灰色の世界から
オススメ、『サウンドオブライフ』でも聴きながらお楽しみください。
一筋の光が射し込む牢屋。
周りは全て灰色のレンガの壁。
天井は遠く、真っ暗。
風も入らず音すらもない。
この部屋はホコリにまみれている。
身動きすら取らない少女と一緒に。
広さは少女が横たわれる程度の広さ。
少女は何も考えない。
少女にとって光が少し入る鉄格子と灰色の壁が全てだから。
そこから見える外だけが知っている世界だから。
声の出し方も当の昔に忘れてしまっている。
だから部屋の鉄格子に小鳥が留まった時、少女は初めてとも言える声を上げ体を揺らした。
ホコリすら舞わなかった部屋の中、身動ぎした少女の周りのホコリが、僅かに舞い上がる。
バサバサッ
小鳥も気になったのか部屋の中に入ってきた。
僅かに舞い上がるホコリ。
その床に小さな音と共に小鳥がとまった。
少女は小鳥を凝視し、小鳥も少女を凝視する。
ホコリが舞って射し込む光に反射し、光の線が出来る。
光は小鳥のみを照らした。
小鳥と少女は姿形以上に様々な物が違っている。
嗅いできた香り。
聞いてきた音。
肌で感じてきた温度。
見てきた景色。
知る世界。
様々な物が、違う。
まさに少女と小鳥は正反対だった。
自由と窮屈。
光と影。
上位種と下位種。
少女は凝視した。
自分よりはるかに小さく、たまらなく愛らしく、限りなく自由なモノを。
小鳥は凝視した。
自分よりはるかに大きく、たまらなく美しく、限りなく窮屈なモノを。
お互い理解はしていなかった。
少女は何も考えず、小鳥も考える脳は持っていない。
どれぐらいの間見つめ合っていたのか、小鳥が不意に視線を外した。
「ぁ……」
少女はか細い声を上げた。
しかし小鳥は羽ばたき鉄格子から外に出ていってしまった。
少女は初めて立ち上がろうとした。
何故立ち上がろうとしたのか?
何故小鳥に向かって進みたいのか?
何故心が疼くのか?
それを不思議と心地よく感じながら、少女は鉄格子に近づこうとした。
しかし長年動かさなかった体は言うことを聞かなかった。
それでも少しでも鉄格子に近づこうと少女はもがいた。
小鳥の後を追うように、鉄格子に向かってもがく、もがく、もがく。
ホコリが舞うのも気にせずに。
そしてついに少女は鉄格子に寄りかかった。
鉄格子を揺する。
しかし鉄格子は壊れる事なくびくともせず音すらもしない。
全く動かない鉄格子を、されど少女は揺すり続ける。
ずっと、ずっと、ずっと……
どれだけ時が進んでも、少女は揺する。
鉄格子は動かない。
それでも揺する。
それでも動かない。
それでも揺する。
それでも動かない。
それは果て無き平行線のように。
揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する、動かない、揺する…………
………………ガタンッ!
そして、耐久力の限界か鉄格子は前触れもなく、外れた。
ついに少女は外に出た。
そして少女は『外』を知った。
鉄格子越しの空と灰色のレンガしか知らなかった少女の瞳に虹色が飛び込む。
空の蒼が、
雲の白が、
森の緑が、
土の黒が、
落ち葉の茶色が、
川の魚の鱗の虹色が。
そして、
目を焼く熱い太陽を知った。
清んだ空気の匂いを知った。
肌を撫でる風を知った。
小鳥の声と川のせせらぎと木々のざわめきを初めて聞いた。
少女は理由の分からない体の震えを、たまらなく愛おしく、楽しく、嬉しく、苦しいほどの歓喜と熱を心地よくかき抱いて……
……とうとう少女は背中の翼を拡げた。
純白の羽を羽ばたかせ、白髪の天使の少女は空へ飛び立つ。
あの鳥を追って。
もう少女を阻む灰色の壁はない。
空は限りなく自由で清み渡っていた。
それから近隣諸国では度々空で鳥を追いかける純白の天使を見たとか見なかったとか。
おまけ
「ねえ、ママ。お空に女の子」
「コラ、見てはいけません!」