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あ、小鳥  作者: 一滴
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強国の二大英雄 一人目

 大戦があった。

 そこで俺は、強国の二大英雄の一人と言われていた。昔から力が強く、タフだったからだ。無尽蔵と呼べるスタミナと、どんな盾も鎧も城塞も紙っぺら同然にたたっ切る豪剣を持っていた。

 全て切ってきた。道を塞ぐものは戦闘員だろうが非戦闘員だろうが、老若男女一切合切蹴散らし、ぶっ殺し、踏み潰し、高らかに笑ってきた。ただただ思いっきり剣を振り上げて振り下ろす。それだけで全てどうにかなってきた。どうにもならないことなどなかった。

 二大英雄のもう片方は、俺と同じだけの功績を上げたからそう呼ばれているだけ。きっと戦えば俺が勝つ。

 俺は長い間進撃を続けていたんだが、ある日ミスった。

 敵の国もだてに俺たちと長いこと戦争をやってない。侮るべきじゃなかった。慢心が、俺を下らん罠にかからせた。

 このまま無様に死ぬんだろうと思っていたら、助けられた。しかも敵の国の住民に。貴族の食卓では絶対出ないような素朴で味の薄い、だがうまいスープをくれた。丁寧に手当てしてくれた。なにより、俺の顔を見ても怯えない。誰一人とは言わないが、その村にすむ住民のほとんどは俺を怖がらず、笑って大丈夫かと聞いてきてくれた。


 俺は、自分が敵だと言えなかった。


 怖かったからだ。

 怖い。

 ガキのころ以来の恐怖だった。

 戦場で恐怖を感じたことなどなかったのに。

 ただ口を開いて『俺は敵だ』と声を出すだけだ。剣を上から下に振り下ろすよりも簡単だ。

 なのに、できない。

 回復してからは村の仕事を手伝った。戦争中だから男手は全て国が巻き上げたんだろう。村には老人、女子供しかいなかった。だからスタミナも力もある俺は役に立てた。

 お礼を言われた。無邪気な笑顔で言われた。戦場で敵の体を両断するより嬉しかった。

 だが、役に立てば立つほど、心のどこかが締め上げられた。まるで昔、力自慢のために敵の兵士を生きたまま縄で縛り、腕力で強引に引きちぎった時のような、あの感覚。あの時の縄が今、俺の心臓の奥と繋がっているような感覚。俺が力仕事で村の住民の役に立てば立つほど、俺が力を入れているかのように心臓のどこかが締め上げられていく。戦場で敵兵の槍が内蔵を貫いた時よりイタイ。ビシビシとヒビが入っていく感覚。

 壊されたくない。壊されてはたまらない。どうなっちまうか想像ができないから。


 とうとう耐えられなくなって住民に話そうとした日、俺がいた軍の部下がそこの住民を皆殺しにした。


 たしか、「助けに来た」とか「敵国が攻めてきます」とか言ってた気がするが、どうでもよかった。

 心臓の何かが軋んだ音と一緒に破裂したことの方が大変だった。

 全部殺した。

 目につく何もかもを、近くにあった固いものを持ち上げて、引っこ抜いて、投げつけて、叩きつけて、ぶん殴って、とにかく目につく目障りな何かを破壊し続けた。

 今までのどの戦場より力がみなぎっていた。絶好調だった。

 だが、最悪な気分だった。何を口走ったか、何を叫んだか覚えていない。

 ようやく目の前から鬱陶しい何かがいなくなった瞬間、ようやく俺が今まで何をしてきたかを理解した。

 村の原形はなくなっていた。俺が破壊したんだ。近くにあった固いもの。例えば家とか柵とかをやたらめったら使っていれば村一つくらいは原形がなくなるのは当たり前だ。


 遺体は村人も兵士も全て埋葬した。

 墓を作ったのは初めてだったから下手な形になっちまった。

 俺はその場を後にした。


 許してくれと、すまなかったと、泣き叫んで地面に頭を叩きつけたかった。

 だが、謝罪できる権利はない。


 なら、まだ死ぬ訳にはいかない。


 もういい。

 もうたくさんだ。

 これ以上はさせねぇさ。


 この戦争は、俺が止める。


 そしたらさ、ようやく村の皆に謝りに行けそうな、そんな気がしたから。

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