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「えっ……、家来るの………?」
笑ってうなづく新山に海月は驚きたじろいでしまった。
高校3年生は明日から夏休み、進学も就職も、何も考えていなかった海月は進学希望の新山の邪魔をしないようにしないと…と考えていた矢先の申し出だった。
「いいけど……誰もいないよ?」
新山は構わないと笑うので海月は承諾してしまった。
「ど、どうぞ……」
「うわ、まじ誰もいねえー」
玄関には、スニーカーが二足だけ。ー人暮らしなのは明らかだった。
高校3年になる手前、父親が突然消えた。母親はずいぶん前に帰らなくなっていたので、このアパートにはもう海月しかいない。
二人の荷物は物置部屋にまとめてある。海月には不要な物しかないからだ。
「……海月、遮光カーテンなの?」
新山がカーテンを軽くつまむ。真っ黒で分厚い遮光カーテン。太陽を嫌う海月は父親が消えてから、こつこつとすべてのカーテンを遮光カーテンに変えた。