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あ、小鳥  作者: 一滴
23/25

上には上の、さらに上がいる

「オラ、チンタラしてんじゃぁねえぞぉ!? ごりゅぁあ!?」


 現在地、山岳地帯の中間部。

 森を抜け、少し視界が開けた場所を、俺たち冒険者五人が隊列を組んで進んでいる。

 その先頭を歩いているのが、この言語が怪しくうるさいリーダー。


「あ”ー、うるせぇー……」


 聞こえないぐらいのグチの一つも言いたくなる。


「チックショウ、一人だけBランクだからって調子乗りやがって~……!」

「俺たちに荷物持たせて、一人だけ軽装備とか……」

「ハァ……、もう、ただのバカ」

「いつかたたっ切ってやる……!」


 現在、俺たち五人パーティーは、豚の魔物、『オーク』討伐依頼を冒険者ギルドから受けてこの山に登っている。

 俺たち大荷物持ちの四人はCランク。

 そして先頭のリーダーだけがBランクだ。

 ちなみに俺は大盾を背負った前衛。

 ちょっと前の依頼時に、Aランクの大先輩と同行してリーダーのアイツだけがあの人の推薦をもらい、Bランクに昇格した。

 あれについてはラッキーが大きかったと思う。

 たまたまトドメを刺しやすい位置にアイツがいただけなのに、大先輩は『運も実力』とか言ってヤツだけを冒険者ギルドに推薦した。

 その結果が、


「さっさとごいや、ごるぁあああ! 俺! が! B! ランクのリーダーなんだからなぁあ!?」


 これである。声が裏返ってマジうるせぇ。

 そろそろオークが出たと言う森に着くのに、そんな大声じゃ俺たちがここにいると大声で知らせてるみたいなもんだ。

 冒険者の基礎まで忘れたのか?


「ありゃあ、早死にするな……」

「言えてる」


 たとえもう、アイツか死んでも俺たちは悲しまないだろう。

 仲間意識は今までのアイツの増長行為で消し飛んだ。

 酒癖悪い。横暴な態度。町中で剣を振り回す。警備騎士に何度世話になったことか。

 特に、町の冒険者ギルドに期待の新人が来たときは、荒れた荒れた。

 最近太りだしてるし。

 この依頼が終わったらパーティー抜けよ。


「おいっ……」


 仲間の一人が、声を潜めて声をかけてきた。

 魔物か?


「ん? どうし……」


 指を指す方向に視線を向けて、ぎょっとした。 


「……ゴブリン?」


 Eランク試験、いわゆる冒険者登録試験、御用達(ごようたし)の小鬼とも称される魔物だ。

 大抵どこにでもいるから、見ても特に驚きはしないが、ソイツはちょっと変だった。


「単体だ。ハグレじゃないか?」

「いや、小汚なくないぞ? 上位種じゃないか?」

「座禅? 組んでる……」


 通常のゴブリンは真っ裸が基本。

 着ていても、布、と言うかボロ布を腰に巻く程度。

 なのにソイツは全身に巻かれた綺麗な布と、肩にかかるマントかフードらしきものを身に付けて、長い木の棒らしきものを持ち、岩の上に座禅を組んでいた。

 シワ一つ見えないその顔は、今まで見てきたどのゴブリンよりも優しい顔に見えた。

 木漏れ日の光が指していて、どこか神秘的にさえ見える。


「殺すぞ……!」


 小太リーダーが圧し殺せていない声でそう提案してきた。

 血の気も多くなってきてないか?


「てめぇら、準備しろ!」

「……」

「おい!」

「……止めとこう」

「あぁあ!?」

「俺もそれでいいと思う」

「俺も」

「賛成」


 なんだかこの小太リーダーより礼儀正しそうなあのゴブリンを殺すのは、なんだか気が乗らない。


「おい!?」

「ほっとけって。討伐しても小遣いにしかならない」

「だな。リーダーもゴブリン一匹に時間使うより、女抱く方に時間使いたいでしょ?」

「チッ、とっとと行くぞ!」

「ヘイヘ~イ」

「ちょ!? 心変わり早すぎじゃね!?」




 オーク。

 Cランクになってからようやく依頼を受けることができる、暴食のブタ。

 正直Cランクになったとしても単騎で討伐はキツイ相手だ。

 まあ、五人いればそうそう遅れは取らないと思うが、三匹いたら無理だ。

 ばか力と、大人2分はゆうにある巨体。

 脂ぎってて刃物は使いづらく、腹がでかくて脂肪が厚いから打撃も効きづらい。

 だから主に、大盾で攻撃をしのぎながら魔法で焼くのが定石とされる。

 幸い頭はよろしくないから大丈夫だろ、とか思ってた。


「舐めてたわ」

「ぎゃああああああああああああああ!?」


 あ、リーダーぶっ飛ばされた。

 森に入ってしばらくすると、依頼書で読んだ通り、オークがいた。

 ちょうどイノシシを仕留めたところらしく、美味しそうに共食いしてたから不意打ちかました訳だが、いかんせん火力が足りなかったらしい。

 最初から一撃では無理だろうと思ってたから、魔法使いは二人つれてきていたが、なんと四発食らわせてもまだピンピンしてやがる。


「え~っと、オークってこんなに耐久力あったっけ?」

「いや、無いはずだ! こいつはちょっと異常だぞ!」

「大きさも力も、この前ヤったヤツより上だし、コイツ明らかにオークの上位種だ!」

「魔力はまだ大丈夫か!?」

「大丈夫。まだ五発いける」

「こっちもだ!」

「よっしゃ、もう一発やったれ!」

「「おう!」」


 Cランクともなれば、その魔法の威力もある程度強くなる。

 風と炎の魔法が、オークにもう一度着弾した。


「やったか!?」

「ちゃんと食らったはずだ!」

「油断すんな! 盾は構えてろ!」


 炎の中でまだもがいているオークが見える。

 もう一発準備させるか。


「もう一発じゅん……」

「ちょっと待て!」


 ん? ここで止めるか?


「どうし……」

「上だ、避けろおおおお!」


 疑問なんて挟まず、とにかく後ろに向かって飛んだ。

 まばたきの半分ぐらいの時間を挟んで、突如煙を上げるオークの頭上から巨大なドロドロしたクモが襲いかかった。


「泥グモだあああああ!」

「泥グモってなんだ!?」

「実力中位のバケモノだ! 下位のオークの倍は強い! 逃げるぞ!」


 下位種であるオークは、冒険者Cランクで討伐許可が出る。

 それは上中下の三つに分けられた魔物の強さの中で比較的弱い分類だからだ。

 だが、中位種になると討伐許可は、Aランクでなければ下りない。

 Bランクをすっ飛ばしてAランクの天才、人間のバケモノ集団じゃなければ討伐は不可能とされる。

 ようはCランクの俺たちじゃ束になっても勝てないってことだ。


「逃げろ、走れええええええええ!」

「クソッ!」

「何でこんなのいるんだよぉ!?」


 山の中とは言え、町から一日もかからずたどり着ける場所に中位種が現れた。

 これはすぐにでもAランクの大先輩を呼ばなければならない案件だ。

 今すぐ冒険者ギルドに戻って報告しなけれならない。

 だが、それだけでは終わってくれなかった。


「……は?」


 それは誰の口から出た声だったのか。

 オークを押さえつけ、その肉に食らいついていた泥グモが、左右に真っ二つに切り裂かれたのだ。

 一刀両断だ。

 初めて見た。

 ついでみたいに下にいたオークもぶった切られてるし。


「無事?」

「キュゥウウウウウ」

「誰だ!?」


 背後から少年の声と魔物の声が聞こえて反射的に振り替えると、町にいるはずの新人の小僧がいた。

 そしてそいつの肩には、見たこと無い蒼い羽を持つ、綺麗な鳥が乗っている。


「ギルドから警報、です。ワイバーンの群れが接近してい、います。早く逃げろ、ください」

「……敬語、下手だな」


 単文のぎこちない敬語で警告された。

 なんか和んだ。

 が、話の内容を理解して再び血の気が引いた。

 ワイバーンの群れ。

 それってたしか、


「ワイバーンって、Aランクの冒険者数十人で当たる大事件じゃ……?」

「……」


 新人が突然黙り込んだ。


「どうした?」

「……遅かった。もうそこまで来てる」

「は?」


 そして新人が空に向けて指を指した先の光景を見て、背筋が凍った。


「あ、はは……」

「嘘、だろぉ……」

「イヤだ、し、死にたく……ない」


 最初は鳥の群れに見えた。

 でもすぐにそれがワイバーンの群れだとわかった。

 Aランクが総出で事に当たる、町どころか小国一つ落ちると言われるワイバーンの群れ。

 聞いたときは冗談だと思った。

 でも、冗談じゃなかった。

 むしろ冗談だったらどれほどよかったことか。


「こんなの、どうしろって……」

「走れ!」


 風が吹いた。

 隣から。


「キュァアアアアアアアアア!」


 蒼い鳥が全身を輝かせながらワイバーンの群れに突っ込んだ、その余波だった。


「逃げろ! 時間を稼ぐ!」

「は……はぁ!?」


 新人がワイバーンの群れの方向へ走り出しながら俺たちに叫んだんだと理解するのに、ちょっとかかった。


「じ、時間稼ぐって、どうする気だよ!?」

「アイツら食い止める!」

「食い止めるって……」


 新人の小僧。

 冒険者ギルドは十歳から登録が許される。

 そしてコイツは、見た目は完全に登録ギリギリの外見をしていた。

 ボロボロの服とバッグ。

 ボサボサの蒼と灰色の髪が交互に入った変わった髪の、目の座ったガキ。

 うちのリーダーも含む数人がケンカを売ったが、のらりくらい避けられてその時はお流れになったが、この小僧の成長は早かった。

 今ではすでにBランクだ。

 リーダーが嫉妬で怒り狂ってたからよく覚えている。

 だが、


「お前一人で何になるってんだよ!?」

「そうだよ、一緒に逃げよう!」


 小僧はとっくにワイバーンの群れの方向へ走っていってしまった。

 もう遅いにもかかわらず、とっさに引き留めようとする声、止められなかった。


「大体ガキ一人置いて俺たちだけ逃亡とか、笑い話にもなんねえよ! 一緒に逃げ……」


 そして、もう目が見えるくらいまでワイバーンが近づいた瞬間、群れの一匹に向かって人の形をしたなにかが飛んだ。


「……」

「……」

「……」

「………………(あんぐり)」


 そして、ワイバーンが一匹打ち落とされた。

 言葉を失った。

 Aランクの大先輩と仕事をしたことはあったが、そこでもAランクの実力は底知れないとしかわからなかった。

 Bランクと俺たちの実力差でさえ、具体的に理解できていない。

 だが、これだけはわかった。

 目の届く距離で、ワイバーンの群れに突っ込んでいったあの小僧、明らかに俺たち以上、BランクどころかヘタすりゃAランクもありうる実力者だ。


「フンッ!」

「キュァアアアアア!」


 どうやっているのか、小僧はジャンプ一つで上空のワイバーンに急接近し、殴る蹴る体当たりするなどして、地面や他のワイバーンへ向けてぶっ飛ばす。それを何度も繰り返し、たまにワイバーンから他のワイバーンに飛び移ったりしながら直実に数を減らしている。

 相棒なのか、空に溶け込んでほぼ見えない鳥は、羽ばたく瞬間何かしているのか、ワイバーンに向けて羽ばた分だけ、その方向の数体が体勢を崩したり傷ついたりして、小僧を的確にサポートしている。

 正直人間技に思えない。


「でも……」

「ああ、それでもワイバーンの数が多すぎる」

「100じゃきかないよな……?」

「500は確実にいる」

「あ!?」


 新人の鳥が、ワイバーンの集団放火で焼かれた。

 ワイバーンって火も吹けるのか。

 しかも新人もワイバーンの物量に圧されだした。

 助けてやりたいが、


「実力差のありすぎる戦いは離れなければ逆に邪魔だ!」

「逃げろ逃げろ逃げろ!」

「実力の違いすぎる連中に歳や外見は関係ないって先輩に言われてたけど、その意味が今になって、やっとわかったな!?」

「はは、足下にすら及ばねえな、俺たち……」


 見捨てる訳じゃない。

 もっとも賢い選択だ。

 実力差がありすぎるとわかっているなら、なりふり構わず逃げるのが一番の手助け。

 そもそも、ワイバーン数匹がコッチに気づいて飛んできている。

 一匹でも勝てる気がしないのに、パッと見て十匹はコッチに来てる。

 勝てるわけがない。


「あの新人にゃ悪いなが、感謝して逃げさせてもらうぜ!?」

「あんな戦い、参戦する気も起きねえよ!」

「ってか、助けてくれええええええええ!」

「ぎゃあああああ、来たああああああ!?」


「「「「ギュアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」


 すぐ真後ろで地面に何かがすごい勢いで衝突するような音が聞こえた。

 脇目もふらず、無意識に走る足に力が入る。

 振り返ればすぐそこに自分からを殺せる魔物がいると思うと怖くて怖くて、顔がひきつる。


「ギャッ!?」

「えっ?」


 そして、続いて聞こえたあまりに場違いな間抜け声に、思わず後ろを振り返ってしまう。

 しまった! と思いながら目にした光景に今度こそ足が止まった。


「ゴゥブ」

「キュゥウ……」

「……は? ゴブリン???」


 そこにいたのは、地面にできた小さなクレーターに半分ぐらい顔を埋めるワイバーンと、その頭に乗っかる服を着たゴブリンだった。


「コイツ、さっき座禅組んでたゴブリンじゃ……?」

「え、あ。……あ?」

「……夢?」

「……」

「ギャッギャッギャッ!」


 そのゴブリンは俺たちの顔を見て、笑ったようなしぐさをした。

 よほど間抜け面だったのだろうが、だれでもそうなると思う。

 魔物の中で最弱と言っていいキモ汚い、クソ小人。

 そいつが単体でBランクのワイバーンを踏み潰して足蹴にしているのだから。


「ッ! ヤバイ!」

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ワイバーンは一体ではない。

 他のヤツらが、怒ってコッチに口を開けて突っ込んできた。

 ヤバイ今度こそ死ぬかも。


「フゴ」

「は?」


 そんな中、ゴブリンはそこら辺に落ちている石を適当に拾い上げ、


「ゴ~ブッ!」


 持っていた長い棒でそれをフルスイングした。

 『ゴッパアアアン!!!』と半端ない炸裂音が轟いた後、放射線上にいたワイバーンがボロボロのミンチになって墜落した。


「「「「は?」」」」


 続けてそのゴブリンは、その地面に散乱したワイバーンの小骨を拾って、同じくフルスイング。


「ゴ~ブッ!」


 すると、遠くにいた上空のワイバーン数匹が破裂するように弾け飛んだ。


「「「「はぁああああ!?」」」」


 もうそこからは流れ作業だった。

 音に反応してコッチにやって来たワイバーンは最初と同じようにミンチにし、遠くにいるワイバーンは小石を使って打ち落とされた。

 夕方になる頃には、周りはワイバーンの死体で埋め尽くされ、腐敗臭が漂い始めていた。

 ゴブリンは、いつの間にかいなくなっていた。


「……嘘だろ」


 それは誰が言ったのか、夕焼けの向こうには鳥が飛んでいた。

おまけ


 ヨレヨレで冒険者ギルドに戻って報告を済ませた帰り、昼のことを皆で飲んで忘れようと言うのと、助けてくれたお礼ということで、小僧と酒場に入って飯を食って酒を飲んでいた訳だが、ちょっと大事なこと思い出した。


「あ、リーダー忘れてた……」

「「「あ……」」」


 昼の事が衝撃的過ぎてボーっとしてた。

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