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あ、小鳥  作者: 一滴
20/25

泥沼からの爆音小僧 上

暇潰しにでもどうぞ

 見渡す限り、泥沼一色の平野の沼地。

 ここには血を吸う巨大で毒を持つヒルや人食い魚、巨大ワニなどもいる。

 そんな沼地では、朝からせっせとその沼に自ら手を突っ込んでドロをまさぐる数人の人間の姿があった。

 かく言う俺もその一人。


「ぃよっと! ふぅ……」


 ドロの中から汚れた手を引っこ抜き、朝から狙っていた獲物であるドロウナギをしっかり掴んだまま持ち上げる。

 大きさは十二才の俺とほぼ同じぐらい。

 なかなかの大物だが朝から昼までかかってコイツ一匹じゃ、割に合わない。

 とは言え、村の唯一の特産品にして最高の絶品食材だから取らずにいるわけにはいかないんだが。

 一回食べさせてもらっただけで、ほんとにほっぺたが落ちて舌がトロケて目尻が垂れ下がった。

 ジュッと焼いて簡単なタレをつけただけだったのに、パリッとした皮とモッチリした肉と癖のある肉汁とどっしりした歯応えと弾力による食い応えの良さと後味の無いサッパリさで、完全に魅了された。

 ああああああ思い出しただけでヨダレが。

 もう一回食べてぇ……。


「……あっ!? こら、こんにゃろ!」


 油断していた上にまだ止めを刺せていなかったから、ドロウナギが体をしならせただけで簡単に腕からすっぽ抜け、泥沼に落ちた。

 もう一度ドロの奥底に潜られたら朝からの苦労が水の泡だ。

 ドロに完全に潜られる前に、


「させっか、よっ!」


 手の平をドロの水面に叩きつけ、音響を走らせる。

 ウナギの全身に、俺が走らせた音波を痺れるように叩きつけてダメージを与えるだけ。

 それだけでドロウナギは気絶してドロにプカリと浮かび上がった。

 気絶したドロウナギを腰に刺したナイフで殺してドロから上がる。

 ヤっちまった……そろそろ来るな。


「こりゃああああああああああ!」

「また爆音ボウズがやりおったわああああああ!」

「ヌシが来るぞおおおおおお!」


 泥沼から上がり、手に入れたドロウナギをカゴに入れたところで、ドドドドと沼の方から地鳴りが響きだし、一緒に獲物を探していた普段は腰の曲がっているじいちゃん達が背筋をピィインと伸ばした見事なフォームで、この泥沼の大型魔物達を引き連れて走ってきた。

 俺の音波はこの程度の沼地ではほぼ全域に響いてしまうらしく、偏屈ジジイにこの技を習ってこの沼地で使ってからというもの、よくこんな感じで魔物達を叩き起こして大騒ぎにしてしまう事が増えてしまって、よくじいちゃん達を困らせてしまっていた。

 このままじゃあ、俺の住む村どころか、近くにある友達の村。後子爵様のいる町にまで被害が出かねない。

 まあ、問題ないけど。


「皆早くうううううう、来てるよおおおおお!?」


 じいちゃん達の後ろからは、沼に住む生き物ほぼ全部と、この沼地のヌシである『ガンポーサ』って村の村長が呼んでるむっちゃデカいヘビが追いかけてきていた。

 もちろんただのヘビじゃない。

 コイツ、伸びる。

 しかも結構早い。

 全身を収縮させて力を溜め、一気に解放。

 遠距離を一瞬で縮め、普段は閉じた目をかっぴらいてきれいなダッシュを決めるじいちゃん達の内一人を飲み込もうとする。

 当然、


「させん!」


 握った石を投げるように右手を後ろにおもいっきり振りかぶらせ、振り抜くと同時に、親指を中指を打ち鳴らせる。

 サウンドボールって偏屈ジジイは言ってたな。


「ィギィイイイイイイッアアアアアアアアアアア!!?」


 鳴らした指から飛んだ球がヘビの目ん球を内部まで振動させて刺激し、激痛を引き起こさせる。

 これは一匹だけだが、ここら辺一帯を陣取るヌシでさえ悶え苦し無ほどの効果がある。

 そして俺達はさっさと沼地から上がって退散するだけ。

 ガンポーサが体勢を立て直した頃には俺達は逃げ切った後って訳。

 だから問題は無い。

 むしろ問題は別。


「「「「「ピギャアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」

「こりゃあ! まぁたやりおって!」


 数人の悲鳴と一緒に脳天にゲンコツが落ちる。

 そう、問題はじいちゃん達の説教だ。

 夕方まで終わらない。

 だからもう一発。


「エイッ」

『パチンッ!』


 予備動作無しで指を鳴らしてサウンドショックを使う。


「「「「「ピィィィギャアアアアアアアアア!!!」」」」」


 なぜかこのサウンドショック、鼓膜を破ることができない。

 激しく脳を揺らして耳に激痛をもたらす技なのだが、発動者である俺には全く効果がなく、被害者は悶えるだけでとくにこれといった後遺症が無い。

 だからスッゴク使い勝手がいいんで、よく逃げるのに使っている。

 もちろん帰ったらお仕置きとご飯抜きだろうけど、関係ないね。

 昼の自由時間が説教で消えるよりマシだ。

 沼地を離れ、俺は隣接する村とは違う方向の森の奥へ走っていった。


「偏屈ジジイ! いい加減四つ目の技を教えてくれよ!」


 そしてついたのは森の奥にある一軒屋。

 切り株に座ってのんびりタバコをふかしているジジイが、俺が村でただ雑用していたときに出会って、この音の技を教えてくれた、村ではない卯こんな森の奥でわざわざ小屋を建てて住むほどの偏屈なじいさん。

 略して偏屈ジジイ。

 行き倒れていたところを、偶然家の買い出しに出ていた俺が見つけて果物を一個あげたのが始まりだ。

 一気に復活して立ち上がり、サウンドショックを教えてくれた。

 それ以来、長年の積み重ねで沼の魔物に気づかれないような身のこなしと知識を手に入れた年寄しか任されないドロウナギ狩りをさせてもらえるようになった訳だから、感謝はしている。

 この前みたいな不足の事態への保険係りとしてだけど。

 その後も、暇ができたらこの偏屈ジジイのところへ行って技を教えてもらうのがこの頃の日課になっている。

 ちなみに教えてもらった技は三つ。

 サウンドショック、サウンドボール、そしてサウンドサーチ。

 サウンドサーチは音で遠くの気配と大まかな形を感知する技だ。

 最初は自分の周囲にあった木が壁にしか感じ取れなかったり、距離が短かったりで苦労したけど、習得すれば沼地の奥にいるウナギすらも感知できるようになった。

 この技を習得してからは俺も保険だけじゃなく、狩りもさせてもらえるようになった。

 ちなみにじいちゃん達は勘で俺の五倍近い成果を出す。

 俺はヒルまで頑張って一匹が取れるか取れないかなのに、村のじいちゃん達は一人づつ四、五匹は確実に捕まえ、時には一人で十匹捕まえる。

 どうやってんだ?

 後、ウナギの全身を痺れさせた技は俺のオリジナルだ。


「帰れ。これ以上は小僧の人生を壊す。せめて後数年待て」

「人生なんか壊れようが知ったことかよ! 俺は今すぐ教えて欲しいの!」


 俺は楽しみでしょうが無い。

 ジジイのお陰で俺の生活は刺激に溢れたものになった。

 今までウナギ以外何もない村で、商売もなく冒険者ギルドもないド田舎で暇な時間は寝るしかなかった生活が、ジジイのお陰で沼地を魔物と走り回る生活に変わったのだ。

 俺としては感謝以上に、これよりもっと新しい技を教えてもらえたら、今度はいったい生活がどう変わるのか気になってしょうがない。

 村で英雄になれるかもしれない。

 はたまた都市とかから騎士の誘いとかが来たりするのか。

 はたまた冒険者ギルドが俺を必要だとか言いに来てくれるのか。

 期待とワクワクで夜も眠れない。


「教えてくれよジジイ! 俺はまだまだ知りたいんだよ!」


 それに、ここまで教えてもらった技は全部相手を怯ませたり、位置を知る技だったりで、攻撃技が無い。

 だけど、たぶん次は、きっと……。

 だから俺は知りたい。


(攻撃技さえ覚えれば、逃げるしかできないあのヌシにも……)


 偏屈ジジイは、しばらく俺と視線を交わし、しばらくしてため息をはいてこう言った。


「……わかった。だか、ここから先は自己責任だ。俺は責任取らねえぞ?」


 責任?


「知ったことか! それより教えてくれるんだな!? ありがとう、ジジイ!」

「知ったことかじゃねえ! 調子に乗ったクソガキにはいい薬かもな!? 覚悟しとけよ!? そして責任を知れっ!」

「いいから、教えてくれよ!」


 新しい技は、俺が望んでやまなかった、真の攻撃技だった。

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