第三話:未来からの訪問者――捜索開始――
「―― え〜と……。つまり、エイジ君もあかりちゃんと同じく変な機械で遊んでたら突然この辺に来ちゃって、
光達に会ってここまで来た?」
「うん」
「んで、エイジ君のママも光でパパもオレ。そしてあかりちゃんとエイジ君は兄妹だと」
「そうだよ」
信じがたい事実を青ざめた表情で確認する攻司だったが、
先程の光に対する態度と同じ様に『なにいってんの?』と言わんばかりの調子で返答している。
「何てことだ……。オレはこの歳で二児の父親……。さようなら、ボクの青春」
遠い目をして全てを悟ったかの様な攻司。
その横顔はとても高校生とは思えない程大人びて、本当の二児の父親の様だった。
再び攻司に抱かれているあかりも先程と同じく、幸せそうな笑みで攻司を見つめている。
そんな姿を見てどう思ったのか、今まで鋭い目付きで黙っていたミサが口を開く。
「はぁ〜? バカみたい。身に覚えがないんでしょ? だったら子供なんているはずないじゃない」
「あ、ああ。そうだよな」
「そ、そうだよね? 私も産んだ覚えないし……」
「ミサってたまに的確なこと言うよな」
「ふん、私は攻司とは違っていつも的確な発言しかしません」
馬鹿にしているわけでなく、むしろ褒めている攻司の言葉だったが何故か不機嫌そうにしている。
これはいつもの事で、こういった態度から度々攻司と衝突していた。
ただ、今回は自分達(?)の子供の手前、そのミサの態度に頬をピクピクさせながら耐える攻司だった。
「まあまあ、とにかく買う物かって攻司の家にでも行こうよ」
この空気を気まずいと感じたのか、単なる思いつきなのかは定かではないが、
大抵の女子なら歓喜の悲鳴を上げるであろう、爽やかな笑顔で牧村が二人の間に割って入った。
「……。ま、攻司がどうなろうと構わないけど光がね」
攻司達が話していた場所はどこにでもあるコンビニ前の駐車場だった。
お昼時ということもあって当然客足も多く、中には興味津々といった感じで立ち聞きしている人も数名いた。
「あ、あはははは……」
あかり、衛司が欲しがっていた物やお菓子類などを買い終え、桐生家の居間に集まり寛ぐ面々。
しかし、ミサだけは依然浮かない顔をしていた。
「何で私まで……」
「何だよ? 何か文句あるのか?」
「大ありよ。何で私まで攻司の家になんか」
「だったら来なきゃよ―― 」
そこまで言いかけた攻司がピタリと止まる。
いつもとは違う視線を感じ、下を見ると今にも泣き出しそうなあかりの姿があった。
ヤバイ、と一瞬動揺した攻司だったが、直ぐに機転を利かせニカッと笑顔を送る。
その顔を見て安心したのか、また攻司の懐に深く腰掛けるあかりだった。
ちなみに衛司も攻司とあかりの構図と同じ様に、光の腕の中に納まっていた。
「はあ、まあいいや。それよりこれからどうする?」
「やっぱり二人の親を捜すしかないよね。警察とかに預けるのも可哀想だし……」
「そうだな。警察は最後の手段としておこう。自分の子供を捜すとなればそれなりの焦りが出てるだろうし、
親捜しもそこまで難しくないだろう。それじゃあ――」
「攻司……」
「ん? 何だ?」
桐生家についてからずっと黙り込んでいた牧村が蒼白な顔でポツリと囁く。
「と」
「と?」
「ともみちゃんはどこー!?」
「はぁ?」
「ともみちゃんだよ! ともみちゃん! どこ行っちゃったの!?」
慎が叫んでいる『ともみ』というのは攻司の妹の事である。
現在攻司達が通う泉稜学園の小等部五年生で、慎は攻司の妹という事実を知る前からともみに好意を寄せていた。
その為、一部の人からは『ロリコン』というレッテルを貼られている。
「ああ、ともみは友達の家に泊まりにいってるよ」
「そ、そんな……。それじゃあ攻司の家に来た意味が……」
「お前はともみに会うために来たのか」
はあ、と溜め息をつく攻司。そうして暫くうな垂れた後、三人の様子を伺う。
ガックリとしている牧村、懐の衛司と戯れている光、その辺に散らばっていた雑誌を読んでいるミサ。
三人とも実にリラックスしている。
「――じゃあ、二人の親を探しに行こう。光は家に残って二人の面倒を看ててくれないか?」
「あ、うん。エイジ君、あかりちゃん、一緒にお留守番しようね」
「は〜い」
「お前は違う。一緒に捜すんだ」
元気よく手を挙げて返事をする二人に紛れ、何故か牧村も手を挙げ光の傍に寄っていた。
当然それを見逃さず攻司ではなく、牧村の頭を掴みズルズルと玄関へ引きずって行くのであった。
「痛い、痛いよ攻司?」
「ミサも手伝ってくれるよな?」
「どうせ嫌だって言っても連れて行くんでしょ? 別にいいわよ、可愛いお子チャマの為だし」
「サンキュ」
こうして衛司、あかりの本当の親を捜すべく三人の捜索が始まった。
「ねえ、攻司? 痛いよ? 痛いってば」