プロローグ5
ああ………プロローグ5で終わりにしようと思ったんですが………出来ませんでした(泣)
〜翌朝〜
「おはよう。お母さん。」
一番最初に起きたメリアが二階から降りてきた。
「おはようメリア。昨日はよく眠れた?」
メリアの母、レクサード・マリアは朝食を作りながらにこやかに返事を返す。
「うん。」
「ディノと一緒に寝たの?」
「ううん。『床で寝るっ!!』って言って寝ちゃった。」
「くすッ…ディノらしいわね………。」
軽く笑ってから作りたてのオニオンスープを食卓の上に置いた。
「うん。お兄ちゃんらしい。………あれ?お父さんは?」
「昨日の事で報告しなきゃって言って今朝早くからお城に行ったわ。」
マリアが忙しそうに包丁を動かす。野菜を切る音が刻みよく響く。
「それより『あの子』は?」
「それが…眠ったまま起きないの………。」
残念そうにうつむく。
「まあ、当たり前ね。あんな目にあってケロッて起きれる方がおかしいからね。」
「そうね………。」
「あ、それよりディノを起こしてきて。」
「はい。」
たたっ、と軽く階段をかけ上がって行った。
「さて、今朝のご飯でーきたっと。」
コンコンッ
家の扉を叩く音がした。
「?はーい。」
マリアはすぐさま戸に近づいて開けた。
戸の外には木こりの服装をした二人組の男が立っていた。一人は帽子を被り、もう一人は何も被っていなくて短髪の男だった。
そして、帽子の男が、持っていた斧をいきなり振りかぶり、マリアめがけて降り下ろした。
「!!?」
バキィッ!!
家の木がえぐれる音がしたな
。ただそれだけマリアは思った。
一気に姿勢を低くして前に飛び出し、手のひらを斧の柄にめがけて高速で繰り出した。
降り下ろしている最中だった斧は最も威力があるはずの鉄の部分が男達の遥か後方に綺麗な弧を描いて飛んでいった。
残った箇所は先端が割れた、ただの棒切れのみ。
マリアという人間はたった一撃で『斧』という使い方によれば人を一瞬で殺せる武器をとても簡単に破壊したのだ。
「!!」
「あ、驚いてる?……クスッ、私を殺しに来るなんて、あの王様はよっぽど心に傷でも負ったの??」
意地悪そうに笑ってから今度は体をバネのようにして右手で拳骨を顔面に喰らわせた。
「ぶげっ!!」
ごんっ、と盛大な音を立てて帽子の男が1〜2メートル程吹き飛ぶ。
「あ〜、やっぱり拳骨は痛いわね。骨にヒビ入ったかも。」
赤くなった右手をヒラヒラと振って、短髪の男を睨む。
「まだ続ける?」
男は恐怖に満ちた顔つきでマリアを見つめていた。
「う、うわあああああっ!!」
腰に帯刀していた小刀を抜き放ちマリアに突進するように刺しにいった。
「はあ………帰ってくれたら楽だったのに………。」
マリアはそうぼやいてから小刀を左手で掴み、
へし折った。
至極当たり前のように。
また、折ると同時に右足を振り上げて男の延髄を蹴り抜いた。
「かっ…………?」
男はその場に崩れ落ち、気を失った。
「はあ…、またやっちゃった…………。難しいわね、気を失わせないようにしつつ、戦闘不能にする首蹴りは………もうこれで28回目なのに全く上手くなんない。」
左手から血をポタポタと流しながら自嘲した。
「まあ、いっか。聞きたい事はいろいろあるからどっかに縛りつけておきましょ。」
外に殴り飛ばした帽子の男を引きずって家の中に入れた時だった。ディノが二階からメリアと一緒に降りてきた。
「母さん!なんかスッゲエ音が聞こえ………誰その人。」
「ん?ディノ。朝起きたらなんて言うの?」
「あ、おはよう母さん。ってそれより、その人は誰?」
「あ、ディノ。そこの縄取って。」
「はーい。」
棚に掛けてあった縄を手早く取るとマリアに手渡した。
「えっと、ここをこうして…………こうで………よし完璧。」
二人の男の両手と両足を縛り、動かないようにさせて、さらに足と手をつけるように結んだ。
「………で、母さん。その人は誰?」
「知らない。」
「・・・えっ??」
「うん、知らない人よ。」
「で、でも、え?母さん手から血が出てる!!」
ディノがびっくりしたように言った。
「今さら?…大丈夫よ。死ぬわけないんだから。」
とても軽く受け答えした。
「そういう問題じゃなくて、なんで怪我してるの!?」
「斬られたから。」
一言。そう言ってからへし折った小刀を拾ってディノに放り投げた。
「っうわあ!!」
驚いて後ろに身を引いた。小刀はコトンと音を立てて床に落ちた。もちろん刀身は砕けていた。
「さ、朝ごはんにしましょ!」
とても元気な声で高らかに言った。
…………………………
燃えている。
家が、村が、木が、森が、動物が、人が、
『逃げて!』
駄目、私はどこに行っても同じ………
『早く!ここから逃げなさい!』
駄目なの、私がいたら次の村もその次の村もこうなるの………。
『逃げなさいっ!!』
嫌、あなたを置いていけない………
『私が、あいつを引き付けていられる間に逃げなさい!!そして必ず生きなさい!!』
嫌よ、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌やあぁ!!
………嫌だったのに………駄目だったのに………気付けば後ろを向いて走っていた。怖くて………、怖くて………、仕方なかった。
グオオオオオッ!!
あいつの咆哮が響く。
『生きて下さい………姫サマ………』
それが最期の言葉だった。
私は夢から覚めた。
天井が見える。
どうも布団の中に居るようだった。
床には毛布が無造作に置かれていて、もうひとつベッドが置かれていた。
そしてゆっくりとゆっくりと昨日のことを思い出す。
ゾクッ
全身が総毛立つ。
「ひっ………!!」
目が二つ真っ赤に燃えた怪物が………!!
「……………。」
(いない……?ここは………どこ??)
自分の寝ていたベッドから起き上がると、自分が可愛らしい寝間着を着ている事に気づいた。
「……?」
壁には自分が着ていたみすぼらしい布の服が掛けてあった。その真下には自分が持っていたであろう持ち物も置いてあった。一応、確認してみる。
(間違いない………。)
自分の物だと確認した。また、ひとつも盗られていなかった。
窓の外を見ると自分のいる位置が高かい事がわかった。
(多分2階ぐらいかな。)
服を着替えて持ち物を全てポケット等にしまい、首にかけてあるネックレスを確認し………
(……無い!!)
首に手をあててから気づいて慌て辺りを探す。と言ってもベッドの下や隣のベッドと床の毛布ぐらいしか探す所はなかった。
無論どこにも無い。
(そんなっ………!!)
愕然とする。
立ち尽くしていると、下から音が聞こえる。
あまり大きい音ではないのでよく聴こえない。
辺りを見渡すと当然のように開き戸があった。
(どう……する……。)
自然と足が前に進む。
一歩、また一歩と。
(………そうだ。取り戻さなきゃ………。)
ノブに手をかける。
(あれは………とってもとっても大事な物だから!!)
ノブを回して扉を開けた。
ガチャ
「ん、どうやらお目覚めのようね。」
トンットンッ、とゆっくり階段を降りてきている音がした。
顔が見えた。
綺麗。その言葉以外何もいらなかった。瞳は青色。髪は金髪でまだあどけなさが残る幼い顔だが、大人になっても綺麗なままだろうと思る。
が――――――――、
その娘はメリアにゆっくりと、しかし、無駄の無い動きで接近すると、どこからか取り出した小刀ナイフを喉元に当てた。そして拘束するようにメリアの腕の間接を極めた。
「動くなっ!!」
一気にその場が緊張し………ない。
「はあ………今日は朝から面倒ね………。」
マリアが豪快にため息をつく。
「母さん、スープお代わり。」
「私も。」
「ハイハイ。順番ね。」
「黙れっ!!動くなっ!!全員その場で止まれっ!!」
全員に牽制をする。
「お前達!!こいつがどうなってもいいのか!!」
「あ、そうだ忘れてた。あなたの分もあるわよ。さ、食べなさい。」
マリアは全く緊張感の欠片も無い声で朝食を食べるように促した。
「黙れっ!!いい加減にしないとこいつの首を切る!!」
「誰の首を切るって?」
ディノがとても面白そうに笑う。
「っ!!………お前…今の状況を理解しているのか?」
手に持った小刀に力を入れようとして、気づいた。
刀身がへし折られている事に。
「なっ………!??」
ただただ驚いた。自分より幼い少女が刀を折り曲げたのだ。
「そろそろその関節極め外してくれない?」「あっ………は、はいっ!!」
メリアの勢いに押されて素直に腕を離してしまった。
「ありがとう。わりと素直なのね。」
クスッと笑ってから再び置かれたオニオンスープを口に運んだ。
「ふーっ!!食った食った。」
ディノは食べ終わったパンを乗っけていた皿を片付けてから、縛り上げてある男たちの近くに寄っていった。
「いい加減話してくれよお前ら。寝たふりしてんのバレバレだぜ。」
返事をしたのは全く別の人だった。
「待て………そいつらは…!!」
先程までメリアに小刀を当てていた娘が短髪の男に近づいた。
そして、がっ、という鈍い音がした。
「貴様らっ………!!言えっ!!何のために私の父を殺した!!何のためにっ!!」
がっ、がっ、と2度3度ブン殴り襟首を掴んで締めた。
「貴様ら……事と次第によっては許さぬぞっ!!」
わなわなと肩を震わせて怒り狂っていた。
「………………お、おっ、幼き王女が、生意気なっ!!わっ、我らは、『コギク』!!、貴様らのような王政には屈せぬものだっ!!」
初めて男が喋った。
「なっ……!?………我が父を侮辱すると許さぬぞっ!!」
王女と呼ばれた少女は再び男をブン殴った。
それを見てマリアが動いた。
「放しなさい。貴女のようなお方がこのような人間を相手にしてはいけない。」
急にマリアが敬語になってその娘を諭すように腕に手を置いた。
「しっ、しかし………!!」
「それとも王女は自国の民であろうと叛く者は許せぬと…?」
「っ!!………………くっ!」
下唇を噛み、掴んでいた男の襟首を放した。
「………よく我慢なされた。王女様。いえブリューク王国第2王女ディハ・ナクタ・サラ殿下!」
「!!なぜ………その名を………?その名は私の側近と王族しか知らないはず!」
「私がレクサード・マリアだからですよ。」
にっこりと微笑んでその娘。いや、サラ王女を見た。
と、その時ディノは思っていた。
(………それ答えになってねえ!!)
マリアはそっとサラを抱き寄せる。
「大変だったでしょう………。大人に騙されて、何もかも信じられなくなって………私達みたいな家族にも騙されたでしょう…。」
「!!な、なぜ………それを………!?」
「貴女が2階から降りてきた時の顔は怯えきっていて、さっさとこの場から立ち去りたいと思っていた………。貴女のしていたネックレスは今ここで渡します。」
マリアはおもむろにサラの服の背中の辺りに手を持っていって器用に布を一枚薄く破いた。
ちゃり…、と小さな音がしてネックレスが零れ落ちマリアの手に収まった。それをゆっくりと丁寧にサラに着けた。
「!!………。これじゃあ…まるで…私が一人騒いでいただけじゃないか………。」
ふるふると体を小刻みに震わせていた。先程と違って怒りは全く感じられなかった。
「それで良いのですよ。サラ………だって貴女は……何でも一人で背負いこんでしまいますから………それが貴女のいいところでもあるんですが、少しくらいに他の人にも背負わせて下さい………だって貴女は一国の王女であると共に普通の女の子なんですから。誰にだって相談してもいいし、協力を頼んで良いのですよ。だから、私達を頼って下さい。」
それはサラにはとても優しく響く言葉だった。
「………………う……、う…、うわあああああああああん!!うわあああああああっ!!」
サラ王女。いや…、サラはマリアに抱き着いて本気で泣いていた。張りつめていた糸を切ったように、何度も何度も嗚咽を繰り返して泣きに泣いていた。
マリアはサラが落ち着くまでただ抱きしめて頭を優しく撫でていた。何度も何度も………、繰り返し繰り返し………。
「先程の無礼を詫びたい。本当に失礼した。」
サラはメリアに本気で頭を下げていた。
「いいわ、全然気にし…」
「駄目だ。」
横からディノが口を挟んだ。
「…っ!!……私が責任をとって所望する物を…」
サラが少し怒りを堪えながら言おうとしたが、
「駄目だ。」
またディノに遮られた。
「っ!!……………今回の無礼を…」
「だーめだ。」
とうとう切れた。
「じゃあどうしろと言うのだ、お前はっ!!!私に何を望むのだっ!!」
サラが起こったのに対し、ディノは飄々として、軽く、ごく普通に答える。
「うーん………。なんつーか………『堅い』んだよ。そんな『全責任を…』とか、『無礼を…』とか要らないんだよ。謝りたいなら、率直に、相手の眼を見て『すいません』とか、『ごめんなさい』だろ。俺はそう教わったぜ!」
偉そうに堂々と言った。
サラは一瞬何を言っているのか解らず呆けていた。そして少し考えて、理解した。
「………そう……だな…。」
ふっ、と笑い、メリアを真っ直ぐ見つめて真顔になって頭を下げてはっきりと言った。
「すいませんでしたっ!!」
「………80点!!」
ディノが大声で言った。
「は!?」
サラがすっとんきょうな声を上げた。
「今度は『ごめんなさい』や『すいません』がちゃんと言えるように!!」
ディノがまた偉そうに言う。
「??」
訳がわからないと言うようにサラはマリアを見ると、
笑っていた。
「ぷっ……、あははははッ!!ディノ!!いつからそんな言葉教えられたんだっ!!」
とても可笑しそうに腹を抱えて笑っていた。
メリアもとても可笑しそうに笑っていた。
「?、??。どういう事だ???」
マリアが笑いながら答える。
「あははッ、ディ、ディノはね、あなたに教えようとしてしているのよ。」
「何をだ?」「他人行儀じゃなくて、家族みたいに、もっと楽にしてもいいって。気が抜ける場所くらい誰にでも必要でしょ。」
「!!…………そう、か。………フフッ……皮肉なものだ………。城での作法は分かっても、私はこういう時、どういう言葉を、どういう顔を、どういう事をすれば良いのかわからんのだ………。」
サラが哀しそうに言う。
「いいのよそれで。あなたは、あなた。それ以外にどんな理由がいるの?」
マリアが楽しそうに笑う。
「さっ、サラ。朝食を食べなさい。」
「…わかった。」
サラは迷わず食卓に向かった。
朝食を食べ終えたサラは、ディノとメリアに連れられてディノの悪友、ケンに会いに行った。
「お〜い、ケーン!!遊ぼーぜ!!」
ケンの家に向かって大声で叫んだ。
「おーう!!今いく〜!!」
返事がしてから数秒でケンが家から出てきた。
「オッスーッ!!で、今日は何する?」「んじゃあ今日は『マクナ』を探そうぜ!!」
「っしゃー!!行こうぜ!」
二人はさっさと走っていってしまった。
サラは後を追いながらメリアに聞く。
「なあ『マクナ』とはなんだ?」
「『マクナ』は森にいる地竜種で、温厚な性格の竜。見つけるのが簡単な竜。両手と両足の4本足で立ち、爪や牙は退化しているから気をつければ危険は無い。主に草や木の実を食べていて、翼は生えて無く、集団で必要以上に動かない竜。」
「すごいなメリア。そんなに暗記しているなんて。」
サラが素直に感心した。
「毎日のように母さんから教えられていたから。」
メリアは素っ気なく返した。
ディノとケンを追いながらサラはメリアからいろいろな竜の事について詳しく解説をしてもらった。
・・・・・・・・・・・・・・
「じゃ、よろしくね。」
「わかりました。では預からせてもらいます。」
ディノの家ではマリアが城の警備隊に縛り上げてあった二人を引き渡していた。
きちっと敬礼をした若い男の警備員はバルハラスの後輩にあたる人物で、マリアとも仲が良かった。
「気をつけてね。彼らはかなりの手練れだから。」
「了解です。人数を増やして護送します。」
「ん。…あ、そうそう、私の夫に今すぐ帰って来るように伝えて。」
「バルハラスさんにですか……?」
「そ。」
「………はい。…わかりました……。」
そう言って縛り上げた二人の男を外にいる仲間と共に連れて行った。
一人残ったマリアは近くにいて聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
「………『竜の怒り、その身に刻み付けよ』か………。」
・・・・・・・・・・
追い付いたサラは驚いた。
「だはははははっ!!」
「ぎゃははははははっ!!」
ガオオオオオッ!!
「なあメリア。あの竜は温厚ではないのか?」
「いえ、とても温厚。」
「じゃあなぜ二人は追われているのだ?」
「あの竜の子供を追い回したから。」
メリアがスッ、と指を指した先には疲れ果ててぐったりとしたマクナの子竜が横たわっていた。「優しく接すれば襲わない。」
メリアはそう言うと子竜に近づいていった。
キュウウウッ
子竜が身の危険を察知して嘶く。
子供の嘶きを聞いて親のマクナがメリアに向かって向きを変えた。
グオアアアアアアッ!!
「近寄るな」と言わんばかりの威嚇をするが、メリアはそれを無視してマクナに近づく。
「大丈夫よ………。私はあなたに危害は加えない………。」
一言。メリアがそう言うと子竜は急に静かになった。それどころか自ら寄っていった。
キュ〜ウ
「いい子………。」
メリアは優しくマクナの頭を撫でた。
マクナの親竜もその様子を見て安心したようだった。
「………うっし、んじゃあ次行こうぜ!!」
ケンがメリアの行動を見て開き直ったように言った。
「んじゃあ次は何処に行く…」
「リーアさんの家。」
メリアが即座に言った。
「今日は何処でも連れていってくれるんですよね。」
「うっ…………。」
「ま、マジ………?」
ケンとディノの顔がひきつって、とても嫌そうな顔をしていた。
読んでくれた人。本当にありがとうございます。
一つだけ………
俺はもう何も考えない!!書きたいことだけ書いてやる!!(開き直り)




