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時空を越えて  作者: 飛燕
17/21

第十七話:もう一つの世界――縁――

 十六話に続き、メイン登場人物がほとんど出てきません。某ゲームキャラがモデルの人物が若干名いますが、どうか悪しからず。

 腹減った……。一刻も早く何か食べたい。

 でもこんな住宅街に食事処は――あった。

 真新しい木製の看板には『HAPPY TALKING』の文字。

 店の前の観葉植物、白で統一されたテラスのテーブルと椅子、清潔感が漂うガラスの壁が見事に調和している。

「いらっしゃいませ〜。一名様ですか?」

「あ、はい」

 壁と同様、ガラス製のドアを開け店内に入ると、黒い髪を腰の辺りまで伸ばした店員が小走りで近づいてきた。

 欠伸でもしていたのか、その目尻には涙が溜まっている。

「かしこまりました。席へご案内します」

 関西人か? 妙な訛りが……。まあいいけど。

 それにしても客が少ない、というか居ないな。もともと入って二十人程の店内だが、オレ意外一人も居ない。

 まあ、平日の昼前だからこんなもんか?

 とりあえず、やっと一息付けるんだ。

 隊長から食費とか全部出るし、思いっきり食ってやる。

「ご注文はお決まりですか?」

 ボタンを押して間も無く、先ほどの関西風の少女が小走りでやってきた。

「はい、特大ハンバーグセットとインドカレーとシーフードサラダとアイスカフェオレをお願いします」

「特大ハンバーグセットとインドカレーとシーフードサラダとアイスカフェオレですね。少々お待ちください」

 あ〜、マジで疲れた。

 初めてまともな任務と言われてここに来たわけだが……。

 オレがいたところと何も変わらないし、来てみたら『蚊の大量発生を未然に防ぐ』とかいう任務だし、期待して損した。

 まあ、でも空間移動はちょっと面白かったな。いつかこれが車みたいに普及する――って!?

「何してんですか!?」

「え?」

「え? じゃなくて、その手にあるヤツ!」

「さっきお客さんが注文しはった、特大ハンバーグセットとインドカレーとシーフードサラダとアイスカフェオレですけど?」

「メニューの事じゃなくて! お盆から落ちるって!」

 店員が持ってきたのはオレが注文した四品。ハンバーグセットに至ってはスープとライスまでついてるから計六皿……。

 とにかくそれらが何故かピラミッドのように積み重なっていた。

 当然上層部のカフェオレはカタカタと音をたて、今にも落ちそうになっている。

「ああ、大丈夫ですよ。ウチこう見えてもここのバイト暦長いんです。今まで一度も落とした事ないですし」

「で、でも今まさにその一回目が来るかもしれないじゃないですか! いいから、そこを動かないで下さいよ?」

「大丈夫やって」

 信用できない。とりあえず最上階に積まれたカフェオレを救出し、続いて自分の注文の品をテーブルに降ろし、事なきを得る。

 その間店員から感じる、好奇心に満ちた視線が気になるが……。

「はぁ……」

「お客さんおもろいなぁ」

「え? おもろい?」

 オレがこうなった原因が何を言うんだか。

「これも何かの縁や。名前教えてくれへん? あ、ウチは木村優きむら ゆう

「あ、ああ、木村さんですね。オレは桐生攻司きりゅう こうじです」

「コウジか。ええ名前や。あ、それと、ウチの事はユウでええよ」

 チラリと八重歯を覗かせ満面の笑みを浮かべる。

「は、はあ。ユウね」

「うん。それじゃあごゆっくりな〜」

「あ、どうも」

 そう言っておてんばそうな笑みを浮かべ、近くにある客用の椅子に座った。

なんかこっち見てる……。仕事しなくていいのか、と思ったけど、店内を見る限り客はオレしかいない。楽そうなバイトで羨ましい。

「どうや? メッチャ美味いやろ?」

「まだ食べてないけど」

 こりゃ失礼しました〜、とおどけて見せる。

 本人はユウって呼べって言ってたけど、あとは会計の時くらいしか呼ばないよな……。

 まあいいや、さっさと食べて帰ろう。

「ヤッホー、ユウ」

「あ、ユイ。ようきたな〜」

 そう言ってたった今来た派手な格好をした客に手を振るユウ。口振りからして友達か?

「相変わらず元気そうね。お、めずらしく新しい顔がいるじゃない」

「なんとかコウジっていうんやで」

「ふ〜ん」

 鼻をならしながらジロジロと見てくる女性。少しツリ目だが大きな目、小さな口と鼻、肩口まで伸ばしたサラサラの茶髪はどれをとっても非の打ち所がない程整っている。

さらになんとも言えないオーラを纏っている気がして、ちょっと圧倒される。

ん? どこかで見たことある様な……。

「コウジね〜。私は渡良瀬唯わたらせ ゆい。よろしくね」

わたらせゆい? どっかで聞いた事ある名前だ。

 確かミサが持ってた雑誌の――

「もしかしてモデルの渡良瀬唯?」

「へ〜、男の子なのに知ってるんだ」

「まあ、男性にも人気があるんじゃないですか? オレの友達も渡良瀬さんが載ってる雑誌をよく見てますよ」

 慎なんか雑誌の切り抜きをファイルで閉じてたからな。写真集やDVDも全部持ってるらしい。

あの高飛車なミサでさえ憧れるとか言ってたし、総じて男女問わず人気があるようだ。

「ふ〜ん、じゃあコウジは?」

「え? オレですか? オレは……まあ、綺麗だな〜とは思います」

「ふ〜ん。ま、いいわ。それよりコウジ、さっきから何で丁寧語なのよ?」

「何でって……初対面だし、渡良瀬さんの方が年上じゃないですか」

 確か公開情報では二つか三つ上だったはずだ。本当の年は知らないけど。

「そんな理由は認めない。タメ語で話しなさいよ」

「はあ、まあ渡良瀬さんがそういうなら」

 経験上、こういうタイプには逆らわない方がいい。

っつーか今日あったばっかり+恐らく今日しか会わない相手に何言ってんだか……。

 もとの世界に戻っても多分こんな遠い住宅街には来ないだろう。

「その渡良瀬さんってのも禁止。私の名前はユ・イ」

「はいはい、ユイさん」

「さんもダメ!」

「ユイ」

「よろしい」

 やっとユイに解放された――かと思うと、今度はユウが身を乗り出し好奇の表情を見せる。

「コウジ、ウチにも丁寧語は使わんでええで」

「あ、うん分かった」

 疲れる。この世界の住人はみんなこうなのか?

「遅れてごめ〜ん」

「あ、かおりん。いらっしゃ〜い」

「いらっしゃいました〜」

 ユイに続いて入ってきたのは、白いワンピースを着た、落ち着いた雰囲気の女性だった。

 どうやらこの店は常連さんしか来ないらしい。だから見慣れないオレはやたら絡まれるんだな。

「かおりんおっそい! それに亮は? 車で拾って来るんじゃなかったの?」

「ごめ〜ん、亮君急用が入ったみたいで来れないってさ」

「えー!? 何それ? せっかく時間とったのに」

 ほんとにこの店は賑やかだな。フレンドリーな雰囲気が売りなのか? オレは完全にアウェーだ。

 ――よし、これで全部平らげた。さっさと会計を済ませてホテルに帰ろう。

「あれ? 見慣れないお客さんだね」

「コウジっていうんやて」

「へぇ〜」

 さっきのユイとは違い、思わず見入ってしまう上品な笑顔で見つめてくるブロンド髪の女性。またオレより年上っぽい。

 まあ、いいや。適当に愛想笑いでもして会計を済ませてしまおう。

「あ、ユウ。ごちそうさま、会計お願い」

「は〜い、まいどアリ〜」

 ユウがレジを打ってる間も、ユイからは容赦ない攻撃的な視線が送られてくる。

 面倒な事になる前に、払ったらダッシュするのが得策だろう。

「コウジ」

 そんな心中を読まれたのか、オレの逃走第一歩よりユイの声が先制した。

「な、なに?」

「これから一緒にウォーターランドに行くのよ」

「へ?」

「あ、それええな。ウチも賛成や。コウジ、一緒に行かへん?」

 な、なんだ? この二人は何を言ってるんだ? 初対面のヤツと遊園地?

「あ、いや、オレは……」

「コウジ君が困ってるじゃない。全く、相変わらずユイは思い付きで発言するんだから」

 おお、一人まともな人がいた。って、この人もモデルか? モデルのユイに負けず劣らずスタイルがいい。背は低いが顔も――

 ……さっきからオレ視線が健全じゃないな。自重しよう。

 でも、この人もなんか知ってるような気がするな……。

「かおりんはウォーターランドに行きたくないの?」

「そりゃ行きたいけどさ、人様に迷惑かけるのはよくないよ」

「迷惑なんか?」

「あ〜、迷惑っていうか……」

 一緒に行っても完全に浮く気がする。

「ほら、今回は私たち三人でいきましょ」

「ダ〜メ。今日は四人で行きたい気分なの」

 なんだこの展開は。今分かるのは、ユイが自己中だという事と、オレが拉致されそうだという事だ。

「なあ、コウジ。ええやろ?」

「あ〜、え〜とさ、初対面のオレと行っても楽しくないと思うよ? ドタキャンされたんなら別の友達を呼べばいいんじゃない?」

「ダメ。もうコウジと行くって決めたの。分かったらさっさと支度して」

「支度って今から行く気?」

「もちろん。今日という日は今日しかないでしょ?」

 かおりんと呼ばれていた唯一マトモな女性に目を向けると、『ごめん』というジェスチャーが返ってくる。どうやら彼女にもユイ(+ユウ)は止められないらしい。

 どうやら諦めるしかないようだ。

「……分かったよ」

「それでよろしい」

 オレよえ〜……。

「おお、さすがウチが見込んだ男や。将来出世するで〜」

「本当に無理言ってごめんね」

「ああ、別にいいですよ」

 気付くと本日何度目かの、ユイの鋭い視線が突き刺ささっていた。

 どうやらユイがいる前では、丁寧語は全面的に禁止らしい。

「分かったって。『別にいいよ』」

「よろしい。じゃあ行きましょう」

「おーっ!」


 あと二〜三話この話が続きます。暇つぶしにでもご覧下さい。

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