偽りの恋*続
息を切らして立っている貴方は信号が変わるとすぐ私に向かって走ってきた。
「紗綾ちゃん」
「はい?!」
「俺と付き合ってください」
「えっ、あっはい!」
私の顔からも高城さんの顔からも笑顔がこぼれていた。
2年越しの片想いが今叶った。
結希くんが私にチャンスをくれてから1年近くが経った。
「悟!そろそろ行くね」
「うん。あっ紗綾。結希さんになんかされたら電話しろよ」
「なんかって何よ。大丈夫、されそうになったら‘高城紗綾’だけどいいの?って言うから」
「そうだな。行ってらっしゃい」
笑顔で玄関を出ると鞄の中で携帯が振動した。
メールの送り主は結希くん。
「今、マンションの前に着いたよ!」
今日は4月25日。
もう一人の私の命日。
2年前、私が走り去ってから結希くんから来たメール。
「気持ちが落ち着いたらでいいから、一緒に紗綾の墓参りにきてほしい。」
その墓参りに今日行くことになった。
マンションの前で待っている結希くんのところまで行くと
「遅いよ。早く行かないと紗綾に怒られちゃうよ」
と言われた。
私はちょっと急ぎめで車に乗って、
「ちゃんと紗綾さんに謝らないとね」
と言うと結希くんはハンドルを握りながら頷いた。
見慣れた街が過ぎてくなか、私は今までのことを思い出していた。
結希くんの彼女になったこと。
Barで悟と知り合いになったこと。
もちろんあの日のことも......
あの時私は1週間ぐらいお酒を飲んでは寝て二日酔いになってまた飲んで寝ての繰り返しだった。思い出し笑いしていると、
「紗綾。着いたよ」
と結希くんに言われた。
車から出ると潮の匂いが鼻をくすぐった。
私は大きく深呼吸してから紗綾さんのお墓に向かった。
先に行っていた結希くんは
「紗綾、一年ぶりだね。今年はねいろんなことがあったよ。話しきれないぐらいいっぱい。あっ、前に紗綾にバイバイって言った後駐車場で悟に会ってさ、紗綾のところに来たんだってね。悟と会うの久しぶりだったでしょ。俺らなんも変わってないんだよね。それはそれで良いと思うんだけど成長してないってことだよね」
そう言って笑う結希くん。
その笑顔はいつもテレビで見る結希くんだった。
でも笑うその目には涙がたまっていた。
私が数メートル離れたところから声をかけると、急いで涙を拭って
「早く来いよ。紗綾が待ってるぞ。」
と言った。
紗綾さんの前まで行くと結希くんが
「紗綾、この子紗綾と同じ名前なんだよ」
「結希くんの彼女‘だった’北山紗綾です。初めまして」
「だった。をそんな強調しなくてもいいだろ。結構へこんだんだから」
と笑った。
「紗綾さん。結希くんのこと幸せにしてあげれなくてごめんなさい。やっぱ私じゃ紗綾さんのかわりになれなかったみたい。でも紗綾さんの分までこれからちゃんと結希くんのこと見守ってる。私これから毎年この日に会いに来ますね。それで結希くんのこといっぱい報告する。もちろん悟のことも、PEACEのことも....毎年ちゃんと来る。紗綾さんはもう一人の私だから。だから安心してね。じゃあまた来年来ますね。紗綾さんまたね」
そう言って振り返ると結希くんに
「ありがとう」
と言われた。
この日から私の心の中に新しい引き出しができた。
それはもう一人の自分。
堀宮紗綾さんの存在。
今まではその名前から目をそらしていたがこれからは違う。
私の一番大切な人。
また来年会おうね。
紗綾さんバイバイ
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