第四話:未来からの訪問者――それぞれの時間――
「――うっし、オレは駅の方に行ってみるかな。二人はどこに行くんだ?」
「私はここの近辺」
「じゃあボクは学校の方かな〜。もしかしたら部活動中の女の子と出会いが……。えへへ」
「……頼むから真面目に捜してくれ。とりあえず三時間くらいしたらここに帰って来いよ」
あからさまに不安がる攻司を余所に、こうして本格的にあかりと衛司の両親捜しが始まった。
「あー、もう。手掛かり無しで人なんて見つかるわけないじゃない。相変わらずバカなんだから。……あ」
一時は好意的に両親捜しの協力を試みたミサだったが、
捜索から三十分余りが経過するといかにも不満そうな顔で愚痴を零していた。
そんなミサの視界に入ったのは、最近出来たばかりの小洒落た喫茶店。
この建物の多くは木材を用いており、アンティークな雰囲気が売りの店で、
ミサの友達間でも店と制服がかわいいと評判は上々だ。
「……。ちょっとくらい、ね」
そう呟いて、吸い込まれるように店の中へと消えていくミサだった。
「はぁ〜、何でこの時間なのに校庭には女の子がいないの?」
部活動中の女子に期待をして学校へ向かった牧村だが、そこには理想の世界はなかった。
現在泉稜学園の校庭を使用しているのはアメフト部とテニス部。
しかしその二つの部活は校内でも最下位を争う程の弱小ぶりで、廃部寸前と言っても過言ではない状態だ。
当然そんな弱小の部活にはマネージャーも就かず、さらに幽霊部員も差し引かれて校庭はガラガラだ。
「……帰ろうかな」
「――はい。よろしくお願いします」
一通り用件を済ませ駅前の交番を後にする攻司。
先程警察を頼るのは最後の手段とは言ったが、それでも捜索中に交番へ届けが出る可能性も大いに有る。
というわけで、事前にデジカメで撮っておいた二人の写真を渡し連絡先も伝えておいたのだ。
ちなみに慎とミサもこの写真を所持しているが、今のところ全く活用していない。
「さてと……。後は自力で捜すか」
そんなことは見ず知らず、真剣な顔つきで捜索を再開する攻司だった。
一方桐生家では――
「ママ〜みてみて〜」
「え? 何?」
「びよよ〜ん」
「――っ!?」
間の抜けた衛司の声と共に光の眼前に現われたのは、ムカデ――を真似たゴム製の玩具だった。
それを見た光は一瞬でメデューサの眼を見てしまったかの様に石化し、同時に口から煙の様なモノも排出した。
「あれ? ママ?」
「……」
「ママ〜」
今度は衛司ではなくもう一人の子供、あかりが光の傍に寄ってきた。
「ママ〜、ちがでちゃった〜」
「――え!? 血!?」
スゥッと先程口から出た煙の様なモノを吸い込み石化を解く。
『ち』という言葉に反応しあかりの身体を調べると、
親指の付け根の辺りから少量の出血があるのが分かった。
「キャー! 血がーー! 救急箱救急箱!」
「きょうのママ元気いいね」
「うん」
青ざめて絶叫する光を横目に極めて穏やかな二人。
あかり、衛司共に攻司の血筋(?)か、血に驚く様子は微塵もない。
「いったーい! 脛打ったー!」
――そんなこんなで約束の三時間が経過していくのだった。