ネコのお願い『サイドストーリー』
ネコのお話最終話
■凶悪商会
夜、俺達はある建物に向かうため屋根の上を歩いていた。
「おい、もたもたするな!」
「はい!」
屋根から降りるだけの事に一々もたつきやがって。
ああもう、回収すんのも忘れてるし!
早く所定の位置に移動しなきゃなんないのに!
今回俺達が請け負った仕事はある密売品を騎士の目を盗んで、ある建物にしまいこまなければならない。そのために騎士達がではかるために重要な拠点に集中的にゴブリンを襲撃させる手筈だ。
だったのだが……
ちくしょう!
作戦がことごとく上手くいかねえ!
目眩ましにゴブリンの大群をおびき寄せようと部下達が5ヵ所に準備をしていたはずなのに、後ろから石をぶつけられて気絶したか、ゴブリンに叩き殺されてやがる!
誰の仕業だ!?
幸い死んでなかったヤツらの情報を頼りに町中を歩き回りって調べたところ、一日かかってある目星がついた。
ある飲食店の息子だ。
一声かければビンゴ。
「気の弱そうなガキでしたね? 嘘をつくのが下手だ」
「ああ」
その通り、気の弱そうな嘘をつけないガキだったが、
「昼間のうちにやっちまいますか?」
「いや、夜になるまで待て」
それだけで侮っちゃならねえ。
何より一人であの森の中で作業する五ヵ所の仲間を後ろから全員気絶させたか殺したヤツだ。体は小さく性格も小さそうなやつでも信じられないバケモノは沢山いるからな。
そして夜、目をつけた通りあのガキ、夜に家をコッソリ出てある広場に向かいやがった。
その広場でヤツは一人で騒いだ後、何かに引きずられる様に広場を出た。
その瞬間奴の首根っこを掴んで引きずる女が表れた。魔法か。才能からっきしだから何が出来て何が出来ないのかわかんねえんだよな、魔法って。
「……」
「!?」
目があった!?
……いや、気のせいか。
こっちを素通りして行っちまったからな。
気のせい……だよな?
あのガキ、女を背負って町を出て信じられない速度で走って行きやがった! 走って行った方向に真っ直ぐ走って危険地区の森の中を探したらすぐ見つかったが。
そこで自分の勘が正解だったと理解した。
あれは中級種、空の代表モンスター、ガルーフォーン。
そいつの風の弾幕をかわし続けてやがる!
こりゃ正面からじゃ勝てないな。
からめ手を使うか。
一緒にいたあの女を使おう……
何だよ、何だよ、何なんだよ!? どいつもこいつも邪魔しやがって! 何なんだ、あの蒼いガルーフォーンとガキは!? どっから現れやがった!?
あの森の中で気絶させられるとか地獄なんだぞ! お陰で何人かサクウルフに食われたんだからな!?
今度こそ、今度こそ絶対ぶっ殺してやる!
あのガキは毎の広場に顔を出してから町を出て行く。
ならそこで待ち構えてやる!
俺は自分の勘がここまで当たるとは思わなかった。
ガチもんのバケモノだあのガキ。
だが、あれだけ派手に暴れまわったんだ。しばらくは重症で動けないだろ。
捕まった仲間の敵と俺自身の気晴らしのため、華々しく散れクソガキ!
■蒼いガルーフォーンと少年
夜の森の中で丸まって目を閉じていた。寝ている訳じゃない。寝付けなかったのだ。山から降りてから面白いことばかりだから。
うまい飯、面白いヤツ、楽しい遊び、見たこと無い景色、ライバル。
あてもない旅だが何とも自由で素晴らしいものだ。
ガサッ
だが、時々こうした盗賊が表れるから厄介だ。モンスターなら飯になるんだが気配からどうやらモンスターでは無い。
一人か?
尻尾は切り札にも不意打ちにも使えるから出さない。代わりに寝たままナイフを抜く。ヴォルは空で待機。
「すみません。驚かせてしまいましたか」
森の中からやけにカッチリした服を着た黒い女が表れた。
寝ていない事がばれてる?
「空龍様に力を与えられた者達ですね? ご安心を、敵対意思はありません」
そう言って両手を挙げて武器を持っていない事を教えた。
コイツ、あのドラゴンを知ってるのか?
いや、それより昼間でさえ空に舞い上がったら見つけることも気配を感じとる事も出来ないヴォルを、コイツは気づいている。
何者だ?
「貴方達にお願いがあります」
敵対意思は無いと言っても得体が知れない。油断できない。
「この先で戦っている貴方と同じくらいの子供がいます。それを助けて欲しい。成功報酬は『友』。どうするかは貴方が決めてください。では、」
そう言って森の中に消えていった。
『友』?
「……」
結局、助けてしまった。
途中道に迷いかけたが、知らない女が道を教えてくれたから何とかなった。
あのガルーフォーンの最後の風を纏った体当り攻撃はヴォルにも出来るかもしれない。
しかし、ガルーフォーンのあの竜巻のブレスをまともに受けて平気とは。コイツも俺と同じ異常者なのか?
まあ、飯を食わせてくれるやつに悪いも無いか。しかもヴォルにまで快く料理を出してくれるヤツは久しぶりだ。ヴォルも気に入ったみたいだし、遠慮しなくていいと言われているし、たらふく食わせてもらおう。やけにクセになる味だし。
こりゃあ確かにいい『友』だ。
夜、あの空龍と似ていて、しかし全く違うエネルギーを感じて飛び起きた。
「キュロロロロロロロ…………」
ヴォルも居心地悪そうだ。
微かにアイツの気配がある。
「……行くか」
「キュオ!」
次の日の朝。
「ン、……ん?」
「クルルルル……、キュ?」
「あら、目が覚めたみたいね」
「……ここは?」
「王都の治療室。君が助けた彼は先に帰ったわ」
俺が寝ているベットの隣にいた彼女は、簡潔にそう言って出ていってしまった。
俺は昨日の事を考えていた。
助けられたのならよかった。
大変だったけど、気に入ったヤツは死んで欲しく無いからな。
でも、本当に大変だった。まさかアイツがあそこまでひどい事になっているとは。空であのドラゴンが笑ってそうだ。
「失礼する。蒼いガルーフォーンを連れた少年はおるか?」
杖をついた老人が入ってきた。
何者だ?
「……ああ、俺だ」
「話は聞いておるから楽にしてよい。突然の訪問で申し訳ないんじゃが、お主学校に入ってみたくは無いか?」
「……学校?」
何だそれは?
「うむ、様々な事が学べる場所じゃ。何処にどんな国があるのか、モンスターの弱点は、闘い方は、うまい料理は、店を開くには、物を作るには、この世界の歴史は、素晴らしい観光地は、そう言った様々な物が学校には詰まっておる」
「……」
「強制ではないし、待遇を気にしないなら金もいらん。何よりもっと沢山の友人が出来るかもしれん。そのガルーフォーンも連れてきて問題ない。どうじゃ?」
「……」
「キュロロロロ?」
迷う。
あての無い旅は自由気ままで楽しかった。
しかし、同じところをグルグル回ったり、不味いものを食ったこともあった。何より綺麗な景色というものに、強く興味がある。
「旅をするための知識は手に入るか?」
「もちろん」
アイツの料理もまだ食い足りないし。
……よし、
「よろしく、頼む」
■対空龍部隊分隊長
「『招き猫』が始まった」
その言葉と情報を聞いて、私はすぐその少年の元へ走った。
これ以上、ネコによる被害を出さないために。
我ら対空龍組織が設立してから数十年が経っている。
対空龍組織は空龍がこれ以上人間をもてあそばないために設立した組織だ。
空龍が人間をオモチャにしている事はこの長年の調査ですでに結論が出ている。
さらに、この頃の調査で世界中にいる『ネコ』とは、空龍と浅からぬ関係があることもわかってきていた。
そして現在、調査の結果『招き猫』と我らが呼ぶこれは、ネコが人間を捕まえて試練を与え人間をもてあそぶ一種のお祭り行事の事で、その被害をこれ以上出さないために私は報告があった町にむかったのである。
しかもまだ仮説の段階なのだが、その試練に落ちるとネコに姿を変えられてしまう危険性があるのだ。我らが気づいた時にはすでに『招き猫』は行われていた。おそらくかなり昔から行われてきた行事なのだろう。
町に付き、すぐ情報の通り少年の観察を開始した。
セイレーンを引き離したり、空龍の被害者であるガルーフォーンと少年を誘導したりして彼を観察した結果、すぐに結論が出た。
間違いなくネコに近づいている上に、もう遅いことがわかってしまった。もう、後戻りは出来ない次元まで来てしまっている。
少年は既に人外の身体能力を持って野を駆けネコの試練をこなしていた。
既にネコに変わる兆候も現れ出している。試練を落ちるにしろ乗り越えるにしろ彼は人間ではいられないだろう。
「どうにかしなければ……」
しかし、彼は私の予想を外した。
流れ星が首に当たったのに何でそれを己の力にできるんだ!? 非常識を通り越してムチャクチャだ。ネコに怒りを覚えるのはよくわかるがいくらなんでもムチャクチャだ!
おまけに理性も飛んでいる。当然かもしれないが急いで止めないと『黒騎士』の様になってしまう!
激闘が終わった後、私は本部に帰って相談を持ちかけた。
「彼の監視をさせて欲しいです。彼は今後どうなるかわかりません。よって部隊の中でも特に『ネコ』に対する相性がいい私が適任だと考えます」
「……わかった。許可する」
こうして私は彼の監視をすることになった。
「ああ、もう一つ。彼のコードネームが決まった。『星猫』。今後彼はそう呼ばれる。君も覚えておくように」
「……了解」
私の『水烏』よりかっこいいんじゃ……?
■??
一人の少年が遠くに行こうとする少女を呼び止める。
その姿を様々な物影から見物する者達がいた。
『フフ。がんばれ、がんばれ若者よ』
『ああ~楽しかった~』
『自分がトレインしたゴブリンが作業してた商会の連中を巻き込んでいたなんて思いもしないでしょう』
『しかも、ゴブリンに投げた石がその向こうで人に当たってるなんて考えもしないだろうね!?』
『『『『『アハハハハハハハハハハハ!』』』』』
『最後の試練。小鳥を追いかけてたら時間丁度に広場に着地するんだもの。さすが『■■■』の小鳥。思わず笑っちゃった!』
『『『『『アハハハハハハハハハハハ!』』』』』
『はー、でもちょっとやり過ぎちゃったね?』
『にゃ~。まさかあんな事になるなんてにゃ~』
『彼を選んだ理由がただの暇潰しだったにしてもねん』
『だから後始末の為に騎士を呼んだり旨く情報を操作して全ての罪を凶悪商会に擦り付けた訳だがね』
『さすがに彼女が来たときは驚いた。あの【水烏】は我々の情報網に引っ掛からないからな』
『全く、空龍様も人が悪いね~』
『まあ、結果的には上手く行ったし、よかったと言うことで』
『『『『『アハハハハハハハハハハハ!』』』』』
『でも、あの二人があの子についていっちゃったのは寂しいな~』
『……別に、会えなくなった訳じゃない。それにあの子達はまた勝手に遊びに来る』
『それに、いなくなったからこそ、次は我々が直接遊べるわけじゃーん?』
『肯定』
『さぁてっ、次のオモチャを探そっかっ』
『次は女の子がいいな~』
『今度も失敗しないように……ね』
おまけ
■『星猫』少年 in 調理場
「出来た!」
今、新作が完成した。
中々いい仕上がりだ。
「何ができたの?」
「駄作でしょうか?」
一々うっせぇんだよ、この。
「聞いて驚け、見て驚け! 『猫肉スープ』だ」
スープの真ん中に猫の顔をした小さいハンバーグが浮いている。
食べやすいように小さくするのに手こずったけど、なんとか完成した。
「……その心は?」
「何時か猫を料理して食ってやる!と言う俺の決意の証だ!」
「「……フーン」」
ガシャーン!
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
■■■終了
ネコの少年の話はこれで終了です
いつか何処かでまた出す予定です
読んでくれてありがとうございました