装備の手入れだけは怠らなかった。
丁寧に布で拭き、水で洗い、少しでも不備があればすぐ直そうとした。
特に自分の命を預ける魔剣には神経質過ぎるほどに手入れを行った。
少年は強くなった。
傲らず怠けず、ひたすらに邁進し続けたお陰だろう。
手入れには一層力が入り魔剣はいつもピカピカに磨かれた。
ランクも平凡の最高峰と言われるBまで登り詰め、少年は青年になっていた。
そして彼は、ある日、対人戦闘の経験のために盗賊狩りの依頼を受け、盗賊が根城にしている洞窟に入った。
そこで彼は、死んだ。
盗賊にも魔剣所有者がいたのだ。
角が生えていて顔に三本の傷がある若い男だった。
青年は魔剣を握り構えるが、到底届く実力差ではない。
敵はあらゆる意味で圧倒的過ぎた。
見事に魔剣は叩き折られ少年は殺された。
魔剣は再びマグマの中へと戻る。
数千度にもなるマグマに折れた魔剣はその身を完全に溶かしていった。
ある特殊なマグマに混ざり込んだ。
元魔剣が溶けたマグマは今までと違い、鉄分の濃度が他とは桁違いに多かった。
そしてマグマは地下深くで湖のように溜まり渦巻いた。
そこはある二人の男の住みかだった。
一人は人間ではなく『ドワーフ』。
もう一人は『サイクロプス』。
ドワーフは遠い昔から鍛冶を専門としてきた種族なのだが、種族全体として欠点がいくつかあり、その中でも特に『頑固者』と言うのが他種族との亀裂を深めていた。
その男も例外ではなく、彼は気に入った傑作でなければ売ろうともせず捨て去り、気に入った者にしか自分の作品を与えなかった。
そしてそのドワーフの頑固さは同じドワーフでさえ呆れる程だった。
そのせいで人間の世界にもドワーフの世界にも馴染めず地下深くに引きこもり、ここでもくもくと剣を造り続けていた。何十年になるかは本人も覚えていない。
サイクロプスはあまり口を開かない種族で表情が変わりづらく、目は三つで、体は大きい。
無口で無愛想に思われがちだが心は広く、ドワーフの様に初対面から突き放そうとはせず、人当たりも優しいく気に入った相手にはとても甘かったりする。
だが彼らにも頑固な所があり、気に入った相手以外の頼みは決して聞かない性格だった。脅されようとも、たとえ体を刻まれようとも、どんなモンスターの前に放り出されても考えは変えず、時には自分で命を絶つ。
彼はドワーフの彼と腐れ縁があり、ドワーフが外から去るとき一緒についていったのだった。ドワーフの彼も了承した。
この二つの種族は共通して義理堅く、なにより職人種族だった。
実はもう一人彼らとは腐れ縁の人物がいたのだがその者は、彼らが知り合った町を去ろうとしなかった。サイクロプスの彼はさそったのだが。
その昔、希代の鍛冶師と呼ばれていたうち二人の腕は、ここ地下深くで研磨され続けていた。
そこはマグマが熱く発熱したまま渦巻くマグマの泉。
周りはマグマで明るい。
彼らはそこから適当にマグマを拾い上げ金槌を振るっていた。そして、できた剣を品定めし気に入ったなら保存。ダメなら再びマグマの中へ投げ込むと言う作業を繰り返していた。
例の魔剣のなれの果ても拾い上げられ叩き鍛え上げられた。
叩く、叩く、叩く。
時々マグマに入れ、天然の熱とエネルギーで白く発光するまで熱し、叩く。
水で冷まし、再び熱して再び叩く。
その腕に魔力を込めて、思いを込めて、
時々土を塗って、
時々折り曲げて、
弱く、
強く、
優しく、
厳しく、
小分けに、
一振りに全てを込めて、
叩く。
水に冷ました後、ハンマーで粉々に粉砕してツボに流し込みドロドロになるまで溶かす。
溶かした鉄に混ぜ物をする。
モンスターの血肉、骨、外骨格、キバ。
一種類だけじゃなく様々な種類のモンスターの素材を溶かし込んでドロドロに混ぜる。
溶かした鉄を型に流し込み形を形成。
水で冷ましながら魔力で締め上げる。
形が整ったら研ぎ、終わったら磨く。
磨いた後は文字を彫る。
そしてまた磨く。
そうしてまた一振りの剣が完成した。
鍛え抜かれ柔軟化させた鉄をベースに、モンスターのしなやかで強い繊維を混ぜ合わせ柔軟な鉄をさらに柔らかくしなやかに折れづらくさせ、細やかなモンスターの繊維を使用したことで普通の鉄より鋭く切れ味も上がった。そして混ぜ合わせたモンスターの特性が色濃く剣に宿っていた。熱を操り、刀身のしなやかさを活かした変幻伸縮自在の熱剣へ。
昔の死んだ青年が使っていた短剣よりはるかに高性能な剣が出来上がった。
二人はここまで一言も互いに声を出さずに作業を終えた。
完成した剣を見て彼らは、眉毛を細めて言った。
「……ダメだな」
「……(コクン)」
ダメだったらしく再びマグマに捨てられた。
しかし、二人は自分達の捨てた剣の後のことを考えていなかった。
彼らの造る剣は純度、密度、精密度、そして性能と言った様々な点が他とずば抜けているせいでマグマ程度では簡単には溶けない。
そのせいで変わった事が失敗作達に起こった。
剣は彼に捨てられた後、一方向に、ある山の方へ向かって流れていった。
マグマの中を流れる最中、作った時に付いた独特のクセが剣の矛先を流れる方向に向けた。
彼らが剣を造る速度は常軌を逸している。故に、沢山の失敗作が集まり矛先を構えて一ヵ所に溜まっていた。
その数、数千以上。
それが、火山噴火する度に噴き上げられたる。
失敗作達はマグマの噴火やガス爆発に耐えられたり、耐えられず折れたりしながらも、矛先を上に向けたまま火山噴火と一緒に噴き出されたり、途中で土に突き刺さったりしながら地上に噴出した。
結果、剣は山に突き出し、山には剣の雨が降る事になった。噴火と一緒に噴き上げられ、空で矛先を下に向け、剣の雨を降らせて火山に突き刺さる。矛先を上に向けたまま山を剣山にするようになったものもある。
圧倒的な切れ味が火山に住んでいたモンスターに突き刺さり、その命を絶った。しかし、込められたドワーフとサイクロプスの魔力がモンスターを進化させ、固有種までが生まれはじめた。
火山噴火と同時に剣の雨を降らせ、火山に矛先を上に向けたまま突き出し、山にいたものを問答無用で貫き、モンスターはその環境に適応し進化した。
剣山はそのまま人間に『剣山』と名付けられ、固有モンスターが徘徊する名所となる。
あの短剣の成れの果ても、この何処かに……
その無数に突き出た名剣に、とある少女と老人が手をかけた。
おまけ if サイクロプスが反論した場合
「なぜ、ダメ?」
「まず素材を混ぜる時に順番を間違えてる。次にやっぱり叩く行程は素材を溶かした後にやるべきだな。叩いた分の粘りが無くなってる。後これ、アイツの作ったやつに似てる。アイツを思い出すからダメだ」
「……」
「……何だ? 製作者が気に入らないならいいじゃねえか!」
「……(ジー)」
「…………ああ、わかったわかった! お前の好きにしろ!」
「……(ニッ)」
「……フンッ」
サイクロプスがコレクションに完成した剣を飾って戻る。
ドワーフはマグマから鉄の塊を取りだしハンマーを構えた。
「次だ」
「……(コクン)」