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あ、小鳥  作者: 一滴
19/25

マジック・フラワー・ソード 下

 その男が表れてから、話しはトントン拍子に進んだ。

 急に教会のあった場所に現れた木に混乱する村人にどこかの貴族が(はか)ったように現れてこう言った。


「この木は神が遣わしたこの町への贈り物である! 見ろ! これこそが『神の種』である!」


 そう言って、男はその木に咲いていた花の中心にある粒をつまみ取り、元に戻る事はないと言われた元花畑の大地にその粒を投げた。

 次の瞬間、大きなクレーターがあった大地は見渡す限り広大な花畑に。さらにもう一粒投げ込んだただの窪地立った場所には綺麗な湖が。剣山は鉄が山に吸収されるように消え去り、蒼い空まで戻った。

 町は三人が来る前の姿に一瞬で戻ってしまった。

 村人は貴族の弁を信じ込み、新たな教会を作る話が浮上。貴族は感謝され教祖様と持ち上げられた。村は瞬く間に活気を取り戻し、元の観光名所に戻ろうとしている。

 村はお祭り騒ぎだ。

 ここまでまだ一日も経っていない。


「皆ぁ、私は……どうすればいいの…………?」


 少女は教会と貴族の男や村人に近づけず、村の端っこでうずくまっていた。

 少女は浮き足立つ村人達にさんざん教会の皆の事を聞き回った。

 皆はどこ?

 何処かで見なかった?

 何で皆は教会の皆の事を考えないの?

 しかし、帰ってくる言葉はどれも同じ。


「「「そんな事より村の復興と教祖様への感謝だ!」」」


 つまり『どうでもいい』、だった。

 元々教会の子供達、特に呪い子である三人を良く思っていなかったのは知っていた。何度も消そうと行動を起こしてきた事も知っていた。それでも『どうでもいい』という返事は少女の思考を真っ白にした。虚無感とか損失間とか他にも色々あったかもしれないが、『どうでもいい』と言う返事は言い様の無い肌寒さを感じさせた。

 季節はもうすぐ夏。

 なのに、体の震えは止まらない。

 寒い。

 悲しい。

 寂しい。

 一人だ。

 一人は、寂しい。


「……うっ、ひぐっ…………」

「あ! 見付けた!」


 いつの間にか泣いていた少女の耳に、聞きなれた声が聞こえた。


「ぐす……?」

「おい、しっかりしろ!」


 少女に声をかけたのは、見慣れた赤紫の髪の少年だった。

 一気に涙が引っ込む。


「…………ッ!? えっ!? 何で!?」

「村長にかくまってもらってたんだ。村が落ち着くまで大人しくしてろって」


 少年はピンピンしながらそう言って少女をおんぶしてくれた。

 村長のいる家に向かう途中、嬉しさと安堵半分、疑問半分で少女は少年に昨晩何があったのか聞いた。


「……アンタ、あの夜何があったか、知ってる?」

「わかんない。寝てたら急に変な魔力が別の部屋で爆発したみたいになったから飛び起きたんだけど、そしたら木が襲ってきてさ。急いで火の魔法を使ったら木に弾かれて吹っ飛ばされたんだよ。そんで飛び込んだところが村長のとこだったんだ。それだけ飛んだのに俺の体、傷ひとつ無いんだぜ? おかしいことが起こりすぎだろ。後、村長に聞いたんだけどさ、生き残りは、他にはいないみたいだ」

「…………そう……」

「皆、あの木に呑まれたんだって。村長が知ってたんだけどさ、あの木はシャクカリスって言って急に前触れもなく発生して、場所が悪かったら人間まで吸収するらしいんだって。でも炎は弾くみたいだな。お陰で俺は助かったぜ! しかも、種って時間を数年巻き戻す力があって、死人も生き返るんだってさ」

「え、じゃあ皆も……!」

「それが、ちゃんと生き返る訳じゃなくて、グールって言う魔物として生まれ直すらしくてさ。ダメみたいだ」

「……そっか」


 いつもなら軽口にツッコミを入れているところだが、少女にとっては一人でも生き残りがいたことの方が嬉しかった。

 涙がこらえきれない。


「よかった……よかったよ~、うう~……一人じゃ、なひっ……。……嬉しいよ~……」

「お前がそんなになるの久しぶりだな」


 緑髪の少年におんぶしてもらったことは多かったが、赤毛の少年に背負われたのは初めてだった。

 緑髪の少年のような気遣いは微塵もないが自然と安心し、村長の部屋に着いて起こされるまで、少女は眠ってしまった。


 そして、村長のところに着いた後、に起こされて話しを聞いた。


「あの貴族は今回の件で教祖としての力と教会の協力、更に残ったシャクカリスの種で金まで手に入れた。質の悪い事にシャクカリスってのは何時何処に発芽するか分からない天災の様なものらしい。だから偶然たまたまここに発芽したと言い張られたら犯罪に出来ないんだ。教会を壊し皆を殺したのは十中八九ヤツだがお前達はこのまま何も事を起こさず今すぐに王都『バラトックス』に向かって学校に入れ」

「……そんな、お金は……」

「二人には黙っていたらしいんだが、シスターともう一人がよく家に来て相談してきててな。このままチマチマ金を貯めるより学校でしっかり学び、もうけ話を見つけて帰って来る方がいいって話をしてたんだよ。確かに孤児から出世した話しより学校を出て出世した話しの方が断然多い。金もバラトックスに行く馬車も準備は出来てる。後は、お前達二人がどうするかだ」


 夜、よく金を持って何処かに行ってると思ったら、二人はこんなことを考えていたのか、と少女の気が楽になってゆく。


「俺は行くぞ! シスターと相棒がそう言ってたんなら、二人の最後の頼みだ! 俺はバラストックに行く!」


 決断が早いのは少年のよいところだが、それはあんまり考えていない証拠でもある。

 少し不安になりながらも、少女だって答えは同じだった。


「バラトックス(・・・・)! はあ、あんた1人じゃ不安だし、私も行きます」

「決まりだな。案内は信用できるヤツに頼んであるから行ってこい、王都に!」

「「はい!」」

「裏にもう一つ出口がある。すぐに出ろ!」

「あ、ありがとうございます! あの、何でここまでしてくれるんですか? 私達、記憶がないからここの観光地をダメにしたのが誰か分かっていないけど、私達だって思ってもしょうがないんじゃ……」

「簡単な事だ。俺もシスターのところで育ったからだよ。あいつ最後まで騙し通したみたいだが、シスターは今年でたしか96だったはずだぞ?」

「「…………ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」」


 シスターの見た目は多く見積もっても三十前後。

 とても九十越えとは思えなかった。


「はは……さ、早くしろ!」

「急ぐ必要あるんですか?」

「恐らくだが、犯罪を犯してでも出世しようとする貴族は自分が不利になる事を言う人間は生かしておこうとしないハズだ。お前達はここにいなかった事にして王都に逃げろ。早い方がいい。俺の勘が正しけりゃあの貴族はそろそろ俺の所に挨拶にく……って、来やがった、あの貴族! 二人とも早く行け! 裏手に馬車を待機させてるから今すぐ行け!」


 窓の外にセンスの悪い馬車が止まり、小太りのあの貴族が出てきた。

 部屋に来るまでもう一分の有余もない。


「そ、村長はどうするの!?」

「俺の事は気にすんな。これでも昔は冒険者だったんだからな」


 太い腕っぷしを見せ、豪快に笑う村長に誠心誠意お礼を言い、二人は村長の部屋を出て、裏手に回った。


「あ、あの。よろしくお願いします!」

「お願いします!」

「……ああ」


 帽子で目を隠した男が馬車に乗って二人に短い返事を返した。


「行き先は……?」

「バラトックスで!」

「……」


 彼は無愛想なまま馬車を出発させた。

 馬車が無事に出発し、村を出たところで二人は目を合わせ頷く。

 しばらく離れる事になった村の突然現れたあの木に、そして貴族の顔を思い浮かべて決意する。


(待ってて、皆。すぐまた戻って来るから)

(あのクソヤロウ。名前も顔もしっかり覚えた。皆の仇、必ずとってやる!)

読んでくれてありがとうございました

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