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心鏡地  作者: neun
1/1

危騎士

 退屈な日々。


 高校に入れば友人も増え、楽しい学生生活が始まる。

 大体の人間は、そんな幻想を抱いて入学してくる。

 しかし、高校に入ったところで自分自身が変わろうとしない限り、中学の時と同じような退屈な日々を過ごすことになる。


 教室の窓際の席で、ぼんやりと空を眺めているこの少年も、そんな幻想を抱いている中の1人である。


 「白井、自己紹介。お前の番だ。」


 担任教師の男は、ぼーっとしている少年に苛立ちながら自己紹介をするよう促した。

 今日は高校生活最初の日。つまらない入学式を終え、教室で自己紹介を行っている最中である。

 白井と呼ばれた少年は、気だるそうに立ち上がり渋々自己紹介をした。


 「・・・白井(シライ)・・・騎士(ナイト)です・・・。」


 騎士と名乗った瞬間、教室がざわつく。


 「ナイトだって!すごい名前!」


 「ただ・・・あんまりナイトって感じじゃないな。」


 「騎士(ナイト)っていうより盗賊(シーフ)だな。」


 「しーっ!聞こえるって!」


 クラスメイト達は、好き勝手に思った言葉を口走る。

 彼らの言うとおり、騎士の外見は「ナイト」にはほど遠い。体が大きいわけでもなく、元気もない。コミュニケーションが苦手で、美容室で色々と話しかけられるのも嫌いなため、髪も伸び放題で余計に暗い印象を与えてしまう。


 「・・・よろしく・・・。」


 そう言って、騎士は静かに席に座る。

 騎士の自己紹介は、いつもこのような形で終わってしまう。

 名乗った瞬間にその場がざわつき、次に名前と見た目のギャップをバカにされ、特に何を言うわけでもなく終わる。

 毎度のことなので怒ろうともせずに、騎士は再び空に目を向ける。


 (まぁ、こうなるよな・・・。)


 心の中でそう呟く少年に、隣の席の少女が声をかけた。


 「かっこいい名前だね!」


 予想外の出来事に少年は硬直してしまった。

 騎士と名乗って他人から褒められたのは、今回が初めてのことである。

 声の主を確認するため恐る恐る振り向くと、そこには人懐こい笑顔で騎士を見つめる可愛らしい少女がいた。


 「騎士くん?」


 少女は騎士に何らかのリアクションを求め、再び話しかける。

 しかし、この行動が余計に騎士を硬直させてしまう。名前を褒められるのも初めての経験だが、女子に名前で呼ばれることもまた、彼にとって初めての経験であった。

 騎士の様子は周りから見れば、ただ固まっているようにしか見えないが、頭は物凄い速さで回転している。


 (・・・え? えっ!? 何なのこの子!? 俺の名前を褒めるとか・・・頭おかしいの!? いや、ただ俺のことをバカにしてるだけかもしれない・・・。まったく! これだから女ってやつは・・・。いや、あれ、ちょっと待って! この子、俺のこと名前で呼んだ!? 呼んだよね!? みんな聞いた!? やっべー・・・マジやべぇ・・・これだけでご飯3杯はいけるわー。 あ、あれ・・・? ちょ・・・まっ・・・名前で呼ぶって事は・・・もしかして・・・この子・・・


 俺のこと好きなんじゃね!?)


 訂正しよう。騎士は今、物凄い速さで勘違いをしている。

 ようやく妄想の世界から帰還した騎士は、今自分が置かれている状況を確認する。

 自分に惚れていると思われる女の子が、小首を傾げながら上目遣いで自分の反応を待っている。こんな機会は滅多にないので、なんとかこのチャンスをモノにしたい。この子に更に好印象を与えるにはどんな反応をすれば良いのか、必死に考えた結果。


 「フッ・・・」


 騎士は口元を歪ませ笑い、再び空を眺めるという行動に出た。騎士にとっては、コレが最もクールな行動なのだろう。


 隣の席の女子に名前を褒められ、口元を歪ませて笑いながら空を見つめる少年。その名は


 ---白井(シライ) 騎士(ナイト)


 彼はこの日から、影で”危騎士(アブナイト)”と呼ばれるようになった。

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