ヘンゼルとグレーテルでも同情しないレベル
タケルくんとサアヤちゃんが、一緒にお散歩をしておりました。
「あ、見て!」
不意にサアヤちゃんが驚きながら指をさしています。一体何を見つけたのでしょうか、サアヤちゃんのさす指の先を辿ってみると……。おや? 地面にホカホカの骨付きチキンが落ちているではありませんか。
大きな骨付きチキンを見つけて、くいしんぼうのタケルくんは大喜び。むしゃむしゃと食べてしまいました。
「地面に落ちていたものなのに……。お腹を壊してもしらないわよ」
「だってさ、サアヤちゃんだって見ただろ? 大きな大きな、今にも肉汁が溢れだしそうなあの骨付きチキンを! あれが腐っているはずがないよ、きっと美食家が落としていった弁当のおかずに違いない」
困ったものだわ。サアヤちゃんは思いました。
「旨かったなあ」
肉の油を口の周りにべっとり付けて、ご満悦なタケルくん。お腹が痛くなる気配なんて微塵にも起きません。
二人が散歩を続けていると、あらあら、またもや目の先に食べ物が落ちているようです。
ここまでおいでと誘われているかのように、三歩先には熱々のハンバーガー、そのまた先にはフライドポテト。もっと遠くを見てみると、シュークリームまで落ちています。それだけではありません。ハンバーグにグラタン、コロッケにビーフステーキ、揚げパン、クリームパスタ、バニラシェイク……。安い舌に合うものからグルメの一品まで、さまざまな食べ物が道しるべのごとく続いておりました。
「こいつは良いや! 道に落ちている食べ物をこのままずっと辿っていけば、きっとゴールに何かある!」
うまい、熱い、ジューシー! 拾ってはむしゃむしゃ食べ続け、彼はどんどん先へいってしまいます。
その動きがあまりにも速いので、サアヤちゃんはみるみる置いてけぼりに。食べかすが落ちているだけで、彼の姿ったらどこにも見当たりません。
「もう、どこまでいったのよう!」
くいしんぼうのタケルくん、果たしていつまで持つのかな?
「ハア、ハア、ハア」
息を切らして走るサアヤちゃん、食べられた痕跡の一本道に沿いながら、必死になってタケルくんを捜します。
そしてついにゴールを見つけました。食べかすの一本道は、ここで終わっていたのです。
「まあ。大きなケーキ……」
段を三つ連ねる巨大な白いケーキに、かぶり付かれた跡がありました。最後の食べ物だけ、完食されてはいなかったのです。
しかしそんなことはどうでもいい、タケルくんはどこだろうと、サアヤちゃんがケーキよりも遠くを見やると。
「アッ!」
丘に立つ真っ黒な墓石。
その隣にタケルくんが、仰向けで息絶えていたのです。
背は伸びていたものの、愛らしかった顔は中年のものに変貌しきっており、幼児体型だったお腹はでっぷりとしたビール腹に。ぷにぷにだった足の指はどす黒くなって、壊死を起こしています。
「タケルくん! タケルくんーー」
ここでCMのテロップが流れる。
『2型糖尿病にはご用心! 食事バランスに気を付けよう』
ちょうどデリバリーピザを頬張っていた大男が、テレビの前で一発吠えた。
「くそ食らえが!」
何故かピザ以外の強い香ばしさを感知したので振り向くと、女の子がいた。
「ねえ見て! 窓の向こうに骨付きチキンが」
まばらに滴る肉汁が大男を誘惑している。