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時空を越えて  作者: 飛燕
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第一話:未来からの訪問者――迷える子羊――

 夏の猛暑も過ぎ去り、すっかり秋の色に染まった昼下がりの通学路。青く染まった空に小さな千切れ雲、暖かい日差しが季節を彩る。そんな快晴の空の下、二人の制服を着た少年がのんびりと下校していた。

「な〜んか最近暇だよな〜。慎、何か面白いことしてくれよ」

「え〜? 何もないよ。そういう攻司は何かないの?」

 『攻司』と呼ばれた長身の少年、桐生攻司きりゅう こうじ

 短くまとまった茶髪、どこか優しげに緩んだ目元に少し小さめの鼻、笑うと牙が見え隠れする口元が印象的である。

 また無駄な肉はほとんどない筋肉質な身体を持ち、いかにもスポーツが得意そうな少年だ。

「ん〜? じゃあしりとりな。オレから、秋」

きん

「……」

「――っ」

 攻司の鋭い視線に危険を察知したのか、慌てて逃げ出そうとしたが、刹那遅く――

「真面目にやれ〜!」

「いだだだだだ! じょ、冗談だって! 大体しりとり楽しくないし!」

「うるせー! そのひん曲がった根性を叩き直してやる!」

 現在攻司に捕まってコブラツイストを掛けられている少年、牧村慎まきむら しん

 今は苦痛に歪んでしまっているその顔だが、黙っていれば誰もが認める美少年である。

 澄んだ漆黒の瞳に筋の通った鼻、目に掛かる金髪と切れ長の目がカッコイイ、と女子からの評判はいい。

「ぎゃ〜〜〜! ギブギブ!」

「――」

「ん?」

 攻司がさらに技を繰り出そうとした直後、二人の前方から何かの泣き声らしきものが耳に届いた。

 声がした方に目をやると、道の隅で小さな女の子が蹲っているのが分かった。

「どうしたの?」

「うっ、ひっく……。ここ、どこ?」

 目を覆いながら何とか震えた声を絞り出す少女。

 年の頃は五歳前後であろうか、蹲ったその姿は子犬かと思える程頼りなく見えた。

「あ〜迷子か。お名前は何ていうの?」

「うっ、ぐしゅ……。あかり」

「そっか、あかりちゃんか。ほら、泣かない泣かない」

 そう言ってあかりの髪をわしゃわしゃと撫で回す攻司。

 その直後鼻をスンスンと鳴らし、まるで魔法を掛けられたかの様にあかりは泣き止んだ。

「お〜、何か保育士さんみたいだ」

「ははっ、まあ家にともみがいるからな。全然大きくならなくてしんぱ――って、んなことより……。

 あかりちゃん、どうして迷子になっちゃったか分かる?」

「えっとね、へんなきかいでね―― あっ! パパ!」

 大きな目をさらに広げ、パアッと花が咲いたような笑顔を浮かべるあかり。

 その声に反応し辺りを見渡したが、いくら探しても攻司達以外の人影はなかった。

「どこにいるの?」

「パパ〜」

 次の瞬間、甘えた声を発しながらあかりが抱きついたのは目の前にいた攻司だった。

 その奇怪な行動を理解するのに時間がかかったのか、

数秒間石化したかのように固まった後に何とか口を開いた。

「……。え? オレ?」

「い、いつの間に……」

「バカ! そんなわけないだろ!? あ、あかりちゃん? 間違いだよね?」

「パパ?」





 …………。

 ………。

 ……。

 …。

「――あかりちゃんは変な機械で遊んでたら、突然この辺に来ちゃったって言ってるな。

 考えにくいけど、もしそうだとしたらどんな機械だ?」

「瞬間移動装置とか?」

「ん〜……」

「パパ〜」

 腕を組み唸る攻司を見上げ、シャツの端をグイグイと引っ張るあかり。

 どうやら父親に構ってもらいたいようだ。

「……。で、何でオレがパパなんだ?」

「?」

 何時になく真面目な顔であかりの顔を見つめるいるのは牧村。

 大きな瞳や小さな鼻、サラサラのセミロングの髪は牧村の記憶の中にある誰かに似ているらしく、

特にあかりの発する独特の雰囲気が気に掛かるようだ。

 しばらくそうした後、あかりの視線に合わせる様にしゃがみ込み口を開いた。

「あかりちゃんの名字―― いや、パパの名前は何ていうの?」

「こうじ!」

「ふむふむ。じゃあパパのもう一つの名前は? ほら、たまに誰かに呼ばれてる名前とかあるよね?」

「ん〜? ……。き、りゅう?」

 先ほどの『こうじ』と元気よく答えたのに対し今度は自信なさ気に首を傾げながら答えるあかり。

 その言葉を聴いた瞬間、石化した攻司。それが可笑しかったのかあかりの顔に笑みが戻る。

「……同姓同名だ。ま、まあ、とにかく本物のパパを探さなきゃね」

「パパ?」

「ああ、オレは本当のパパじゃないよ」

「パパ〜だっこ〜」

 攻司の言ったことの意味も分からず満面の笑みで両手を伸ばし、抱っこを催促する。

 この行動と満面の笑みに押された攻司は『パパ』と呼ばれたのも否定せずに――

「……は〜い」

 と答えるしかなかった。

「そういえば、あかりちゃんのママの名前は何ていうの?」

「ひかり!」

「ぶっ!?」

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