プロローグ8
あれ?変な所で切ってしまった。
ひゅんっ
空気を切り裂き何かが飛ぶ音が響く。
ギャアアアアアアッ!!
竜が悲鳴にも似たような咆哮をあげる。
エリーを掴もうとした竜の腕に一本の刀がぶっ刺さっていた。
黒竜は刺さった刀に痛みを感じたのか後ろによろけてエリーから離れた。
「!!」
そしてディノは驚いた。見たことのある両刃………父バルハラスの刀だった。
「ディノっ!!」
聞き慣れた声…いや、聞き慣れすぎた声。
「母さんっ!!」
刀の飛んできた方を見ると森の中からディノの母、レクサード・マリアが6本の刀を背に背負って現れた。
〜村の入り口〜
「な、なんなのよ……これは………!?」
リーアは絶望し、膝を折った。
村が、全て燃えていた。
「リーアっ!!」
メリアの叫び声で我に返る。
振り返るとメリアが真剣な眼差しで訴えていた。「逃げよう」と。
「………嫌よ…私…この村以外に……行くとこ…無い…。」
今にも消えそうな声で、今にも泣き出しそうな表情で、『逃げる』ことを拒否した。
「リーアさん…………。」
メリアがすがるような目で見る。
「うっ、うわああああああっ!!」
後ろでサラが悲鳴を上げる。
「はあっ………はあっ………あ……うああ………やめろ……やめろ………やめてくれぇっ!!」
何かに怯えるように両手で頭を抱えていた。
「あっ………ひっ!!かっ、はっ………!!」
そして急にうずくまる様に倒れ込むと左手で胸を掴み過呼吸状態になってしまった。
「サラっ!!どうしたの!?サラぁっ!!」
メリアがサラに駆け寄る。
「いやああああっ!!こんなの………なんで私達の村なのよおぉっ!!………お父さん……お母さん……どこぉ………。」
リーアが泣き崩れる。
「…………………………………お兄ちゃん………お父さん………お母さん………助けてよ………。」
メリアが泣き声で呟き呆然と立ち尽くす。
ガアアアアアッ!!
急に黒龍が咆哮した。
近くにあった物が全て吹き飛んだ。建物も、人も、等しく紙のように。
三人の近くに竜と戦っていた大人の男性が吹き飛んできた。無惨にも、体を竜の爪で引き裂かれ、既にこと切れて、死体となっている状態だった。
どしゃっ、という音に気付き、リーアとメリアがそちらに目をむけると、口や鼻、頭から血を流し、胴体を両断された男性が、開いた瞳孔でこちらを睨んでいた。
瞬間、メリアとリーアの理性が弾ける。
「「いやああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」」
二人は体中の酸素を、肺の中の全ての酸素を使って大声で叫んでいた。
(し…?死!?シ??し、シ、死、死んだっ!?しんでいるっ??シンデイル…!?死んでい――――――っ!!)
リーアが気絶して、ぶっ倒れる。
「オエエエエッ!!ヴエエッ!!ウエエエエエッ!!」
ビシャビシャビシャッ!!
メリアがものすごい勢いで襲ってきた吐き気に耐えきれず、胃の中の物を全て吐き出した。両手を口にあてて押さえようとしても止められなかった。
(…………………もう………何が………訳が………………わかんない…………。)
頭の中が真っ白になっていく。倒れようとする体を立て直そうともせず、ゆっくりと地面に倒れ…、
ガシッ!!
体が包まれるように支えられた。
支えた手は、腕は、大きくて、とっても、とっても、頼りになる手だった。
「……大丈夫かメリア…少し横になっておくか………?」
メリアは薄れていく意識ではっきりとだがその声を聞いた。そして直感した。
「………………おとう………さん。」
――――――遡ること1時間―――――
「マリアが俺を呼んでる??」
「はい。なんでも必ず伝えといてくれと。」
警備兵がマリアの家に着いたのは昼過ぎ。それから例の二人を城の兵士に引き渡し、報告書と顛末書、更に、上司から憂さ晴らしに課せられた『行動報告書』等という馬鹿げた報告書を全て片付けて、一直線にバルハラスの元に向かってやっと事情を説明出来たのだ。
「…にしても報告が遅いな。」
「すいません………。」
「なんだ。言い訳しないのか。第23警備兵団、隊長の『グラシア・マックス』さん。」
「………いえ。遅れたのは私の責任ですから。」
グラシア・マックスと呼ばれた男は全く姿勢を崩さずに、正直に答えた。
「はあ………マックス。前々から言っているだろ。『固い』って。そうやってると、いずれ『全部の兵士が弱いのは私の責任です』って言いそうで怖ええよ。」
ため息交じりに軽く説教をした。
「………これが私の…私なりの流儀ですから。」
真っ直ぐにバルハラスを見て答える。
「だからっつって会長の馬鹿息子の言うことにいちいち聞いていたらキリねーぞ。あいつは親が多額の税金を俺らに支払っているからってなんでもしていいなんて考えていやがる。署長も署長で頭が上がらねーらしいし…………。」
会長の馬鹿息子………ジエンナ・コルデオはアルバン城の城下町の会長の一人息子で、小さい頃から甘やかされて育てられてきた、言わば『お坊っちゃま』。金があれば何でも手に入ると考えていて、ディノより歳が一つ上。将来は「楽に仕事したい。」と、言う理由でアルバン城の兵隊になろうと考えたらしい。
そこで親の、ジエンナ・ドムルクの登場だ。
「可愛い息子のためなら…」
と、城の警備隊の署長に賄賂と書状を送り付け、
『私の一人息子が城の兵士になりたがっている。もしなれなかった場合は私は商会の皆に税金を払うことを止めさせる。』
と、記してあった。
実際、城の警備隊の運営費は税金だ。しかも、それはほぼ商会が払っていた。その商会全体が払わなくなると、一気に警備隊の給料や食費、武器や装備が買えなくなる。兵士達全員が自腹で生活など出来る訳も無かった。
『背に腹は変えられない』
とばかりに警備隊の署長はこの条件を飲んだ。無論、王様等には言える訳も無かった。
なぜならアルバン城の王は不在だったからだ。そのため実質、王政を行っていたのは大臣だったが、この大臣も、てんで馬鹿みたいに金を欲しがっていた。
そんな奴は簡単だ。金をちらつかせれば勝手に食いつく。
だが、一応良心はあったようで、会長の国政に関する提案は一切取り入れなかった。
会長もこれ以上事を大きくする訳にもいかず渋々、国政から目を離した。が、次に見つけたのがこの警備隊。自分の考えや息子の意見等を取り入れて、無駄な仕事が激増していた。例えばジエンナ会長の息子の遊び相手。会長の家の庭掃除。会長の家の会計ect…数え出したらキリがない。だが、表面化しないようにこっそりとやらせるから質が悪い。『行動報告書』もその一つである。
「………が、しかしだ。何で急に俺なんかを………。」
「さあ………わかりません。ただ――――」
「ただ?」
「あの目は戦士の目でした。」
それを聞いてバルハラスが座っていた椅子から跳ね起きる。
「なっ!!本当か!!」
「本当です。」
そう言われたバルハラスは少し考えてから命令を下した。
「総員戦闘配備!!用意を手早く行い、持てるだけの武器を持って城下町に行き避難命令を出せッ!!俺は先に出る!!」
そう大声で指示を出してから戦闘用の衣類を来てから飛び出していった。
「…了解しました。」
不思議そうに敬礼をし、行動を起こした。
――――――それから1時間後――――――
『がああぁぁん!がああぁぁん!がああぁぁん!がああぁぁん!』
町の中では退避用の金が鳴り響いていた。
あはははははははははははははははははははは(狂)
「しっかりしろい」
バシッ
って!!何しやがるケン!!物語の中に帰れ!!
「黙れ作者!!今回俺の出番がなかったやないかい!!」
うるせー!!こっちだってな『あーあ………いい加減プロローグ終わらせなきゃ………』とか考えてやってるんだ!!テメーの出番なんぞいちいち考えられん!!
「言うわりにはなかなか終わんないな。プロローグ。」
ぐさっ!!
「………あれ?作者に矢印らしきものが刺さってんな。一応抜いてやろう。死なれたら困る。」
ずぽっ。ぴゅーー………
「うーん。こいつは困った。血が止まらないな。医者呼ぶか医者。」
黙れ。生きてる。意識もある。
「心配して損したな俺。」
………で、何の用だ?ただ『出番が無かった』とだけ文句言いにきたなら次回でお前の出番無しな。
「ただ来るわけ無いだろ。読者はあんたの後書きにもう飽きてんだ。いい加減気づけ。忠告だ。忠告。」
お前、そんなキャラだったっけ?
(ギクッ)「い、良いだろキャラ崩壊ぐらい。どうせこれ書いてる時間は深夜なんだ。トリップしててもおかしくない。」
確かに………くあ〜あっ……眠くなってきた。そろそろ寝るか………
(ほっ)「あー、そうしろ、そうしろ。俺は帰る。」
ん。わかった。以上8年後のケンでした〜。
「言うなああぁぁぁぁ!!!このバカ作者ああぁぁぁぁっ!!」




