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あ、小鳥  作者: 一滴
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強国の二大英雄 二人目

 大戦があった。

 そこで私は、強国最高の地位を得ていた。一時は二大英雄と呼ばれたこともあった。昔から魔法が得意で魔法を使うのが好きだった。特に生き物、取り分け人間に向けて放つのは楽しかった。敵国兵に向けて魔法を使うだけで武勲が勝手にあがっていく。気持ちいい。周りがおだてるままに魔法を使いまくった。敵を焼き、押し潰し、押し流し、痺れさせ、腐らせ、破裂させていった。

 二大英雄の片割れはただの筋肉ダルマだ。相手にもならん。近づかせる暇もあたえず、遠方から瞬殺できる。


 そう思っていたある日、その英雄の片割れが裏切った。


 理解不能だった。

 贅沢三昧、酒池肉林、女も金も飯もやろうと思えばいくらでも手に入る地位と武勲をなぜ捨てたのか。

 理解できないまま再び戦場で出会い、そして私は惨敗した。

 昔、何度か共に国王から武勲を受け取ったことがあったが、その時とまるで違う顔と目をしていた。私は、初めて勝てる気がしなくなった。少なくとも今の私にこの男を倒すことは不可能だ。そんな気がした。

 なぜ、どうやってそこまでの力を手に入れたと聞いたところ、「謝るため」だと言われた。ますます意味不明だった。謝るためなら人はここまで強くなれると? あり得ない! 納得できない! もっとしっかり説明しろ!

 苛立ちを治めるために酒を飲んだ。女で遊んだ。飯を食った。修行した。だが、どれだけやってもヤツに勝てるイメージがわかなかった。国をあげて造り上げた最高傑作の魔法の杖でも勝てる気がしなかった。

 とうとう私は我慢できなくなり、国を飛び出しヤツを騙し、誘きだし、卑劣な策を労して戦いを挑んだ。

 しかし、心のどこかでわかっていた、第二の敗北を経験した。

 納得できない。

 ただただ心のどこか勝てないことだけがハッキリしていた。

 唯一理由だけがわからない。

 なぜだ?

 なぜだ?

 なぜだ?

 敗北の将として、私は国に戻り、とうとう国は敗北。

 私は勝てない理解の解明に取り憑かれた。

 私がついぞ勝てなかったあの男。

 あの目、あの顔、あの言葉。


「謝るため」


 やはりわからない。

 わからないまま死ぬ訳にはいかない。

 まだ若いとは言え、このままではきっと死ぬまでわからない気がする。

 それだけはやるせない。

 ヤツの元を訪ねたが、すでにヤツは死んでいた。

 病気だったらしい。

 しかも、私が第二の敗北を知ったときにはすでに手遅れだったそうだ。

 なるほど、私は病人に卑劣な手を使い、しかも負けたのか。

 死んでからも私に敗北を教えてくれる男よ。

 死んでいてはしょうがない。

 答えが聞けないまま家を去ろうとした時、どうやらヤツの従者らしい若い女が、私に手紙を渡してきた。ヤツが私宛に書いたものらしい。

 どうやら予期していたようで、そこには私が求めていた答えが綴られていた。


『永遠とまで思えるほどの謝罪までの遠さ、そしてじっとしていてはいつか狂ってしまえるほどの罪悪感が、無限の力をくれた。これでもわからぬなら、諦めろ』


 私はこの男の罪悪感に負けたのか?

 罪悪感とはそれほどまでに力を与えるのか?

 敗北の将とは言え、私は一国の英雄だ。

 頭が空っぽなわけではない。

 私が今まで非人道的な行いをしてきたことも、ヤツが言いたいのだろう罪悪感の意味も見当も、ある程度わかっているつもりだ。

 だが、その程度のものに力が宿るのか?


 そうなのだろう。


 意味がまだあるのだろう。

 少なくとも、戦争を終わらせる程度の理由が罪悪感と謝罪には存在するにだろう。

 そうとしか書かれていないなら、そうなのだろう。


「探してみるか、この意味」


 そう決めた瞬間、少し気が楽になった。

 長い旅が始まった。

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