4 ネコのお願い『鳥の羽毛』
買い出しを一人で済ませた後、親に新鮮な魚をプレゼントしたら二日前の罰を帳消しにしてくれた。もって二日だろうけど、魚料理は美味しいから客が少しは増えるだろう。何処から持ってきたか聞かれたけど、この前と同じ様に記憶にモヤがかかって思い出せなかったから、偶然売れ残っていたのを見つけたと言っておいた。
それにしても何時も話しかけて来たあの子と今日は会えなかったな。まあ何時もより遅くに買い出しに行ったからもういなくなってても不思議じゃないんだけど、ちょっと寂しい。
しかも変な人に変なこと言われたし……。『これ以上、ネコに関わるな』なんて言ってたけど、ネコってあのネコ達だよね? 返事も待たずに消えちゃったけどそう言うならあのネコ達どうにかしてよ。僕、脅されてるんですけど。
なんて考えながら何時もの日常を過ごしてたけど、魚を甘く見てた。
昼間から店が大繁盛!
客が来る来る来る! あっという間に魚が無くなった。一匹を小分けにして料理を出してたけど、少し張った値段でもあっという間に売れきった。たとえ少なくても一日しか経っていない新鮮な魚の美味しさは半端なかったらしい。まあそりゃあれだけ美味しかったらね~。おっとヨダレが。あ~父さんうれしそう。また買って来いとか言われたし。
昼間のうちに魚が無くなってしまった。後は何時もの常連客が数人。
ン? 黒いフードを被った人が数人いる。見ない人達だな。始めてきたかな?
「ご注文はお決まりで?」
「……一昨日の夜、森にいたのは貴様か?」
「………………え?」
な、何でそれ知ってんの!?
一昨日ってゴブリンの目玉取りに行った日だ!
「……行くぞ」
彼らはこっちをしばらく見つめたあと店を出ていった。
「おい! ボーッと突っ立って無いで仕事しやがれ!」
「え……あ、はい!」
父さんの声で現実に戻ってこれた。
ビックリしたー。
アイツら何なんだ?
また面倒な事にならなきゃいいんだけど。
なんて事があった日の深夜、何時もの広場。
「さあ、今日はかなり危ない所に行くよ? 準備はいい?」
白いネコ、たぶん昨日一緒に行ったネコが僕の足に体を擦り寄せながら聞いてきた。少しうっとおしく感じながら返事を返す。
「毎回危ないし、準備なんてしてこなかっ……」
「ちなみに今回は彼女が案内するからね?」
「聞いてよ」
そしてやっぱり話を聞かない。
「行きますよ、下僕」
「聞いてよー! てかまたあんたか!」
僕をここに連れてきてゴブリン討伐させた腹クロネコ女。
また首根っこ掴まれて引きずられる。
正直苦手。いや、ネコ皆苦手か。
ン?
「ほっぺの傷はどうしたの?」
クロネコのほっぺたに切り傷、いや、引っ掻き傷がついてる。良く見たら昨日一緒に行ったシロネコ以外皆顔に引っ掻き傷があった。
「イイエ、ナンデモアリマセン」
「「「「「ナンデモアリマセン」」」」」
何故片言?
不思議に思っているとシロネコが肩に飛び乗ってきた。
「死なないでね?」
そう言って右の耳を舐めた後、肩から降りた。
え? 加護があっても死ぬ可能性があるの? やっぱり今回もろくなことにならなそうだ。
不安で胸が一杯になりながら、僕はクロネコに引きずられて行った。
着いた場所は、走って一時間もかからない場所だった。ちなみに今回も人の姿になっている彼女を背負って走った。心なしか、何時もより早く走れたような気がする。そもそも加護のお陰で馬の何倍も早く走れるから速度の感覚が曖昧だ。実際にはどれくらいの距離走ったんだろう?
着いた場所は断崖絶壁がいたるところに存在する山の結構深い森の中。
「ここで何をするの?」
「鳥の羽毛を一本手に入れてもらいます」
「それだけ?」
「それだけ」
あれ? 簡単?
ブァサッ
何て考えてた時間が僕にもありました。
よく考えたら『死なないでね?』なんて言ってたんだから簡単なわけねえだろ! 何だこの見たこと無いバカデカイ鳥は!? 見た目10メートルあるんじゃねえか!?
「その鳥の名前は『ガンホーク』。ゴブリンが束になっても敵わない中級種のバケモノです。ちなみに上級種はこんなもんじゃないのでご安心を」
何処をどう安心すりゃいいんでしょうかねえ?
またいつの間にかいなくなってるし。逃げ足の早いことで。
「ギャアラララララララララララララ!!!」
……いや、無理じゃね?
ヤバイ、ガチで今回死ぬかも。
「今回お願いするのは完全な状態のガンホークの羽毛を、抜いてから十秒以内にこの袋に入れることです」
時間制限あり!?
ううおっ! 風の竜巻が発生した! どうなってるの!?
「羽毛が少しでも欠けていればダメなので丁寧にお願いします」
風が痛い! コイツから丁寧に羽毛毟れってのか!?
無理逃げる!
「羽毛が欠けているかどうか私が判断するのに5秒いるので、羽毛を抜いてから5秒以内に持ってきて私に見せてくださいね」
「制限時間が半分になった!?」
さっき十秒っていったじゃん!
ってイタイイタイイタイ! 何これ魔法か? 風に殴られてるみたいに見えない何かが全身を叩いてくる。泣くほど痛い……訳じゃないな。耐えられる。痛いから逃げるけど。
「プッ……クク、ちなみにガンホークは羽毛を抜かれるとぶちギレます」
「余計無理じゃん!」
簡単なんて考えたの誰だ!?
難易度高すぎ!
殺す気か!?
相変わらず楽しんでるし!
とにかくこの竜巻をどうにかして突っ切らないと羽毛に触れる事すら出来ない。
「あ、教えるの忘れてました。ネコの加護を持つ人間は『脚力』『聴力』『拳撃』『夜目』『柔軟』『透尾』『透爪』の【スキル】を持ちます」
ガンホークが竜巻のブレスを吐いた。寸前で避けるが、後ろの大岩が粉々になった。ヒエェ~
……って、忘れてたって何だ!?
「『脚力』は貴方が思った通り早く走り高く跳ぶ事が出来る能力。当然速度で体が千切れないようにある程度の体も頑丈になります」
だからこれだけ早く数日かかる距離を走れたのか。それにこの爆風の中をしっかり立って走っていられる理由もそれか。
「『聴力』は音だけでなく様々な『音』を聞くことができます。練習すれば任意で聞きたい音を聞けるようになります」
よくわからない。
何それ?
「『拳撃』は単純に殴る力が強くなります」
「え!? もしかして、あのガンホーク殴り倒せるの!?」
「付け上がるな下僕」
「ハイ、ゴメンナサイ!」
無理なのね。
「『夜目』は物を反射する夜の闇を光の代わりに見ることができます。後、視力がかなり上がります」
理屈は判らなかったけど、夜にこれだけ物が見えるのはそれのお陰か。
ン? 集中すれば自分の体を叩いてる物も見える。風のボールがガンホークの翼から打ち出されてるのか。
「『柔軟』は体の骨、臓器、筋肉、皮膚をある程度任意で動かすことができ、人の構造以上の柔軟な動きが出来るようになります」
じゃあこの風のボールも避けられるかな? 立ち止まって途切れなく飛んでくるボールを目で見切って体を曲げ……よし、避けれた! そのまま避け続ける!
「最後に『透尾』と『透爪』ですが、これは任意で透明な尻尾と爪を動かせる能力です。『透尾』は自分の半径1メートル以内しか距離はありませんし、『透爪』は自分の指から10センチしか伸ばせませんが、ガンホークの羽毛ぐらいなら切れるでしょう」
よしっ、何だかやれる気がしてきた。
まずはあのガンホークの周りを回ってる竜巻をこの風のボールを避けながらどうするか。
「ギャアラララララララララララララ!!!」
ウオッ! また竜巻のブレス吐きやがった。
ン? 吐いた瞬間周りの竜巻が消えた?
とにかくこのブレスを横に跳躍して避ける。さっきまで僕がいた地面がえぐれた。
今、風の竜巻は、
無い!
「ここだあああああ!」
ガンホーク目掛けて一気に跳躍!
……したけど、空中じゃ風のボールを避けられず迎撃されて地面に叩きつけられた。イッテー。
もう一度! 今度はブレスと同時に背後に廻ってジャンプ。空の高い所から地面の僕目掛けて攻撃してたガンホークの翼に飛び付いて羽毛を掴む。
「よっしゃ!」
でもガンホークが思いっきり羽ばたいた!
「え? うおおおおお!」
それだけで僕は簡単にひっぺがされ地面に叩きつけられた! 今日何回目だ?
「いってええ!」
でも手の中にはガンホークの羽毛!
よっしゃああああ!
すぐにアイツに見てもら…………アイツ何処にいるんだ?
「5秒経過」
「ええええええ!? ちょ、ちょっと!? せめて何処にいるか教えてよ!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……ゲッホゲホ、ン"ン"。貴方が自分で見つけなさいよ。ガンホークの目の前に出ていくなんてヤです」
「自分だけ安全圏で高みの見物とはいいご身分だなクソヤロー!」
「当然でピョ……ン"ン"! 当然でしょう? 貴方は下僕、私は貴方のご主人様なんですから」
「噛み千切るぞコラアアアアアアアア!」
ガンホークを引き連れて走り回る。
怒ったガンホークは攻撃の威力が上がり手当たりしだいに攻撃してくる様になった。でもブレスの回数が増えたのはありがたい!
「おりゃああああああ!」
ブレスを放った時だけ消える竜巻。その隙にまた翼に飛び付く。今度はイメージしたら本当に出てきた爪で羽毛を切り取ってすぐ離れる。
ここからなんだけど本当に何処にいるんだよアイツ。辺り一面見回しても見つからない。
「5秒経過」
「ぎゃああああああああああああ!」
ちくしょう! せっかく綺麗に取れたのに!
その後も……
「5秒経過」
「えええええええええええええ!?」
「5秒経過」
「だあああああああああああああ!」
「5秒経過」
「うわあああああああああああん!」
「プッ……」
何度も羽毛を毟るのに成功するが腹黒ネコを見つけられず時間切れが続く。走り回ってるから腹黒ネコの声もそこかしこに移動して何処にいるかわからないし。
しかし、笑ってる笑ってる。さっきは若干僕が悪かったかなーなんて考えたけど、元々アイツが悪いんじゃないか!?
何時か絶対アイツをボコると神に誓いつつ最初より若干翼が小さくなったようなガンホークに追いかけられる。いつ終わるんだよ?
オウチカエリタイ!
「ううぅ~~~~…………ン? 何だ?」
半泣きしながら走ってると近くの森に数人気配が……。
「いたな。小僧」
あ! 昼間家の店で僕が森にいたことを知っていたフードの集団!
何でここに!?
「あっ!」
「お前の連れだろ? 随分いい女じゃねえか」
腹黒ネコが捕まってる!
よく捕まえたな。感心する。
いや感心してないで、この状況結構不味いんじゃ?
「そこを動くんじゃねえ! そのまま後ろのガンホークに殺されちまいな!」
「ふざけんな! 何でお前らが僕を殺そうとするんだよ!?」
「おっと、いいのか? コイツ殺すぜ?」
腹黒ネコの首にナイフが添えられてる。
何時もあんなにふてぶてしい腹黒ネコ女が捕まって身動きすらしない。頭でも打たれたか? ザマァ…………いや違う違う、そうじゃないでしょ。いくらうざくてもこんな訳もわからんフード集団にいきなり殺されるのはかわいそうだ。
立ち止まってガンホークの風のボールを避けながら必死に考える。どうしよう? フード集団の人数は五人。僕の今の速度なら強行突破で助けられるだろうか?
……無理だ。
「ギャギャアアララララララララララララララララララ!!!」
「……くそぉ」
ガンホークが竜巻のブレスを僕にに向けて放った。
避けることは、しない。
そのまま風の暴力が全身を襲った。
「ぎゃいいいああああああああ!!」
ちょー痛い! 大岩を砕く威力だったからかなり効く!
ブレスが終わって自分の体を確認したら全身から血が出てた。服もボロボロだ。でも僕の体は耐えきった。少なくともあの大岩よりは固いのか僕の体は。本当に加護ってスゴいな。
「ハハハハハハ! とっととくたばれー!」
視界の端でフードの集団が笑ってる。
それに合わせる様に、ガンホークが追い打ちをかけてきた。今度は風のボールだ。視界を埋め尽くす風のボールが壁みたいに僕を襲う。
僕は動かない。避けもしない。
でも……
「キュラララララララララララララ!」
「「「え?」」」
「……え?」
『夜目』のスキルのお陰で何が起こったかハッキリ見えた。
僕の目の前に蒼い、6メートルぐらいのガンホークが翼を盾にして乱入してきた。蒼いガンホークは打ち出された風のボールを完全に防ぎ切り、僕を守ってくれた。
そして唖然とするフード集団を横から蒼と白が交互に入ったボサボサ髪の蒼い目をした子供が強襲。腹黒ネコを掴んでいた男を蹴り飛ばし腹黒ネコを助けてくれた。
フード集団も大きいガンホークも、それに僕も何が起こったかわからず硬直した。
その中で乱入者である彼は静かに僕を見て口を開いた。
「この女を、守れるか?」
答えは決まっている!
「任せろ!」
僕は未だに唖然とするフード集団の懐に『脚力』と『柔軟』のスキルを利用して滑り込む。そして彼は僕とすれ違いながら大きいガンホークの方へ突撃した。
僕は『拳撃』でフード集団を二人殴った。それだけで二人の男を背中から木に激突し気絶した。しかしこの残りのフード男二人とさっき蹴り飛ばされた後立ち上がった男は何だか攻めづらい。隙が無いって言うのかな? 取り合えず腹黒ネコを背後にして守る。
「何なんだテメェらはよ!? 最初っから仕組んでやがったのか!? 仲良く共闘しやがって!」
「彼の事は知らないよ! でも助けてくれたから悪い人じゃないと思う!」
「ちくしょう! ちくしょう! 何なんだよ本当に! ことごとく俺達を邪魔しやがって!」
何の話だよ?
とにかく相手に隙が出来ないと近付けない。叫びながらも隙が無い相手ってやりづらいな。
何かないか考えていると後ろででかい音がした。その時地面が揺れて敵の重心が少しだけズレた。
隙は逃さん! 足場の地面が弾け自分の体が残りの敵に向かって突っ込む。地面に深く沈み込んだ姿勢から一番手前にいた男を『拳撃』で殴り、その後ろにいた男にぶつける。
しかしそこに重心が戻ったわめいてた男が緑色のナイフを振りおろしてきた。今の姿勢は自分の体重を乗せた拳を突きだした状態で簡単に戻せない。だから、そのまま前に倒れ込んで前転した後起き上がる。
そこにまたしても男がナイフを振り抜いてきた。
起き上がったばかりでさすがにかわせない。
向かってくるナイフがやけに遅く感じる。
でも、まだ死んだ気にはならない。
まだ何か……
バシンと、手を叩きつけた音が鳴り、男の手からナイフが落ちた。
『透尾』。
たしか半径1メートル以内なら自在に動かせる透明な尻尾。
それで男の手を叩いてナイフを叩き落とした。
ぶっつけ本番だったけどなんとかなったな。
唖然とする男を殴って終了。
「終わったか?」
彼の方は既に終わっていた。
見ると、地面に叩きつけられた大きいガンホークの上で蒼いガルーフォーンが誇らしげに胸を張っていた。さっきの地震は、ガンホークを叩き落とした音だったのか?
何をしたんだ?
何者なのかな?
「ありがとう。助かったよ。君が来てくれなかったら死んじゃう所だったかも」
「彼女は?」
「お疲れ様でした」
ピンピンしてるよ。実は最初っから最後まで全部計画済みだったんじゃ?
……あり得そう。
「依頼は終わったか?」
「はい。終わりましたからとっとと消えるか死ぬかしてください」
勝手に二人で会話を始めやがった。しかも何だか腹黒ネコが不機嫌だ。言葉のあちこちにトゲがある。何の話してるんだ? あ、でも腹黒ネコがほっぺを膨らましてる。かわいいけど、彼の事嫌いなのかな?
でも、結局やっぱり知り合いだったか。ここで僕を助ける依頼でもしたのか?
「しかしガンホークを討伐して既に5秒経過しています。生きた状態から抜き取って十秒以内なのでコイツはもう使えません。なのでもう一匹探しに行かなければいけませんね」
ついでのように死刑宣告してきたし!
モウヤダー!
「ヴォル」
「キュア!」
嘆いていると彼のガンホークが蒼い羽毛を落とした。
「はい」
そして差し出してきた!
「いいの!?」
「……(コクン)」
「あ、ありがとう!」
すぐ腹黒ネコに鑑定してもらう。
「……はい、大丈夫です」
十秒以内に袋に収納完了。
終わったあああああああああ!
「ううおおおおおおっしゃああああああああ!!」
あ~感動して涙がでてきたよ母さん。
感動していると腹黒ネコが寄ってきた。
何?
「何で動かなかったのですか? 見捨てても当然でしょうに」
たぶん、自分が捕まってる時、僕が避けずにガンホークのブレスを浴びたことについてだろう。やっぱり起きてたか。
しかし……
「……何でだろうね? 僕、お前ら嫌いなのに」
「……生意気です。この下僕」
クスリと笑いながらそう言って、彼女は左の耳に噛みついた。
カリッ
「イッテ!」
「あえて教えなかった事がいくつかあります」
「またかよ!」
「貴方に与えたものは『脚力』『聴力』などと言ったものではなく、『猫化』という【スキル】です」
「……ハ?」
「貴方に与えた物は3つ。『猫の加護』、そして『猫化』です。後1つはどうでもいいので言いません」
「どうでもいいなら何故くれた?」
「『猫の加護』は身体能力が上がるだけでなく、神経が図太くなります。考えても見てください。貴方ほどの子供がこんなガンホークの様なバケモノ相手に縮み上がらない訳がないじゃないですか」
「…………なるほど」
「次に『猫化』ですが、これはさっき【スキル】として教えた物の効果がこれ1つに集約されています。多少名前も違いますが」
「ヘェー」
「最後にもう1つ。貴方にお願いする依頼、後2つについてです」
「え? 後2つで終わりなの?」
「はい。依頼は、ですが」
「……ふーん。そっか」
「? 喜ばないんですね。ただ、依頼は落ちると罰がありますよ?」
「ハア!? 罰!? 何で!? 何なの!?」
「知らない方がいいでしょう。ただ、なるべく依頼、いや試練は落ちないでくださいね」
何処か、心配しているような言い方された。何時もの押さえつけるような言い方じゃなく、優しく、まるで僕が大切だから言っているの様に。それ以上は何も話してはくれなかった。
町に戻りネコ達に依頼を済ませたのを報告したその後。
僕は突然乱入して色々助けてくれた彼にお礼をするため店で料理を作っていた。(フード集団は森に放置)
一応この店を継ぐことになっているから、父さんにある程度は料理を叩き込まれている。それなりのものは出来るつもりだ。
命を助けてくれたからには、半端な料理は出したくない! 勿論蒼いガンホーク改め、ヴォルにもいいものを出そう。彼と同じく僕を助けてくれたから。家の食材を勝手に使うから、父さんには絶対バレるけど、知ったことじゃない! 怒られずに済むよりは恩を返す方が大事だ。甘んじて叱られてやる。
でもすごい久しぶりな気がする。こんなに一生懸命料理を作ったのは。料理の腕がある程度になってからは情熱が無くなったんだよな。何時ぐらいからだっけ?
とりあえず、できた料理を出していった。
そしたら……
「おかわり」
「キュラララララ」
「おかわり」
「キュラララララ」
「おかわり」
「キュラララララ」
「おかわり」
……
食べる、食べる。気にせず食べてくれと言ってあるけど無茶苦茶食べる。ヴォルも必死にクチバシで料理をついばんで食べまくる。料理を出した端から綺麗な真っ白い空のお皿が積み上がっていく。店の食材全部食べ切るんじゃないか?
それと、後ろの廊下に三人の人間の気配が。まだ『猫の加護』が残っているから気づいてしまった。子供一人と大人二人。間違いなく家族の三人だ。起こしちゃったか。まあいつも朝早いし、起きてもしょうがないか。でも僕を止めようとはしないでじっとしてる。何してるんだ?
「あんなに楽しそうに料理をしている、何時ぶりかしら?」
「とうとう、料理の醍醐味を理解したか」
「あの人カッコイイ……」
少し集中したら家族の会話が聞こえた。そっか、これが『聴力』スキル。いや、『猫化』だったんだっけ。
でも、怒ってない? 何だか嬉しそう? 妹は聞かなかった事にする。
「美味しい。ありがとう」
「キュアア!」
しかし、自分が作った料理を直に食べて美味しいと言ってくれるのは、うれしい。
まあ、出てこないしどうせ怒られるんだから、自重しないで料理を出そう!
「おう! おかわりいるか!?」
「よろしく」
「キュア!」