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時空を越えて  作者: 飛燕
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第二話:未来からの訪問者――遭遇――

「ん〜、やっぱり午前授業は楽ね〜。それにこの秋の陽気は最高」

 グーッと空に向かって伸びをしている少女、相沢ミサ(あいざわ みさ)。

 スラリと伸びた長い手足がさらに長く見える。

 ブロンドに染められた髪は後ろで一つに束ねられ、ミサの動きに合わせて揺れていた。

 普段は目尻の上がった気の強そうな目付きだが、この時ばかりは眠り猫のような柔らかな表情になっていた。

 絶妙のバランスを取った小さ目の口、筋が通り形の整った鼻、そして意志の強そうな瞳。

 加えて女子にしては少し高い身長、見事なまでにバランスの取れたスタイルは、モデルに引けを取らない程だ。

 その為か、泉稜せんりょう学園高等部に入学してから二年余り、ミサの前に散っていった男子は数知れない。

「ほら、光もやってみなさいよ」

「え? こ、こう?」

 頬を赤らめ遠慮がちにミサの真似をする少女、春日光かすが ひかり

 ミサに比べ少し小柄で輪郭や身体の線も細い。

 クリクリとした目は見るものを引き込んでしまいそうな、神秘的な輝きを秘めていた。

 また、目以外の顔のパーツは一つ一つが小さく、実年齢よりも幼く見られることが多々あった。

 肩まで伸びたその細い髪は、日差しの為か茶色を帯び秋風にサラサラと揺られていた。

 全体的にほわんとしていて、ミサを含む少々気の荒い人達をも和ませてしまう、独特の雰囲気を醸し出していた。

「どう? 気持ちいいでしょ?」

「うん、そうだね。このまま寝転がりたいくらい―― 」

「うわっ!?」

 伸びの姿勢のままゆっくり歩いていた光は、ちょうど曲がり角に差し掛かったところで、

勢いよく向かってくる何かと正面衝突した。

 比較的体重の軽い光だが衝突の衝撃で倒れたのは光ではなく、もう一方の人影。

 多少のバランスを整え地面に目をやると、小学校低学年くらいであろうか、幼い少年が尻餅を付いていた。

 その姿を見た途端、光の顔が蒼白になり、数秒後には今にも泣きそうな顔になっていた。

「あっ、だ、大丈夫? ごめんね? どこも痛いとこない?」

「いてて……。うん、だいじょうぶ――あ! ママ!!」

「え?」

「ねえ、ママ。あかりみなかった?」

「え? マ……ママって私の事?」

「そうだよ?」

 突然の『ママ』という発言に動揺する光に疑惑の表情を浮かべる少年。

 完全に光は母、自分はその子供、というのを信じて疑わない眼差しだ。

「うわ〜光もやるわね。いつの間に子供産んだの?」

「そ、そんなわけないでしょ!? えと……。キミのお名前は?」

「え? 衛司えいじだよ。忘れちゃったの?」

「えっとね、私とエイジ君は今日初めて会ったんだよ?」

「?」

「……あれ? 初めてだよね?」

 お互いの話が噛み合わない。

 衛司は依然『何言ってるの?』という態度のままだが、

 光はその態度に押され始め『自分の子供だっけ?』と真剣に考え出そうとしていた。

 そんな様子を見かねたミサが口を開くが、その口元は斜めに釣りあがっていた。

「ねえ、エイジのお母さんの名前は何ていうの?」

「光!」

「じゃあ、お父さんの名前は?」

「攻司!」

「と、いうことは……ねえ、名字は桐生じゃない?」

「うん、そうだよ。どうしてしってるの?」

 相変わらずキョトンとしている少年を無言で見つめ、再び光の方に向き直る。

 そして滅多に見せる事のない満面の笑顔を浮かべ、今光が最も認めたくないであろう事実を宣告する。

「うん、やっぱり光と攻司の子供ね。おめでとう」

「ち、違うよ〜。こんな年でこんなに大きな子供がいるはず……」





「いや〜それにしてもやるもんだな〜。今十七だから十三くらいの時にはもう……やるね〜、攻司」

「……いや、絶対違う。偶然同じ名前のそっくりさんなんだよ、多分」

 否定はしてみたが、自信が無いためか、最後のほうは消えそうなほど小さな声だった。

 先ほどから大人しく腕に抱かれているあかりは、ニコニコと父親の顔を見つめていた。

 時折攻司もあかりに向かってニコッと笑顔を送るのだが、それが牧村の目には『親子』にしか見えなかった。

「じゃあ光ちゃんに会ってみようか? 光ちゃんの反応も見てみたいし」

「お前楽しんでるだろ?」

「まっさか〜」

 舌をペロッと出す牧村のその表情は悪戯好きの少年その物だった。

 ちなみに後ろを向いているため、攻司からは見えない。

 見えていたらここで尊い命が一つ散ることになっていただろう。

「パパ〜あいすたべた〜い」

「え? アイス? じゃあちょっとコンビニに行こうか?」





「ママ〜ジュースのみたい」

「えっ? ジュース? じゃあ、あそこのコンビニに行こっか?」





「お、ここでいいよね? よいしょっと」

 そういって必要以上にしがみ付いていたあかりを下ろし、一息つく攻司。

「わ〜い」

 喜んで駆け出し、コンビニのドアに向かっていくあかり。

 しかし、もう一方からの人の気配には気付いていない。

「きゃっ」

「わっ」

 そして案の定、あかりはもう一方から走ってきた少年と衝突してしまった。

 お互いの勢いがあったためか、あかりと少年は見事なまでに仰向けになって倒れてしまった。

「だ、大丈夫? あかりちゃん」

「大丈夫!? エイジ君? どこか痛いとこない? そっちの女の子も大丈夫?」

 あかりには現段階で父親候補の攻司が、少年の方には小柄な少女が駆け寄り無事を確認する。

 一通り身体を見回すが明らかに怪我をしているところはなく、倒れた本人も痛がる様子はなかった。 

「すいません。ちょっと気を緩めたせいで」

「いえ、こちらこそ。ごめんなさ――って、えっ? コウジ君?」

「あれ? 光か?」

 子供にばかり目をやっていた攻司と少女だったが、改めて顔を見合わせると実に見慣れた顔触れだった。

 そう、あかりと衝突した少年は衛司で、衛司に駆け寄った少女は光であったのだ。

 攻司と光は幼い頃からの顔見知り、幼馴染であった。

 活発な攻司に大人しい光、対照的な二人は上手くバランスを保ち今でも仲の良い友達関係であった。

「あ、ちょうどよかった。ちょっと確認したいことがあるんだ」

「え? 確認したいことって?」

「短刀直入に言うけど『オレと光の間に子供はいないよな?』」

「――え!?」

 攻司の本当に単刀直入な言葉に目を大きく見開く光。

 聞いた瞬間こそ驚いた光だが、その表情は徐々に驚きとは違う何かに変わっていった。

 それを見た攻司は光を困らせてしまったのかと、申し訳なさそうに苦笑した。

「あ、いや、いいんだ。あ、あはは。ごめん、やっぱり違うよな?」

「……コウジ君もなの?」

「へ? オレ『も』?」

 一方、困惑する攻司達の数十cm下では――

「いたた……。ごめんなさ〜い」

「ううん、ボクの方こそ――あれ? あかり?」

「あ、おにいちゃん」

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