プロローグ3
「びっくりしたわ。あなたが子供達にたたきのめされたのかと思ったわ。」
家に戻ったディノとメリアとバルハラスは食卓を囲みながらマリアの作った野菜スープを飲んでいた。
「おいおい、俺はそんなに弱い父親じゃないぞ。」
反論するようにバルハラスは答えた。
「あら、ディノに急所を蹴られて悶えてた人のいうことかしら?」
ぶーーっ!!
思わずディノはスープを吹き出してしまった。
「ディノ!!行儀が悪…てかメリアまで吹き出して笑う事はないだろ!!」
マリアの破壊力のある台詞にディノは笑いを堪えずにいられなかった。
「むくくく………あ、あの蹴られた時の顔が………ぷっ…ぷぷ……。」
限界だった。
「ぷっはははっ!!あははははっ!!く、苦しー!!たっ、助けて!!お、お腹痛い!!ぎゃははははっ!!」
ディノが笑いながら転げ回った。
メリアもそっぽを向いて相当笑いを堪えていた。
「そ、そんなに笑う事はないだろ!!」
赤面しながらバルハラスが言った。
「はいはい。馬鹿笑いは後にして、はいディノの大好きなカレーよ。」
「あ、は、はい。」
無理矢理笑いを押さえたディノとメリアの前にカレーが置かれた。最後にマリアのカレーが食卓に置かれた。
「じゃ、手を合わせて………。」
全員が両手の平を胸の前で合わせて目をゆっくり閉じた。
バルハラスがゆっくりと語るように言葉を紡ぐ。
「『世界よ……我らの住む全世界よ……今日のこの与えて下さった食事に感謝します………恩。』」
「「「恩。」」」
ディノ、メリア、マリアが口を揃えて言った。
「さて、食べようか。」
「はーい。」
ディノが軽く返事を返し、全員がカレーを食べ始めた。
「ふーっ、食った食った。」
食事を終えて食器を片付けたディノは満足そうに自分の腹を軽く叩いた。
「よし、寝る前に勉強の時間だ。マリア頼んだ。」
「人任せにしないでたまにはあなたも手伝いなさい。」
「むう………わかったよマリア。」
バルハラスは渋々食卓の椅子に座り直した。
「メリア、ディノ紙と筆を持ってきなさい。」
「「はーい。」」
二人は2階に上がり、母親に言われた物をちゃんと持ってきて椅子に座った。
「それじゃあ二人共、今日は『竜』について勉強するわよ。」
マリアが得意げに話始めた。
「まず、『竜』には雄と雌、人でいう男と女があるのよ。そして『竜』は大半が山に住んでいるとされるわ。まあ、お城や町の中や私たちの村の中には竜を飼っている人もいるでしょうね。その人に懐いていればの話だけれども。」
「そーいやファルドおじさんも昔は飼っていたって言ってた。寿命で死んじゃったって言ってた。」
ディノが淡々と喋った。
「竜の寿命は私たちと同じぐらいか、それ以上って話よ。また中には人語を理解するのもいるそうよ。主食は動物の肉だけど、人は食べたことはないみたい。ちなみに雑食だから果物、野菜を食べて生活している竜も少なからず居るそうよ。」
「あー、お父さんから付け足しておくが、竜の中にはやたら知性が桁外れの奴がいたり、戦闘にやたら特化した奴や、意思の疎通を得意としたりする奴もいるらしくてな、全く同じ竜はこの世に存在しないって言われるくらい、個々にそれぞれ特徴があるらしい。ってどっかの学者が論文をだしていたな。まあ、ほぼ事実と言っていいだろう。時たまに変異種とか言う竜らしからぬ行動をする奴もいるらしい。」
「竜らしからぬ行動??」
メリアが訝しげに聞いた。
「竜は基本的に山の中に住んでいると言ったが、湖や海とかに住む水竜種と言ったものや、草原や洞窟、砂漠等に住んでいる地竜種、山の頂上付近に住んでいる峰竜種。と種類がいろいろあるが、砂漠や海以外の湖やら草原やら洞窟やらは山の中にもあるから山に住む竜が多めになる。だが変異種は違う。数は少ないが、空に巣くうもの、地底に住むもの、場所を転々と渡りながら生活するものと、行動に統一性が無いんだ。」
「でもさ、地底や空の中には食べるものとか何も無いよ。」
ディノが不思議そうな顔をした。
「それなんだ不明なのは。奴らは何を食べているのかさっぱりわからないんだ。餌を補食しているところを誰も見た事がないらしい。記録もさっぱりだ。いま学者がそのことを必死に研究しているが、まあそう簡単に解るような事とは思えん。」
「………父さんはその『変異種』を見た事はあるの?」
メリアが聞く。
「一度だけ見た事はある。多分だが、あれは空に住んでいるやつだった。」
「いつ?」
今度はディノが聞いた。
「最近、雨が降っただろ。あの時、父さんの働いているところじゃ嵐だったんだ。雷と雨が凄くてな生きて家に帰れないと思った時だったよ。遠くの雲の切れ間から白くうねっている何かが見えたんだ。よく見ると竜の顔らしきものが見えてな。しかも両目が紅く光っていてな、ヤバイって思ったときだった。急に降りたと思ったらものすごい咆哮が響いて空に昇って行ったんだ。うん、さすがの父さんもあれにはビビったね。と、まあ今日はこれくらいにして寝なさい。」
「はい。」
「ええーっ!!もうちょっと聞きたかったよーっ!!」
「はいはい、もう寝ましょうね。」
駄々をこねるディノをあしらうようにマリアは2階に二人を連れていった。
一人残されたバルハラスは水時計を見て呟いた。
「…9時か………。」
椅子に反り返ると椅子から軋む音がした。
「…………………………。」
「何考え込んでるの?」
マリアが2階から降りてきた。子供が寝たのを確認したようだ。ゆっくりと椅子に座りバルハラスと向かい合った。
「ん?ああ。二人の戦いかたをだ、な………。」
「ふーん。どうだったの?」
「ああ。ディノは秀才だよ。剣術を初めて一週間でしっかりと振るえるようになっていた。ちょっと慢心があるがな。だがまあ訓練をもっと積めば相当強くなる。」
「………メリアは?」
バルハラスは急に顔を曇らせ、一拍おいてから答えた。
「メリアは………あいつは………天才だよ。」
マリアはふっと目を伏せ、うなだれた。構わずバルハラスは更に続けた。
「いや彼女は天才の上を行くかな。……敢えて言うとするなら『神才』かな。………ディノの剣術を1回見ただけで俺の教えようとしていた剣術を完璧に覚えていた。初めてからたった1日でな。…今日はディノに教えていた剣術に自己流を加えてディノをいとも容易く打ち負かしていた。」
「……………。」
「……………。」
少しの間沈黙し、
「「はあ〜。」」
二人は同時にため息をついた。
「なんでそうなっちゃったのかしら………。」
マリアが2階を見つめてからまた、ため息をついた。
「まあ、なんせ俺達の子供だよ。強くて当たり前だよ。」
「………メリアには普通の人生を歩んで欲しいわ。普通に好きな人を作って普通に結婚して普通に長生きしてくれれば…、欲を言えば何処かの国の王子様の結婚相手になってもいいわね。」
「そんなに上手くいくかね。」
バルハラスの意見に即答した。
「いくわよ。」
「どうして?」
そして今度は胸をはるようにして誇らしげに答えた。
「メリアは私に似て美人だもの。」
続きです。まだまだ続きます
プロローグなのに無駄に長え(^^;
これからも頑張ります