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あ、小鳥  作者: 一滴
12/25

5 ネコのお願い『お星様』

 命を助けてくれた彼らに料理を作ってからしばらく後。

 本当に店の食材全部食べ切った、だと……!?

 彼とヴォルはあのまま料理を食べ続けて食材を全部その胃袋に吸収してしまった。しかも………


「まだ、おかわりは無いか?」

「キュアア!」


 まだ食べるのか!?

 見ただけでも二人で二十人分以上は食べてたぞ!?


「ごめん。もう食材が無い」

「そっか……」

「キュウウゥ……」


 すごい残念そうだ。罪悪感半端無い!

 作った料理をこんなに喜んでくれるとは……。

 骨まで完食してるし。


「本当にごめん。昼になったら店をまた開けるから。その時はお金がいるけど」

「いや、もういいよ。ありがとう。ごちそうさま」

「キュルルルルルルル」


 ヴォルが僕の肩に乗って擦り寄ってきた。

 くすぐったいけど、暖かい。

 ネコみたいにうっとおしさも感じないな。


「また、来る」


 そう言って、彼は背中に荷物を背負って店から出ていった。


「どうだった? 自分の料理を全て完食された気分は?」


 父さん達が出てきた。

 答えは、決まっている。


「スッゴク気持ちいい!」

「良かったわね~。楽しいのが一番よ」

「お兄ちゃん、あの人誰!? 何処で知り合ったの!?」

「しかし、勘定はどうした?」

「あれはお礼の代わりなんだ。お金は払わないでもらった」

「あらあら……」

「お兄ちゃん! ねえ! 聞いてる!?」

「これで店はさらに貧乏になるな」


 父さんが怖い。

 ……でも、


「心配ないよ。僕が繁盛させて元をしっかり取るから」

「!? あらあらあら、聞きました、お父さん!?」

「ねえ! おにぃ……」

「わはははははははは! そうかそうか! ならもう勘定の話をしている時間は無いな! 今日は休んで、お前にまた一から料理を教えてやる! 泣き言言うなよ!?」

「望むところだ!」

「ちょっと、無視しないで!」

「ホラホラ、貴方は邪魔しないで馬車の準備をなさい。今日は私が一緒に行くから」

「ウウゥ~~~……!」


 ズルスルと引きずられていく妹の姿を何処かで見た気がしながら僕は父さんについていった。




……………………何処までも続く道を黒いネコと白いネコに挟まれて進む。


 あれ?

 

 ネコの頭の大きさが僕と同じ位だ。


 ン?


 そもそも僕って何だっけ?


 ネコ、だったような、違ったような?


 まあ、いいか。


 お?


 道の向こうから何か……光?


 流れ星?…………………………




「…………ん、ん?」


 あれ?

 なに見てたんだっけ?


「起きたか?」

「……父さん?」


 父さんが僕の隣に座ってる。

 店のイスの上で眠っていたみたいだ。

 段々覚醒してくる意識と一緒に何をしていたか理解する。


「あっ! 料理!」

「完成した途端に爆睡しやがってこのバカ息子が」

「え?」

「新作ができた途端にぶっ倒れたから何事かと思ったぞ。お前、どれぐらい寝ていない? 目の下にうっすらクマができてたぞ?」

「そっか……」


 そう言えばまともに寝たのは何時からだったっけ?


「……」

「この頃何をしているか知らんが、勝手なことはするなよ? お前は俺の後継ぎなんだからな」

「わかってるよ」

「ふん」


 そう言って父さんは部屋を出ていった。

 外はもう夕方だ。

 何時から寝てたんだっけ? 昼からだったら結構寝たな。


「まったく、あんな言い方は無いと思うんだけどね」

「母さん?」

「貴方、自分が今どんな状態かわかってる?」

「え?」


 自分の体を確認する。

 服はボロボロで血が染み込んでる。傷は血が固まって塞がってるけど痛々しい。そう言えば帰ってからまったく気にしてなかったけど身体中傷だらけのままにしていたのか。


「あの男の子。料理をお礼の代わりに食べさせてあげたって言っていたわね? 命でも助けてくれたんじゃない? 大方、冒険者の夢を捨てきれず森に入ったら死にかけて、そこを助けてくれたとか。当たってるかしら?」

「……」


 当たらずとも遠からず。

 母さん何者?


「フフ。何にせよ、無茶しないでね? お父さんの言葉も貴方を心配しているからこその言葉なんだから」


 そう言って母さんも行ってしまった。

 冷や汗だらだらだったけど、僕を心配してくれていることはわかった。いくら酷いことになっても笑ってるだけのネコ達とは違う。心配してくれる存在がいるというだけですごく感動した。

 今更ながらにいい家に生まれた事に気づけたかもしれない。


「貴方はネコとの親和性が高過ぎる」

「わっ!?」


 急に声をかけられて驚いた。

 店の壁に背をもたれて腕くみしている女性がいる。カッコいい。でも、どこかで見たような……

 何時からそこにいたんだ。


「自分がネコになった夢」

「…………あ、え!?」


 思い出した! さっき見た夢!

 コイツ、何で僕が覚えてない事知ってるんだよ!?


「この頃、ネコに依頼を出されているでしょ? それを失敗するとどうなるか知ってる?」

「……いや、知らない」

「夢の通りに、貴方はネコになるわ」

「そんな……」

「あるはず無い。そう言いきれる? ネコは隠し事が多いのよ?」


 身に染みて理解しております。


「貴方はどういう訳かネコとの相性が異常なほど良く、『猫化』の能力が貴方の体に効果を及ぼしていい範囲を超えているの。見てたけど、海までの距離をあんな速度で走る事も、ガルーフォーンの風の弾幕を見切ることも、普通は出来ない。間違いないわ。貴方は近いうちにネコになる」


 ……あながち否定できない。


「途中で試練を降りることは出来ない。でも、猫化を止めることはできる。猫化は猫に強い興奮や怒りが湧くことで効果が悪化する」


 ちょっと待て。それだと猫化を抑えるためには……


「心して聞きなさい。これ以上ネコに怒りを覚えちゃダメ」


 ……やっぱり。

 正直、絶対無理だ。あのクソネコ達に怒りを覚えちゃダメなんて。アイツらのことを考えるだけで気分が悪くなるのに。

 今までで最大の試練なんじゃ……




 夜。何時もの広場。


「昨日彼女から聞いたみたいね? この試練も残り2つで終了よ? そして、今日のお願いは『流れ星』だ!」


 また、めんどくさそうな。


「と言っても流れ星を捕まえてこいって言ってるんじゃなくてね? 今日は世界各地で同時多発的に夜空に流星群が降り注ぐのよね? そしてもっとも強い流星群が降り注ぐもっとも近い場所に私と彼女の二人(・・)を連れていってほしいのよ」


 二人背負って世界中走れってか。

 怒りは湧かない。もう何時もの事だから。

 代わりにゲンナリしてやる気が無くなっていく。


「何処に何時どんな形で降るか判らないから、私が指をさす方向に向かって世界中を走り回ることになるわね?」


 どうやって降る場所がわかるんだ?

 目で見てからでは遅いんじゃ?

 あれ? そう言えば皆目を(つぶ)ってる。


「何で皆目を瞑ってるの?」

「今、クロネコの彼女以外の我々ネコ皆の視力を魔法で集束して私の眼に加算させているのよね? ちなみにここだけじゃなく世界中のほとんどのネコの視力を集束しているのよ? お陰で十分先の未来が今の私には見えるのよね? 距離も関係無く」


 また相変わらず訳判らない事を平然とやってくれる。

 そこにあきれる。気がなえる。


「ちなみに十分しか先を見ることが出来ないから、君には九分以内に所定の場所に我々を連れていってもらわないと永遠に終わらないからね~?」


 本当に大変なお願いだな。


「それじゃ……」

「とっとと行きますよ下僕」

「……」


 そう言って僕の両肩に乗ってきた。

 危ねぇー、怒るところだった。


「ン?」


 二人、背負って走る?

 二人同時に?

 それってつまり……


 ウザさも2倍!!?


 部外者からの『怒るな』と言うスープに、『ウザさ二倍』のスパイスを添えた『難易度三倍』と言う名の激物スープ。これを前に僕ははたして人でいられるのかすさまじく不安になってきた!

 そもそも……


「あんた達ネコって何なの? それに君達の事を知ってる人って他にもいるんでしょ?」

「……」

「……何処で知りましたか?」

「今日の夕方、店で」

「……そっか、何て言われたの?」

「ネコになるって」

「……」

「……」

「怒るほど早くネコになるんだって」

「……プッ」

「ぶっは、」

「え?」

「「「「「ア~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」」」」


 ネコ達皆大爆笑。

 どゆこと?


「……ヒー、ヒー怖るるに足らず♪」

「はい。まだまだ問題なし、です」

「は?」

「その情報は間違いだと言うことですよ。我々に貴方をネコにするメリットはありません。面白いかもしれませんが、できたとしても戻し方がわからないので結局やりませんね」

「我々は人間の貴方を気に入ってるからね?」

「貴方にその情報を渡したのは恐らく我々に敵対意識を持つ組織の幹部です」


 何その組織。入りたい。


「大人の女性だったんじゃない?」

「うん」

「彼女は少しズレてる所があるので我々が()らした情報を勝手に勘違いしたのでしょう」

「貴方が求めない限りネコになることは無いわね?」

「……ネコになる夢は?」

「それは我々の依頼をこなしていると勝手に見える物です。気にしないでください」

「も~心配しすぎ。大丈夫よ」

「少なくとも我々に貴方をネコにする気はありません」


 いまいち信用ならんが、少し安心した。

 ……じゃあ、あの流れ星も? 依頼内容も聞いてないのに先に見た事になるんだよね?


「それじゃ、そろそろ行こうか」

「私達はネコの姿のまま貴方の両肩にしがみつくので指示する方向に向かって走ってください。あー、あと一つ」

「?」

「怒っちゃや~よっ?」

「プックク」


 フゥーーーーーーーーーーーー……………………………………………、よし。決めた。

 次の新作はネコ肉のスープだ!


「うおおおおおおおお!」

「「「「「いってらっしゃーい」」」」」


 広場を後にする。

 先ずは町を出て……どっちに行くんだ?


「何処に行けばいいの?」

「私の指が向く方へ、だよ? 話聞いてた~?」

「さっき言ったのに、この下僕は……」


 ……丸焼きがいいかな?


「先ずは、アッチ」


 指示通り走り出す。


「我々が今回二人で貴方のお願いについていく理由は、なるべく星に近づくためです」

「空飛べたら楽なんだけどね?」

「今回のお願いである流れ星はなるべく近付き、この魔石にそのエネルギーを吸収させなければなりません」

「ここだよ?」


 説明を受けている間に着いてしまった。

 そこは岩山の頂上。周りが霧に囲まれた迷いそうな場所だった。


「ここで先ずは貴方に我々を天高く放り投げてもらいます」

「後三秒」

「え!? いきなり!?」

「彼女の指示する方向に向かって我々を投げなさい!」

「来たわよ~?」

「わ、わかった!」


 若干勢いに流されながらもネコ二匹を天高く投げる僕。

 ネコを捨ててる気分になるな。

 加護のお陰で夜の空もバッチリ見える。空でシロネコが魔石を持ったクロネコを軌道修正させながらさらに天高く投げ飛ばした。


「あ!」


 流れ星が流れた。

 その流れ星の光が途中で軌道を曲げてクロネコの魔石に吸い込まれた。

 なるほど、そうやって星のエネルギーを吸収す……

 ……ちょっと待て。

 アイツら着地(・・)どうするんだ!?


 案の定、最早空で黒と白の点になっている二匹はそのまま落下してきた。クロネコはまだシロネコより高いところにいるから時間がある。シロネコからだ。

 岩山を駆け降りシロネコをキャッチ。クロネコは岩山を挟んでほぼ反対側に。このまま岩山を回り込んでいたら間に合わない。

 というわけで、岩山を殴ってぶち抜く。

 一回寝てからずいぶんリフレッシュした感覚はかなり鋭敏で、自分の体が周りにどれぐらいの影響を与えられるのか、大体勘で理解できた。たぶん、今の僕の拳はあの程度の岩山は打ち抜ける。

 地面に『透爪』を使った左手で体を固定、『透尾』で後ろに第三の脚を置いて全身の筋肉を『柔軟』で操作してほとんどの筋力を跳ぶ力に、残りの力を右手の拳に。

 タイミングは……………今!


「おりゃっ!」


 肩に乗っていたシロネコが後ろに吹っ飛ぶ姿を視界の端で捕らえながら、僕は矢のように岩山の向こうに姿が隠れたクロネコに向かって一直線に突き進む。

 拳で岩山に穴を開け、『柔軟』で針の様に穴を抜け、その向こうにいたクロネコをキャッチ。そのまま空中で前転して地面に着地。

 ……思い返すと凄い事したな。


「……やるようになりましたね」

「もー! 私の事無視してやったよね!? 覚えといてね!?」

「これで終わり?」

「イイエ」

「失敗なんだよね?」

「……何で?」

「これじゃ足りません」

「もっと高く、」

「もっと早く、」

「もっとタイミングを、」

「もっと近くで、」

「もっとたくさん、」

「エネルギーが、」

「必要です」

「ね?」


 ちくしょう!

 やっぱり一筋縄じゃ行かねえか!

 言い方一々ムカつくし!


 その後、色んな場所を走り回ってネコを投げてはキャッチして、投げてはキャッチしてを繰り返した。自分からゴブリンの巣に飛び込んだり、海の上を走ったり、ガンホークに追いかけられたり、燃え盛る獅子に食われかけたりしながらなんとか星のエネルギーを吸収していった。

 クロネコの持つ魔石は随分綺麗な白い光を発する様になっている。終わりが近いからかな?

 ただ、


「ほらほら、ぼさっとしてないで次次!」

「その脚は今我々を運ぶためだけにあるのですからとっとと役目を果たしなさい。踏みますよ?」

「遅~い! それじゃ間に合わないから方向転換して? 次はあっち」

「全く、今までの時間を無駄にするとは、この下僕は帰りたくないんでしょうかねえ」

「イッター。もう少し優しくキャッチして?」

「目上をここまで雑に扱えるとは、本当にダメな下僕ですね。捨てちゃいましょうか、この生ゴミ」


 ネコ二匹がウザすぎる!

 怒ってもネコにはならないらしいから少し安心してたけど、そうであっても無くても我慢できるか! 怒りで全身がプルプルと震えだしてるんですけど!?


「ふぐうぅぅうぅううぅぅうぅぅ…………………(泣)!」

「プッククク……」

「アハハハハハハハハハハハ!」


メキッ


「あ、ちょうどいい。今度は私達が何時も使ってる広場に行ってね?」

「とっとと行きますよ。知ってる場所なんですから迷わないで行けるでしょ?」


ピキピキッ


 ネコ二匹が言うこと一つ一つにイラつきながらも言うことをきく。到着した広場は何時もとは全く違う光景だった。

 広場にネコ達はおらず代わりにフード集団がいた。

 しかも数十人。この前の人達もいる。

 まためんどう起こしに来やがったのか?


「よう、小僧」

「よくも夜の森に置き去りにしやがったな!?」

「怖かったんだぞ(泣)!?」

「アホかテメェら!? ちょっと黙ってろ! とにかく、今度こそ殺してやるから覚悟しやがれ!」


プチッ


「この忙しい時に何言ってんだこいつらは。こちとらネコ二匹に振り回されてイライラしてるのにさらに面倒事を持ち込みやがって。これもネコ達が謀ってやってるのならガチでスープにして店の料理に……」

「何をブツブツ言ってるんですか? 今の貴方があんな三下に遅れを取るわけ無いんですからとっとと(たた)んで仕事してください」

「ほらほら、突っ立ってないで~」


 ネコがフード集団に聞こえない声で命令してくる。


プッツン


「テメェのせいで俺らは大事なお得意さんの機嫌を損ねちまったんだよ!」

「毎日毎日下働きで機嫌を取ってきたのに全部パアにしやがって!」

「俺たちの苦労を返せ!」

「命で償ってもらうぜ!」

「テメェの家も破壊してやんよ!」

「何してるんですか? 早くしないと貴方の家に他のネコ達を連れていって仕事の邪魔をしますよ?」

「好きなあの子に貴方の面白い話を聞かせてあげようか?」



ブチッ

 頭の中の何か大事なものが引き千切れた気がした。



「……」

「あ、あれ……?」

「……(ヤバイ、からかい過ぎた?)」


 後ろから光が差す。

 後ろから高速で飛来する物体を体全身が感じとる。

 周りの音が急激に遠のいていく感覚がする。


「あれ!? 未来が変わった!?」

「何が起こっているんですか!?」


 ネコ達が肩から降りて離れていく。フード集団はポカンとして僕の後ろを見つめている。

 後ろの光が強くなると同時に、ポッケの中に入れたままになっていたゴブリンから剥ぎ取った魔玉が熱く発光。

 それがポッケを破って脚の中に沈み混む感覚がした。

 そもまま魔玉は体を登って首筋に。

 全身の感覚が、後ろから飛来する物体が首筋に当たる事を警告していたが、同時に体がそれを欲しがってる様にも感じられ、僕は動こうとしなかった。


 そしてとうとう首に衝撃が走った。


「ぐっうぅぅ……!!!」


 すごく、すっごく痛い!

 でも倒れない。関係無い。どうでもいい。そんな事より……


 それ以上に僕は怒ってる!!!


「ウガアアアアアアアアアアアア!!!」


 首筋に当たった物体から、何か触手みたいなものが体を覆いだして纏わり付いていく。


「それ以上はダメ!」


 何処から現れたか、僕に怒るなと言った女が背中から黒い水の翼を羽ばたかせて僕の頭に触れようとした。


「ジャマ!」


 腕を一振りしただけで彼女は吹き飛んで広場の壁に激突した。


「ネーコードーモー! モウ我慢ノ限界ダー!! ゲンコツ一発デ許シテヤルカラ出テラッシャイ!!!」


 するとネコの代わりにネコの獣人が広場に集まってきた。

 皆虚ろな目をしているけど動きは速い。襲ってくる。

 が、関係無い。それより……


「獣人ジャナクテ、ネコダネコ! ドコイッタアアアア!!!!!」


 空気が一瞬膨張し周りに衝撃波が飛んだ。

 咆哮をあげるだけで周りの物が獣人がフード集団が吹き飛んだ。

 そしてその中から……


「ミーツーターーー!」


 物陰や中、建物の裏に隠れていたらしいネコ達がコロコロと転がり出てきた。


「クソネコー!」


 ネコに駆け寄ろうとするが、その前に地面に叩きつけられた。


「ンッグウウゥゥア!?」

「怒りだけの理由で動物を殺すな!」

「キュラララララララララ!」


 ヴォルと少年がまた乱入して僕を地面にめり込ませていた。


「邪魔スルナー!!!!!」


 咆哮一発。

 ヴォルと彼が背中から離れる。


「正気に戻りなさい!」


 今度は女が黒い水の翼を拳の形にして降り下ろしてきた。

 『柔軟』で避けようとしたら体がグニャンと曲がりくねって見事回避。


「な!?」


 女も驚いてる。

 今度はネコの獣人達が数十人押さえ込もうと押し寄せてきた。


「ガア!!!!!」


 咆哮の衝撃波で吹き飛ばす。


「少し、落ち着け!」

「キュラララララ!」


 ヴォルが口から蒼い光線を吐いた。ガンホークって光線を吐けるのか? とりあえず『柔軟』で回避。そこに彼が蒼い尻尾で僕を殴った。

 僕の体は壁に激突する。


「イッテーー!」


 すかさず立ち上がろうとするが……


「大人しくなさい!」


 女が黒い水で僕の体を包み込んだ。

 何この水? 全身の力が抜けていく。

 でも、首筋からまた光が溢れだし体にまた凄い力が注ぎ込まれる。

 空気が無いなら、手足で凪ぎ払う!

 パアンと、いい音がして水が弾けた。


「何てエネルギーなの!? あれだけ吸いとったのに!」

「ヴォル」

「キュオ!」


 ヴォルの全身が輝きだした。

 ヤバイ気がするから止めようとしたけど彼が尻尾で牽制(けんせい)してきた。かなり速い。大きいガンホークの風の弾幕よりも攻撃の密度が高いし速い。避けるのに精一杯にな……


「キュオ!!」

「ゲフッ!?」


 溜めが終わったヴォルが体当りしてきた。

 全然見えなかった。

 避けることもできなかった。

 でも、意外に耐えられた。

 今の僕の体はどうなってるんだ?

 いや、今はそれより、


「……オ返シ」

「キュア!?」


 腹に頭をめり込ませているヴォルを両手で掴んで、


「!? させん!」


 彼の方におもいっきり投げ飛ばし、


「く!」

「キュアッ!」


 彼がヴォルをキャッチした瞬間にヴォルもろとも拳で殴り飛ばした!


「オラア!!」

「ゴハッ!」

「キュゴッ!」


 壁に激突してそのまま動かなくなった。


「いい加減になさい!」


 背中の水を天まで届きそうな黒い水の柱みたいにした女と、町中のネコの獣人が集まったんじゃないかと思うほどの獣人の数百人の壁が押し寄せてきた。

 が、


「な!? まだ……」


 また、首筋からエネルギーが体に流れ、柔軟の要領で喉に集束。

 そして……


「止めなさい! それ以上は危険よ!!」


 ……放つ!!!



「ギアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」



 目の前の全てが吹っ飛んだ。

 放射線状にさっきの数倍の衝撃波が飛んで全てを凪ぎ払った。

 そして、


「ゴッパ!」


 口から大量の血が溢れ出た。

 体からパラパラと何かの破片を落としながら地面に倒れる。

 体が急に重く、ひどい気だる感が。喉もめっちゃ痛い。


「は、ははは。すげえなあ、おい」

「ああ、全くだ」

「バケモンかよ?」

「怖いよかあちゃん!」

「お前は後で話がある」


 どっかに隠れてたのか?

 今になってフード集団が出てきた。

 クソ、狙ってやがったな。


「ハハハハハ! さっきまでのテメェなら無理だろうが今のお前ならどうにかなるだろ!」

「死ねぇ!」


 皆、剣やナイフを抜いて僕達を殺そうと近寄ってきた。

 しかしまたしても乱入者。


「そこまでだ! 市民と周りの建物への被害、その他もろもろも含め今回の罪、無事で済むと思うな! ヤツらを拘束せよ!」

「「「「「オオ!!!」」」」」


 騎士だ。

 そう言えば夜中に騒ぎすぎたし、かなり酷いことやっちゃったから誰かが通報して騎士が動い…………


 …………本当に酷いことやっちゃった!!!?

 どうしよう!? ネコへの怒りで色々ぶっ飛んでたけどよく考えたら、やっちゃダメな人達も思いっきり蹴散らしちゃったぞ!?


「君!」


 騎士が一人、こっちに近づいてきた。

 全身がビクッと震える。

 何か、何か言わなきゃ!


「あ、え"え"……ごぱっ、か…………」

「無理にしゃべらなくていい。大変だったね」


 そう言って頭を撫でてくれた。

 そして兜を脱いだ。

 驚いた事に僕とほとんど同じくらいの歳の女の子だった。


「我々が後を引き継ごう。大丈夫、そこにいる者達もちゃんと助けるから」


 そう言って騎士の彼女は仕事に戻った。

 その後の記憶は無い。

読んでくれてありがとうございました

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