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あ、小鳥  作者: 一滴
16/25

あるエルフのある日の出来事 下

 その時、骨森に動きがあった。

 カタカタとスケルトン達が集まって来たのだ。

 いや、集まると言うより這い出したと言った方がいいかもしれない。

 地面から手が伸び、次々とスケルトンが這い出てくる。

 その数、約二千体。


「ケヒャヒャヒャヒャ~ッ、こりゃあ切りがいがありそうだねえ!」

「うおおう、どうすんだよ団長!?」

「こりゃヤバイっすよ! 囲まれちまってるっす!」


 スケルトンはその名の通り骨だけでできたモンスターで、大抵は放置された死体が白骨化して出現する、骨森に唯一生存できるモンスター。

 人間の五人が集まって陣形を組むなか、エルフの彼女は()を聞いていた。


『助けに来てくれた事、感謝します。私はこの骨森の主です。スケルトンにはあなたを攻撃させないよう命じていますので、連戦で申し訳ありませんがあなたにも彼らの撃退を手伝って欲しいのです』

「しかし、私の矢は……」

『はい、通用しないところを見ていました。そこで、あなたには『妖精弓・ビューコン』を与えます』


 そう聞こえた瞬間、地面の骨が一本浮かび上がり、目の前でメキョメキョと形を変え弓の形になった。

 エルフの彼女が弓を握った時、人間達が動いた。


「……全て壊せ」

「それしか無さそうだな」

「ヒャ~ッハーー!」

「うっへ~」

「マジっすか!」


 人間達が行動を開始する。

 手に持つ武器でスケルトンを砕き割り、切り裂き、焼き焦がし、溶かしていく。

 スケルトンの数は見る見る内に減っていくそこへ、一線の白い矢が人間の頭部へ向けて襲い掛かった。


「おうっ?」


 トカゲ顔の人間が先程よりも何倍も早い矢に驚きながらも反応し、弾いた。

 ガイン、と最初とは比べ物にならないほどの重い音が鳴る。

 エルフの彼女が『妖精弓・ビューコン』を使って放った一撃だった。

 その弓が彼女に語りかける。


『まだまだ固く早く重くできます。もっと魔力を込めてください』

「スゴい。魔力がどんどん送れる。この矢、込める魔力の量でその効果を変えるんですね」

『正確にはサポートです。現在私がサポートできる能力は『形状』『比重』『大小』『硬度』の四つまで。あなた次第でこの先様々な能力を獲得できます』

「十分です。では、まず『形状』を」

『了解しました、マスター』


 妖精弓を使えば、魔法の規模を大きくできなかった彼女の弱点は関係無い

 相性は最高だった。


「ヒャ~、急にエルフの女が強くなったよ~? もうやっちゃっていい~副団長~!?」

「やるなら早く帰ってこい」

「ケヒャヒャハ~~~……は?」


 許可が下りたトカゲ顔がエルフに詰め寄ろうと視線を向けた先には、針玉を先端に取り付けた矢をつがえたエルフが標準を当てていた。


『形状構築完了。魔力操作がお上手ですね』

「唯一の特技ですから」

「ちょ、ヤバ!」


 お淑やかに微笑みながらその矢を放つエルフだが、空中で針玉が破裂し四方八方に針の雨を降らせるこの攻撃はえげつない。

 針玉の内側に火魔法を待機させ、放った数秒後に弾けさせたのだ。


「ヒャ~、弛い顔してあんがい容赦無いねえ!」


 しかしトカゲ顔は周りのスケルトンを相手にしながら針の雨を避けたり弾いたりしながら防ぎきった。所々にかすり傷ができているが、致命傷にも決定打にも欠ける。

 他の人間達も、大剣を盾にしたりすべて溶かしたり、電撃で打ち落としたりして針を防いでいたが、


「ぎぇっ、ガアアアア!」


 弓を持った人間が一人針を受けそこなり、その隙に周りのスケルトンに滅多刺しにされて死亡した。

 残り四人。


「チッ、『電流剣(エレキブレード)』!」


 角の生えた大男が大型ナイフを地面に突き立たせた瞬間、地面に電撃が走り周りのスケルトンの300体以上が灰になった。


『あの男、危険です。先に倒すことを推奨します』

「わかりました。『形状』と『比重』をお願いします」

『了解しました、マスター』


 形状がエルフの望み通りに変化する。


『形状比重構築完了。射てます』

「スゴい、こんなに軽い……」


 その形はドリルに近い。

 ただし、相当軽く、細く、内部に細工がされている。


「さらに魔法を追加します!」

『新機能、『属性』を獲得しました』


 発射された矢に風魔法で回転を加え、しかも限りなく軽く細くなっているお陰で、その一撃は空気の壁を越え乾いた音を響かせ走った。


「がはっ!」


 大剣を担いでいた人間に当たった。

 残り三人。


「軽すぎてコントロールを間違えました! もう一本同じものをお願いします!」

『……形状比重属性構築完了、射てます』

「えいっ!」


 先ほどと同じように矢が空気の壁を突破する乾いた音が鳴る。

 しかし、


「フン!」

「え、うそっ!?」


 目ではほとんど反応できるはずが無い矢を、角の生えた大男は完璧に見切って打ち落としたのだ。


「おい」

「ああ、わかった」


 イライラしているように見える大男が、アイコンタクトでダークエルフに命令しダークエルフが動いた。


「『ウェーブ』」


 ダークエルフが魔法を唱えた瞬間、紫色の波が出現し、ダークエルフの直線上のスケルトンを飲み込みながらエルフの彼女に迫ってきた。


「急いで『属性』をお願いします!」

『属性構築完了』

「んっ!」


 簡素なものではあったが、風魔法が付与された矢は紫色の波を簡単に貫き、吹き飛ばした。

 しかし、矢と入れ違いに紫色の槍が波を越えてエルフの彼女に襲いかかる。


「『ジャベリン』」

「あぎっ!」


 紫色の槍が彼女の肩を裂いて空の彼方へ消えていく。

 ダークエルフは紫色の波で隠れた彼女の位置を正確に認識し、波と槍の二段構えで彼女を倒したのだった。


「ちょ~っと~、副団長~! 僕が倒すって言ったよね~!? 横取りはひどくな~い!?」

「時間はかけられない。それにお前は遊びすぎる」

「行くぞ」

「……へ~い」


 エルフの彼女は肩の傷から入り込んだ毒が体を痺れさせ動けなかった。


『すみません、マスター。毒の中和に失敗しました。約十分間、動けません』

「あっ、……か、は…………」

「あれ~? コイツまだ生きてますよ~? 副団長~?」

「放っておけ、今はこっちだ」


 かすかにまだ期を保っていた彼女をトカゲ顔の人間が見つけるが、ダークエルフと大男は見向きもしていなかった。

 ダークエルフと大男がにらむ先には巨大な骨の巨人が鎮座していたのだ。

 スケルトンが残り千体ほどになったとき、突然寄り集まりだしてやがて一体の巨大なスケルトンができあがったのだ。

 その心臓部には、一体の精霊が四肢を同化させていた。

 全身を骨の鎧で覆った白髪の長身な女性だ。

 骨森の主である精霊は、白髪を頭の後ろで束ねた血のように真っ赤な目をした女性だった。


『あなた達の願いを聞き入れる事はできません。今すぐ帰りなさい』

「ケヒャヒャハ~! コイツが目当てっすか~? 副団長~?」

「願いを叶えることができるがやらないのか? それともできないのか?」

『あなた達に教える気はありません』

「お前の意見は聞いてない。答えろ」


 そう言って大男が両手にナイフを構えて精霊に襲いかかった。

 エルフの彼女は動けない。

 まだシビレが取れないのだ。

 そして、その間に数分とかからず精霊は三人の侵入者に敗北した。

 精霊が(まと)うスケルトンの骨の鎧は大男の雷撃とダークエルフの魔法で簡単にひっぺがされ、一瞬の隙をトカゲ顔が縫うように突いて精霊を沈黙させたのだ。

 相性の悪さもあるが、そもそも精霊の中で戦闘が得意な者は少なく、それ以上に三人が強すぎた。


「願いを叶えろ。そうすれば殺さん」

『断ります』

「フン」


 精霊が断った瞬間、精霊の首が飛んだ。

 あのナイフは精霊を殺せる魔剣か聖剣の類だったようで、精霊はあっけなく息を吐くかのように殺された。

 あまりにあっさりした出来事に、その場面をまだ痺れた体で見ていたエルフの彼女は呆然としていた。


 しかし事態は、精霊が消えるだけでは済まされない。


 その瞬間、骨森が『悲鳴』をあげながら崩壊した。

 地面は揺れ、周りにあった巨大な骨は音をたてて崩れさり、精霊が消えた場所からは、灰色のドームのようなモノが発生した。

 ドームは魔物の悲鳴のような耳をつんざく嫌な音をたてながら四方に広がり、ドームに触れた全ての生き物を骨に変えながら拡大し続けた。


 精霊とはただそこに存在するだけで膨大なエネルギーを環境に与え、自身の(つかさど)るものに沿った環境に一定範囲を支配し、作り替える神に近い種族。

 そして魔力を浴び続けた場所は不安定なエネルギー、魔力が充満し、ちょっとした刺激で崩壊して余計な被害を余計な範囲まで撒き散らす。

 例えば精霊が殺されるなどのような刺激で。

 結果、骨森の範囲は爆発的に拡大し、様々なモノが被害を(こうむ)った。

 しばらくして骨森の悲鳴が静まった頃、


「ん、ううん……」


 無事だったエルフの彼女はやっと動けるようになった体で起き上がった。

 起き上がった彼女は、周りを確認して唖然とする。

 あたり一面が真っ白な骨の更地に変わっていたのだ。

 木も、川も、動物も、全ての生き物が真っ白な骨になって地面に散乱している。

 茫然自失する彼女に妖精が声をかけた。


『お目覚めですか、マスター?』

「あなた、ここは……」

『前主が殺され、『骨声』が響き渡りました。結果、ここいら一帯は骨の世界に変わってしまっています』

「……みんな」


 あたり一面骨と灰の世界。

 ちらほらとスケルトンが生まれだしている以外、動くものは見当たらない。


『マスターは私を所有していたお陰で、精霊の加護のもとにより、私が骨声から守ることができましたが、今の私はスケルトンに対する命令権を持っていません。即時ここから離れ、安全な場所へ移動することを推奨します』


 しかしエルフの彼女に妖精の声は届いていなかった。


「私の、せいだ……」


 彼女の頭は、後悔の念でいっぱいだった。

 人間とあのダークエルフを確認次第に引き返し、危機を知らせるべきだった。

 原因の根源はあのダークエルフと人間達であっても、ハイエルフからの命だと張り切り、少し欲を出して分不相応な行動をとった結果、そのツケは自分のみに止まらずここら一帯全てを骨と灰に変えてしまった。

 そこには、彼女がいた里も含まれている。


「私の、せぃ……うっ、あ……あああぁ、……ああああぁぁぁぁ……」


 一人が嫌で頑張った。

 魔法の規模一つで疎外され続けた幼少期が辛かったから、毎日毎晩練習を続けた。規模の大きさくらいカバーできるように。

 他人に認められたくて、容認されたくて、頑張ってきた。

 なるべく他人の役に立つように、なるべく認めてもらえるように。

 鍋や魔法の規模がほとんど関係ない狩りぐらいしかさせてもらえなかったから、今回のハイエルフからの命令を是が非でも成し遂げたかった。

 その結果が、やっと認められようとしていた里の皆と、慣れ親しんだ森の全ての損失。

 信用は再びゼロに戻り、何より彼女はまた一人に戻ってしまった。


「あああぁぁぁあ、あぁぁぁああぁ……」

『……』


 泣き出してしまった彼女にどう声をかけるべきかわからなかった妖精は、しばらく彼女が泣き止むまで、そばに寄り添ってじっとしていた。


 やがて泣き止んだ彼女は妖精の話を聞き、その場をあとにする。

 彼女が最初よりはるかに範囲の広がった骨森を脱出できたのか、今どこにいるのかを知るものは……。

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