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あ、小鳥  作者: 一滴
17/25

マジック・フラワー・ソード 上

練習作品です。どうぞお気軽に。視点は全て第三者視点です

 無数の剣が地面に突き刺さり、刃を上にして突き出ている摩訶不思議な山。


 雲の上、山の頂上には月が登り月光を剣が反射して輝き、山風と砂ぼこりが錆びた剣の破片を飛ばして鉄と血とわずかな獣の匂いが周囲に立ち込める。


 そこで向かい合う、一人の老人と一人の子供。


 周りは鉄と砂ぼこり、剣は錆びた物から新品まで。


 月光に照らされながら老人と子供は大地の確かな感触を踏みしめ睨み合う。


 老人は子供に向けて刺さっていた剣を一本引き抜き、構えた。


 子供も、突き出た剣を引き抜いて構える。


 その老人は、笑っていた。


 その子供は、泣いていた。


 翌朝、山が真っ赤に発熱して剣が全て溶け崩れ、剣山と呼ばれた山はボロボロになっていた。





■■■





 夜、何が起こってそうなったのかわからないほどの高度から落下する二つの影があった。


 風を切りさき落下する最中、真っ暗だった周りはだんだん真っ白に、上も下も裏も表も無くなり、どこがどこである必要も無く、頭は様々な感情が渦巻いては静まってを繰り返し続ける。


 周りは真っ白、頭は混沌、体は曖昧、心は不安定。


 不意に魂を引っ張られる感覚と一緒に心が急に冷静になる。


 飛んでるようで沈んでいるような、暑くて寒くて痛くて何にも感じない。


 不意に何かが流れ込んで何かが消えていくような不思議な感覚が片方の影は感じ取った。


 段々風を切る感覚が戻り、一つとなった影は地上に到達する。


 その目蓋に数滴の涙を浮かべながら。


 翌朝、空の(あお)が消え、数キロ先まで真っ白な霧が現れ、周辺の村と森と大地に日の光が射さなくなった。





■■■





 様々な花が咲き乱れ光を発する湖の底。


 湖の底へ月の光は届かず、逆に湖の底に咲いた花達から天に向かって光がさし、真っ暗な夜の湖をわずかに照している。


 そこに漂う一人の子供と一人の女性。


 女性は子供の手を引いて水中の花畑を静かに漂っていく。


 まるで二人だけ外の世界から隔離されたかのような、薄暗く月の光も音も無い静寂の世界。


 不意に女性が止まり、子供と同じ視線で一二言、言葉を繋いだ。


 瞬間、周りの水草や花が一斉に強く発光し激しく泡立ち始める。


 子供は心地良さそうに、はたまた悲しそうにその目を(つむ)り、その身を(ゆだ)ねた。


 翌朝、とても大きく美しかった湖は一滴残らず干上がり、栄養一つすら存在しないであろう灰色の窪地(くぼち)に変わった。




■■■




 その日の翌朝、子供が三人近くにあった村に引き取られた。




 さらにその数年後の早朝。

 魔物が跳梁跋扈する森の中を二人の子供が走っていた。

 年は十ほどの子供で、二人共手にはなにも持っていない。

 森を掻き分け競い会うように獲物を探死見つけた端から魔法で仕止める。


「いた! 『ファイアーボール』!」

「モード『ニードル』!」


 放たれた炎の玉がモンスターを焼き、地面の草花や木々が変形してトゲとなって、モンスターを貫き魔石を抜き取る。

 見つけたモンスターを魔法と植物操作で瞬殺しながら森の中を疾走する二人は、まだ朝日が昇りきっていない、村人がまだ寝ている時間帯から冒険者として仕事をこなしていた。

 身寄りのない子供として教会に引き取られた彼らは、他の捨てられた子供の世話と教会の維持費のために働いていた。

 教会の院長でもあるシスターと、この村の村長に恩を返すために。


「俺の方が一匹多い!」

「いいや、僕の方が大きい!」


 三人の子供がこの村に来た日、観光地として有名だった湖と剣山と花畑、そして空がダメになった。

 湖は水が一滴残らず干上がっていおり、生物は全て何処かに消え去っていた。雨水が貯まるまでまだまだかかるだろう。

 剣山はどういう訳かクズ鉄ばかりが固まってしまってしまっており、山そのものがダメになっていた。そのせいで、ここにだけに生息していた固有種も何処かへ居なくなっていた。

 花畑は大きなクレーターと共に消え、空は真っ白な霧に覆われて朝も夜も区別がつきずらくなっている。太陽の光も届かないが周りが見える一定の明るさはあった。村から数キロ離れれば空は元の蒼い空に戻るのだが、離れた場所から村を見ると白い靄が村を覆って天の彼方まで伸びている柱の様に見える。太陽の光が降り注がないせいで村人が懸命に種を、栄養を、土を、水を注ぎ込んでも花は咲かず、元に戻る事はなかった。

 太陽の光を浴びない事は人間にとっても少なくない害を与え、村人は去り続け、今や観光地は没落。村は今廃村寸前にまでおいつめられていた。

 そんな様々な異常事態が重なった日に引き取られた三人の子供は、当然のように呪い子として迫害され追い出されかけた。

 しかし、他に拠り所もなく、さらには記憶までなくしていた三人が村を出て無事に生きていける確率など万に一つもありはしない。

 呪い子と呼ばれ迫害されながらも三人を引き取ると強く村人達に抗議した教会のシスターと、それを認めてくれた村長の二人に、事態を理解した三人は心底感謝していた。そして、時には殺されかけながらも自分達を置いてくれたシスターと村長に恩を返すため、そして強くな利一人立ちして村を復興させるため、男の子二人は朝早くから霧に包まれた村を出て、離れた場所にある危険な森の中を走り回っていた。

 よく売れる魔物の魔石を取り、なるべく早く強くなるために。


「『ファイアーボール』!」


 火魔法がゴブリンを焼く。

 一人は赤に近い紫色の少しトゲトゲした単髪。活気のある顔。行動が速く真っ直ぐで素直。根は優しい性格だが、少し短気でマセガキな所があるのがたまに傷。あと、空気を読めない。

 伸ばした手の先から魔法を詠唱せずノータイムで発動させ、目の前に現れる魔物を次々とほふる。


「モード『ニードル』!」


 地面の草や木が刺になり、こん棒を持って襲いかかってきた魔物のゴブリンに穴を開ける。

 もう一人は森の緑のような色のサラサラな少し長めの髪と、優しいおっとりした目の少年。性格もおっとりしている優しいものなのだが、優しすぎてモンスターを殺せるようになるまでが長かった。あと、彼も時々空気を読めない。

 周りの植物に魔力を使って呼び掛け、植物が彼に従うように変化する。彼は自分の魔力を植物に水をやるかのように振り撒き、与えた植物から帰ってくる反応を匂いや勘と言った分かるという漠然とした感覚を感じとって、それを与えた魔力で増長させて植物を思い通りに操作していた。ほとんど思い通りに動かせる植物で魔物を倒して魔石を抜き取っていく。

 二人共、自分の持つ能力がいったいどういったものなのかを良く理解できておらず、また教えてくれる存在がいないせいでひどく規模の小さい攻撃しか使えないのだった。

 お陰で彼らは数年前から冒険者最底辺をもがき続けている。


 夕方まで狩りを行い毎日ボロボロになって村の冒険者ギルドに討伐報告と採取した薬草を持って報酬を受け取りに行くが、ギルドの受付はいつも二人を見ると嫌な顔をする。ギルドにも嫌われているのだ。依頼を受けて達成報告をしたときも、報酬をピンはねされた事がある。後に村長が注意してピンはねはされなくなったが。

 報酬を貰って教会に向かうと、教会の前に柄の悪そうな男5人がたむろしていた。


((また(・・)か))


 二人は顔を見合わせると互いに頷きあい、全く同時に男達に向かって飛び出した。


「『ファイ……」

「モード『ニー……」

「あ?」


 しかし、集団の内一人が、二人の敵意に気付いて腰の剣を抜き、反応出来ない速度で剣を振って二人は弾き飛ばした。


「あぐっ!」

「ぎぃっ!」

「何だ、ガキ? 俺らに何か用か、アア?」

「ギャハハハハハ! おいおい、いきなり切るか普通!?」

「大丈夫~? ギャハハハ!」


 二人に浅くない切り傷がつく。

 二人を面白そうに見下しながら武器を抜く男達に、赤毛の少年は毅然と言い放った。


「うるせえ! てめえら、また依頼(・・・・)されて(・・・)この教会壊しに来たヤツらだろ!」


 そう、彼らがここまで成長するまでの間、村人は何度も非合法な手を使って三人を村から追い出そうとしてきた。石を投げる行為から始まり、食料の値段を勝手に上げくし、教会をごみ置き場のように扱った。

 しかしそれでも出ていかない事に業を煮やした村人は、三人が身を寄せる教会を壊して強制的に追い出そうとしてきたのだ。

 何度も、何度も。


「僕達の教会を壊させる訳にはいきません!」

「ギャッハハハハハハハハハハ!」

「カッコいいー!」

「守れる物なら守ってみろよ!」


 ウゼー。

 が、二人にはどうしても勝てない相手だった。非常にむかつくが一人にすら敵わない現状ではどうにも出来ない。力がモノを言うこの場では、力の無い者はしいたげられるのみだ。

 しかも、見ている村人は助けようとはせず、観察していた。まるでちゃんと死ぬ所を確認するかのように。


「焼け、『ファイア』!」


 5人のうち、杖を持っている一人が魔法を放つ。魔法使いの少年が出す魔法の数倍の大きさの炎が発動し、倒れた二人に襲いかかる。

 しかし、それが二人に当たる事はなかった。

 何かが通過する音と共に炎が横一線に断ち切られ、炎を放った男の杖が真ん中からへし折られた。

 それを成したのは、倒れる二人の後ろから前に歩み出た三人目の少女だった。


「今回は5人。本当に、困ったものね」


 そう言って彼女は手に持っている鞘に収まったままの剣を構える。


「何だ? このクソガ……」

「暴君の話は聞きません」


 相手の反応を待たず、少女は構えた剣を横に振った。

 瞬間、男達の足が横向きに折れた。


「「「「ギャアアアアアアアアア!」」」」


 鞘に収まったままの剣が距離を無視して男達の足を横向きに叩き折ったのだ。

 それぞれの足があり得ない方向に向いてしまい、見ていられないほど痛々しい状態なのだが、すでに何十回も繰り返されているせいで、子供達三人にとっては嫌な日常の一部になっていた。さすがに子供であっても慣れる。


「くっそー、また全部持ってかれた!」

「まだこの程度も倒せないの?」


 赤毛の少年が少女にグチを飛ばすが、剣を腰に下げる少女はすげなく答える。


「ありがと。また助けられちゃったね」

「……どういたしまして」


 緑髪の少年に礼を言われ、少し赤くなりながら返事をする呪い子三人最後の一人。三人の内、最強の実力者である彼女は、腰に剣を下げた赤黒色のロングヘアー。キリッとした目とキュッと結んだ口。簡単に言ってカチカチの子供騎士と言った感じだ。実力は剣を抜かずに大人10人瞬殺できる程。村で拾われた子供達と遊んでいても、その飛び抜けた剣の腕と身体能力は他の子供達とは比較にならず遊びにもならない。

 稼ぎに出ている二人の少年とは違い、彼女は教会の警護を担当していた。一応冒険者ギルドに登録はしているが、金稼ぎは男二人に任せ、彼女は三人が最も大事にしている教会の守護を担当していた。

 少年二人も手伝って地面をのたうち悶絶する5人を速やかに連行。ごみ置き場に放り込む。放っておけばその内自分でどこへなりとも消えるだろう。

 二人は既に赤毛の少年の回復魔法を何回も重ね掛けすることで傷を治し、教会に帰宅する。すると孤児の子供達が群がってきた。


「おかえりー!」

「儲かった?」

「おちかれー」

「うわ、兄汗臭っ!」

「あはははははは、ホントだ、クッサ~~!」

「くちゃー」

「ウッセー、クソガキども! 食っちまうぞー!」

「「「「キャー!」」」」


 子供の扱いは赤毛の少年が一番上手い。

 脳のレベルが近いからか、その理由はわからないが。


「こら皆! お仕事してきたお兄さん達に迷惑かけない」


 三人に群がる子供達の後ろから、一人のシスターがやって来る。

 緑髪の少年以上に優しい笑顔をする彼女が、この三人を拾ったシスター。見た目三十歳程の女性であり、この教会唯一のシスターだ。孤児院で皆の親代わりをしており、三人の大恩人の一人である。


「お疲れ様です。外を見てましたが本当に毎回寿命が縮む思いです。お願いですからもう少し無理をしないようにして下さい。もうちょっとで私が出ていく所でしたよ?」

「大丈夫です。皆を守るのが私の仕事ですから。シスターは教会から出ないで、子供達の世話をしていてください」

「そうそう。むしろ外に出たら守れないよ!」

「恩返しがしたいんです。これだけは譲れません」

「はぁ……全く、言い出したら止まらないんですから。外を見ようとする子供達を止めるのも大変なんですから」

「シスターはそれより、胸を大きくしなきゃな!」


ゴゴン!!


「~~~ッテエエエ!」


 赤毛の少年の脳天に、女性二人の怒りの鉄拳が落ちる、が同情する者はいない。何時もの事だから。シスターが暴力を振るうのはイカンだろうに、こればっかりは女性の条件反射なのだろう。


「さあ皆、夕食にしますよ」

「「「「「はーい!」」」」」


 痛みにのたうつ彼をさらっと無視し、夕食の準備をする他の子供達。


「「「「いただきます!」」」」


 食事は質素だが、一応毎日食いつないでいけてはいる。

 皆、文句を言わずにきれいに食べきり、皿を片付け寝る準備をする。


 しかし、皆が寝静まった夜遅く、二人の陰が教会を出る。シスターと緑髪の少年である。


(……この頃よく一緒に出ていくけど、いったい何しているんだろ?)


 赤毛の少年はまだ気付いていないが、少女は最初から出ていく二人に気付いていた。

 この頃毎晩二人で何処かへいき、遅くまで帰って来ない。何度か貯めた金を持っていく事もあった。納金にしては金額が多かったから別の事だろうとあたりを付けてはいるのだが、


(バカが一緒じゃなくて安心だけど、何で私じゃなく彼がシスターと一緒なの? モヤモヤする……)


 理由のわからない少女は、日々モヤモヤを溜め込んでゆくばかりだった。

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