第七話:過去からの刺客――視線――
「目標確認。……私怨はないが、死んでもらうでござる」
「っ……!」
くぐもった声に続き、ひんやりとした金属性の何かが光の喉元に突き付けられる。
同時口を塞がれているため声はだせない。
「この世に何か言い残す事は?」
――にも関わらず、無茶な情けを掛ける謎の人物。実際口を塞がれていなくても今の光では声は出せないだろう。
(首と口以外)何の制限も受けていない身体だが、恐怖のあまり石の様に硬直している。
その沈黙を無いものと見なし、鋭い目付きに変わる。
「では―― 」
昼休みも中盤に差し掛かり、各々が友達との雑談に没頭している泉稜高校の教室。
その中で、賑やかなクラスメイトの声をBGMに静かな寝息をたてる少年がここにも一人。
しかし、その睡眠は光の消え入りそうな声によって中断される。
「んぇ? 狙われてる?」
食事を済ませ自分の席で熟睡していた攻司が重そうに頭を上げる。
呆けた攻司の顔とは対照的に、神妙な面持ちの光が小さく頷く。
「ん〜……。またストーカーか? なんか前にもあったよな?
うざったいってゆーなら追っ払ってやるぞ?」
一見地味な光だが、密かに男子からの人気は高かった。
現在も彼女の姿を目で追っている男子が数人、数か月前にはストーカー騒動があった程だ。
「違うの……。ストーカーとかじゃなくて殺気を感じるの」
「殺気!? マジで!?」
半分寝呆け眼だった攻司の目が大きく開く。
その表情には若干――というより大いに好奇心が滲み出ている。
「うん……。今朝も背後から鋭い視線がっ!?」
光がそこまで言い掛かった刹那、突如光の身体が萎縮し反射的にしゃがみ込んだ。
同時に『ゴッ』という鈍い音を立てるのを忘れない。
「だ、大丈夫か?」
「うん……。ちょっと痛いけど大丈夫」
イタタ、と額を押さえ立ち上がる光。その目尻には溢れんばかりの涙を溜めている。
「何? 今の音。――あ、たんこぶ!? ちょっと攻司! 光に何したのよ!?」
どこからかやってきたミサが光の異常に気付き、攻司の胸倉を掴む。
「どわっ!? オ、オレは何もしてねー!」
「違うの! コウジ君じゃなくて――」
「な〜んだ、またいつものドジか。それにその視線ってゆーのは、ストーカーじゃない?
光は自分が思ってるよりずっとモテるんだから」
「そ、そんなこと……」
「はいはい、ストーカーで決まり。そんな陰気な奴気にしないの。
また攻司にでも追っ払ってもらえばいいじゃない」
ポンポンと光の肩を叩き、攻司に視線を送る。
しかし当の攻司は目を細め黙り込んでいた。
その視線はある一点を凝視している。
「コウジ君?」
「どうかしたの?」
「ん、ちょっと……な」
その攻司の視線の先、教室の壁には長さ五cm程の深い切れ込みが入っていた。