↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
PR

恋愛戦争ドロップアウト! 〜今日から幼馴染片思いを卒業します!〜

作者: ハレ森
掲載日:2026/09/15

初投稿です。

わたしは幼馴染に恋してる。


保育園のころに仲良しだった男の子。そのころはとても仲良しで、いつもいっしょだった。お遊戯でふたり組をつくるときもいっしょだし、遠足のときはレジャーシートを並べてお弁当を食べた。


そんな関係が続くと思っていたけど、現実は非情だった。小学校が別々になってしまったのだ。学区が別で、抽選に落ちてしまったかららしい。わたしは父のクジ運の無さに憤慨した。

卒園式で、ふたりで泣いて泣いて、先生と両親を困らせてしまった。



でも、小学校が別になっても、毎日公園で待ち合わせて遊んだ。楽しかった。この関係もずっと続いて、もしかしたら恋人になるのかも。そう思っていた。



小学校二年生になって、自然と疎遠になってしまった。男の子と女の子でいっしょに遊ぶのが恥ずかしくなったんだと思う。たまに公園をのぞいて男の子がいないのを見て、ほっとして、でも少し寂しかった。

実は一度だけ、公園にいた男の子を見たことがある。恥ずかしくて見て見ぬふりをして。男の子の寂しそうな、悲しそうな顔が目にこびりついた。



中学校にあがって、再会した。優しかった男の子は、ノンデリのバカになっていた。

こっちは嬉しくて泣きそうだったのに、「よう、また一緒だな!」とだけ言って。友人のところに駆けていってしまった。涙がひっこんで、しらけてしまった。

お前にとって、わたしはその程度の女なのか!

でもやっぱり好きだった。


中学では不思議といっしょになることが多かった。

運動会では二人三脚がいっしょだったし、修学旅行の肝試しでもペアだった。

昔みたいに仲は良くなったと思うけど、それ以上の進展はなかった。



高校も一緒だった。とくに示し合わせたわけじゃないし、偶然だと思う。けど運命的に感じた。

まだわたしは幼馴染に、恋してる。






「やばば、これわたしのことじゃん」

読み終えた本をパタンと閉じて、私は愕然としてつぶやいた。

どうしよう、わたしの青春!


呼んでいた本のタイトルは『恋愛戦争リベンジャー』。オタクの親友が貸してくれた。

ニヤニヤとして「読んだら感想よろ☆」とか言ってたから、わたしの反応を見込んでの確信犯だ。


『恋愛戦争リベンジャー』は、いわゆるハーレムものである。

ひとりの男子に対して、複数のヒロインが「我こそは恋人になるぞ!」と競い合う。ヒロインにトラブルがあれば、普段なよなよしている主人公がさっそうと登場し、かっこよく解決するのである。そんな主人公にヒロインは胸キュン。あっぱれ恋人候補がどんどん増えていくわけ。


さて、ヒロインの中に幼馴染キャラがいる。恋愛小説の鉄板、カレーについている福神漬けみたいなものだ。他のヒロインと違って、とくにトラブルが起こることもなく、主人公に苦言を言ってみたり、やれやれと世話を焼いたり。

他のキャラに比べてキャラが薄い!残念無念、どうみても負けヒロイン。


そんな負けヒロインである幼馴染であるが、ほかヒロインに主人公がとられてしまうのではという焦りから、文化祭の夜に告白をする。がんばれ!

…まあ結果は敗北である。「おまえのこと、恋人として見れない」ってなんだ。最悪な答えぞ。


さて、ここまで読んでいただいた読者にはお分かりだろう。

この負けヒロイン、私に似てる。


まずわたしと負けヒロインの名前がいっしょで、ハナコ。

そしてわたしの好きな男子カズキのまわりに、小説のハーレムみたいに、わたしより可愛い女の子が三人もいて、ぜったい恋人の座を狙ってやがるのだ。


カズキに不良から助けてもらったミユ、家庭の悩みを解決してもらったアキ、事故から救ってもらったアイリーン。そりゃあカズキに惚れるのは自明なのよ。わたしもそんなカズキのかっこいいところに惚れなおしたんだから。


でも、わたしと負けヒロインで明確にちがうところがひとつある。

わたしには告白する勇気がない。拒絶されたくない。嫌いになりたくないから。

…いや、正直に言えば、わたしは愛するより愛されたい乙女なのだ。自分から告白なぞ、ありえない。


わたしはこの本を読んで、悩んで、悶えて、とうとう気づいてしまった。

この状況がつづけば、私の青春は暗黒のまま終わると。




その夜、わたしは夢をみた。カズキが、ミユとアキとアイリーンと結婚する夢。わたしは涙を流しながらバージンロードに花びらをまいている。おい、法律はどうした!日本は重婚禁止だろ!




あくる日。

わたしは早く家を出た。いつもは駅でカズキと待ち合わせしてるけど、「ごめん、今日は用事があるから、先に行く」って伝えて。あんな夢を見たのに、カズキの顔を見たら、たぶん泣く。



「おはよ、学校の用事ってなに?」

なぜカズキがすでに駅前にいるのだ!?

わたしは涙目になったけど、ちょっとうれしかった。



「なんで涙目?」

「花粉症なの」

「初耳だし、花粉まだ飛んでないよ?」


結局、にぶちんのカズキと登校することになってしまった。さりげなく道路側を歩いてくれたり、電車ではすきまをつくってくれたりして、中学のころはノンデリだったのに!

…まあ、わたしが矯正したんですがね。


「冗談、冗談。目に胡椒が入ってまだ取れないの」

「へー、見せてみ」

「見なくていい!」

顔をのぞきこもうとしてきたカズキを押し返し、校門に駆け込む。顔は真っ赤である。



「ね、どうだったどうだった?」

教室に入ると、友人のオタク女子、ユミが話しかけてきた。本を貸してくれた張本人。おそらくわたしが早く登校してくることを見越して、自分も早く登校したんだろう。

ちなみにユミとミユは双子であり、黒縁伊達眼鏡をかけている方がユミ。不気味なにやけ顔が似合う方がユミ。成績の悪い方がユミである。ひじょうに分かりやすい!


「んー、最高だったね。現代の学生恋愛のリアルが書かれていて非常に興味深く主人公を取り巻くハーレムは魅力的で結末は驚天動地のひっくりカエルで」

「要約すると?」

「んー、最悪ですね」

ユミがガハハと笑う。わたしもグヘヘと笑ってみた。カズキがぎょっとしてこちらを見た。

「学校の用事って、ユミさんのこと?」

「お邪魔ムシが来ましたね、ハナコさん」

「つづきはお昼休みにね」


「おはよー。なんの話?」

話しかけてきたのはヒカル君。学年一の長身イケメンである。サッカー部のエースで、朝練があるからいつも登校が早い。制汗剤の爽やかな香りがする。

「学生の恋愛について語り合っていたのだよ」

わたしがむずかしい顔をして言うと、ヒカル君は興味ありげな様子。よく見ればカズキも聞き耳立ててる。バレバレ。

「へー。ハナコさんって、いま恋してるの?」

「黙秘」

「沈黙は肯定とみなすぞ」

「ユミ、うるさい」



昼休み。

うわさの美少女三人組が教室へやってきた。

ユミの双子の姉ミユ。

学級委員長のアキ。

金髪碧眼チート美少女アイリーン。

がちゃがちゃと机を向かい合わせに並べている。


「あれ?今日は一緒に食べないの?」

黒髪ロングな大和撫子系美人のアキさんがお弁当を広げながら聞いてきた。

「うん、今日はユミとお昼食べてくるよ」

「ユミ、ボクのハナコちゃんを独り占めしないで」

ユミの姉のミユさんがむすっとした。そんな表情でも可愛い。ユミと同じ顔のはずなのに、なぜこうも違うのか。

「めんごミユ。今日は某がいただいていくでやんす」


金髪碧眼チート美少女(一人だけ世界観が違う)アイリーンがニコニコ笑顔でバイバーイと手を振っている。わたしが男だったら間違いなく惚れてる。



わたしとユミはモダンカルチャー部の部室へ向かった。ユミは部員なので友人のわたしも顔パスなのだ。モダンカルチャーって何?といつも思う。


「で本音のところを聞きたい」

ユミはニヤニヤを隠しきれていない。ブキミに眼鏡を輝かせている。伊達眼鏡なのに。


「あまりにも負けヒロインな幼馴染キャラがわたしに似ていて、自分の青春に不安を抱きました」

ペットボトル茶をぐびっと一口、ぷはー。


「幼馴染は負けヒロイン。恋愛小説のあおり役、ガヤ、トリックスターに過ぎないんだなって。自分の青春に暗雲がたちこめはじめたよ…」

ペットボトル茶をぐびっと一口、ぷはー。サラリーマンの飲み会ってこんな感じ?


ユミはうんうんとうなずいた。

「トリックスターはちょと違うと思うけど。まあそうであろうそうであろう。某が勧めたあの作品はハーレムもの。いま最も勢いのあるジャンルである。さてハーレムものというのはヒロインの中から一名を選ぶか、選択を保留にするか、思い切って全員と付き合ってしまうかと色々な結末があって…」


わたしは腕を組んで目をつむり、適当にうんうんと頷く。ユミの長くなりそうな話を聞き流しながら、わたしの優れた脳はぐるぐると高速演算し、現状を打開する会心の一撃を模索する。


「…だからね、ハナコは負けヒロインと同じ轍を踏まない様に、某からみても勝算はあるのだから、もっと積極的に「わたしは決心しました!」え?」

わたしはペットボトル茶をぐいと一気飲みし、高らかに宣言した。


「わたしはこの恋愛戦争からドロップアウトし、新しい恋を探すと!」

ユミはぽかんとしていた。素のユミは姉に似て、とても美人だった。



学校が終わって。

クラスメイトが帰った教室で、わたしはカズキと相対していた。大事なことを伝えるために。

「話したいことって何…?」

カズキはなんだか落ち着かない様子で、キョロキョロそわそわしている。


「いや、大したことではないんだけど、明日から別々に登校しない?」

「え」カズキが固まった。ポカンとしている。


「だってほら、あんまりいっしょにいると恋人みたいに思われちゃうでしょ?ほら、学生といったら恋愛でしょ!カズキの周りには美人な子が多いしさ、勘違いさせちゃうし、だからさ」


恋をあきらめるのも勇気がいるけど、やっぱりここで区切りはつけるべきだ。何てったって、わたしはこのままだと負けヒロインなんだもの。


「そろそろ幼馴染離れしようよ」


わたしは言い切ると教室を出た。何でか涙が出た。新しい門出のはずなのに。




【ヒカル】

忘れ物を取りにきた僕は、教室でカズキとハナコさんが向かい合っているのを目にしてしまった。まさか告白…!?


いけないと思いながらも、気になった僕は扉を少し開けて、盗み聞きすることにした。自分が告白されるときより緊張する…!

でもこれで僕の青春はひとつの区切りを迎えるかもしれない。


「だってほら、あんまりいっしょにいると恋人みたいに見られちゃうでしょ?ほら、学生といったら恋愛でしょ!カズキの周りには美人な子が多いしさ、勘違いさせちゃうし、だからさ」

「そろそろ幼馴染離れしようよ」


ハナコさんの口から飛び出した言葉は予想外で。

ハナコさんの声は震え声で、本心とは違うのだろうと分かっているのに。

喜んでいる自分に嫌気が差した。



ハナコさんは覚えていないかもしれないけど、僕とハナコさんは同じ小学校に通っていた。


そのころの僕は太っていて、自分に自信を持てていなかった。友達付き合いもうまくできなかったから、孤立してた。友達は学校で飼われているウサギくらい。だから、3年生の運動会で、男女で組みを作って、ダンスの出し物をすることになったときは呆然とした。

僕は泣きそうになった。太ってかっこ悪くて、汗っかきな自分と組んでくれる女子はいないだろうって。


「ヒカル君、わたしと組まない?」

そう声をかけてくれたのがハナコさんだった。


運動会も迫って、放課後に僕とハナコさんはダンスの練習をしていた。

意外にもハナコさんは運動神経が終わっていた。まさか僕が教える側になるとは…

「えっほ、えっほ」

ダンスするのにその声出しは意味不明だけど、一生懸命にステップを練習しているハナコさんに野暮なことは言えなかった。


「ねえ、なんで僕と組んでくれたの?」

ハナコさんはとても話しやすい女子だった。いっしょに練習しているうちに、気軽に話しかけられるくらいに仲良くなった。だから気になっていたことを聞いてみた。

「なんか寂しそうだったから」

ハナコさんはタオルで顔を拭いた。たまに見せる、憂いを秘めたまなざしをしていた。

「前にね、友達にそんな顔をさせちゃったことがあって。また同じ思いをしたくなかった。何より、ヒカル君が優しいこと、知ってたから」


ハナコさんは僕のとなりに腰をおろした。僕はどぎまぎしてしまう。もしかして僕は…

「ヒカル君、いつも植物に水あげてくれてるし、うさぎ小屋の掃除もしてること知ってるよ。優しい人に悲しい顔してほしくなかった」


僕はハナコさんが好きかもしれない。



運動神経が死んでいるハナコさんと、ハナコさんへの好意に気づいてしまって動きがギクシャクになった僕とのダンスは、クラゲとロボットのダンスと笑われるほど、それは散々なものだった。



ハナコさんに恋してしまった僕は、彼女に見合う男になろうと決心した。

サッカークラブに入って、どんどん身体は軽くなっていった。

身長はぐんぐん伸びて、横に広かった身体は縦に伸びていった。

サッカークラブのエースになって、友達が増えて、女子から告白されることもあったけど。僕の目にはハナコさんしか映ってなかった。



…話は変わるが、僕はネトラレが大嫌いである。この世で最も憎んでいる概念といって過言でない。

孤立していたとき、僕はWeb小説を乱読していた。無料で読めるから、おこづかいで月に文庫本を三冊くらいしか買えない僕には宝の山だった。

そこで出会ってしまったのだ…忌むべきネトラレと。

幼馴染の女の子をぽっと出のイケメンに奪われるという展開に、僕は脳を破壊された。



もしかして、ハナコさんがたまに憂いを秘めた眼差しをするのは、好きな男がいるからのではないか?

僕が卒業式の日に告白したら、ネトリ男になるのではないか?

忌むべきネトラレに加担することになるのではないか?


悶々とした僕は熱を出して卒業式を欠席し、違う中学校へ進学してしまったハナコさんと結局会えなかった。



高校でハナコさんと再会したときは運命だと思った。

でもハナコさんは、幼馴染のカズキに、明らかに恋をしていた。

僕は絶望した。



そんなわけで初恋をあきらめかけていた僕であるが、ここにきてチャンスが訪れたかもしれない。

なにが原因かはわからないが、幼馴染離れしたことで、僕とカズキの立場はイーブン。

どちらが先にドリブルを回し、ゴールへ決めるかの勝負だ。

「僕がこれからアプローチをしても、これからはネトリではない!」





【ミユ】

放課後、ボクは生徒会の仕事を手伝っていて、帰りが遅くなってしまった。

廊下を歩いていると、向かいからハナコさんが走ってきた。


泣いてる…?


ただならぬ様子のハナコちゃんに驚いて、あわてて柱のかげに隠れてしまった。

ボクの推しのハナコちゃんに何かあったのだろうか。これはユミを問い詰める必要がある。



「ユミ、お昼休みにハナコちゃんと何かあった?ケンカしたとか」

「んー」

めずらしいことに、ユミは落ち込んでいるようだ。

厳しく追及するつもりだったけど、優しく接してあげよう。


お風呂あがりのユミは眼鏡をはずして髪を後ろにまとめているから、ボクにそっくりだ。学校でもそうすればいいのにと思うけど、そうすると見分けがつかないし。


「実はあたしさ、素直になれないハナコの背中を押そうと思って…」

「ハナコちゃんを襲う…!?」

ユミはむすっとした。

「あたしをミユと同じにしないで」


ユミは、学校ではキャラ作りで自分を「某」とか言ってるが、普段は「あたし」だ。変な口調はハナコちゃんの前だけ。ユミの推しもハナコちゃんだから、素直になれないみたい。


そう、私もユミも、ハナコちゃんを推している。

ファンクラブ一号がボク、二号がユミ。会員数は三人だ。


ユミによれば、カズキに対して一歩踏み出せないハナコちゃんに対して、何か応援したいと考えていたらしい。そこで積極的になれない現状を打破するために、発破をかけることにした。

推しの幸せはファンの幸せ。カズキと付き合うことになっても、奪われても、ハナコちゃんが笑顔であれば、それでいい。


「ハナコにこの本を渡して、積極的になれなかったときの現実を教えてあげようと思ったの」

あ、これアイリーンが書いた本だ。アイリーンはファンクラブ三号である。アイリーンはハナコちゃんに対するどろどろとした感情を小説に吐き出すことで自我を保っている。


「最近読んだ本なんだけど、主人公の幼馴染がハナコそっくりでね。この本だと…」


ユミは『恋愛戦争リベンジャー』の作者がアイリーンであることを知らないし、アイリーンの本性も知らない。アイリーンがハナコちゃんにどういった感情を向けているかも、知らない。ファンクラブの会員であることも秘密にしてる。


『恋愛戦争リベンジャー』というアイリーンの妄想と欲望がつまった本は、男女の恋愛小説ではない。実は百合小説なのだ。


主人公を陰ながら支えるハナコ。もちろんモデルは我らが推しのハナコちゃん。

ヒロインにトラブルがあれば、ハナコは主人公(実は主人公もアイリーンの投影であり、アイリーンのTS願望を反映している)に的確なアドバイスを出し、励ます。影の主人公と言って過言ではない。

最終巻で傷心のハナコと親友のアイリ(もちろんモデルはアイリーン)がキスをして終わるという構想を練っているらしい。ハイライトが消えた目でそう語るアイリーンは怖かった。


原稿を査読した私は、もちろんユミよりも内容を知っている。誤字脱字チェックまでしたんだから。現代文で学年二位の座は伊達ではない(なお一位はアイリーン)。

…査読中に気づいたのだが、ハナコという言葉を脳に焼き付ける様に、すべてのページにハナコという単語が出ている。縦読みだったり斜め読みだったり、巧妙に文章内に隠されていることもある。もはやホラーだ。


そうか、この本を読ませたのか。


この巻はハナコが主人公に振られるところで終わる。

最終的に結ばれる相手はアイリにしたいための苦渋の選択らしい。自分自身に寝取られたくないと語りながら、血涙を流してこのシーンを書いたと聞いた。

なるほど主人公の二の舞にならないように、反面教師になるようにこの本を読ませたのか。結果、思い通りにいかず、カズキへの恋心にあきらめをつける方にころんだと。


ん?これは見方を変えればチャンスだ。

ハナコちゃんの傷心を癒やし、彼女との距離を縮める。

そうすることで、ボクは彼女の掛け替えのない存在になれる。


そう、遠くから眺めているだけの現状は終わりにできる。

ユミ、アイリーン。ごめん。推しに手を出すのはファンクラブ会長失格だけど。



ボク、ハナコちゃんと幸せになるから!


「…ミユが遠い目をしてる。おーい」





【カズキ】

放課後、ハナコに呼び出された。


もしかして告白…!?

文化祭の夜、ハナコに告白しようと思っていた俺は、自分から言い出せなかった情けなさを感じつつ、約束の場所に向かった。



「だってほら、あんまりいっしょにいると恋人みたいに見られちゃうでしょ?ほら、学生といったら恋愛でしょ!カズキの周りには美人な子が多いしさ、勘違いさせちゃうし、だからさ」

「そろそろ幼馴染離れしようよ」


そう言って、ハナコは教室から飛び出していった。

俺はハナコの予想の斜め上のことばに、魂が抜けていた。



俺の世界の中心には、いつだってハナコがいた。

でも小学校で離ればなれになって。でもはじめの内は公園で待ち合わせして、いっしょに遊んでたけど。女子と遊ぶのをからかわれて、いつもの公園に行けなくなって。いつの間にか疎遠になっていた。

たまにふらりと公園に行ったりしたけど、ハナコはいなかった。


もう会うことは無いのかな。諦めかけた俺は、中学校でハナコと再会した。


あまりの予想外のできごとに、俺の頭はフリーズしてしまった。

ハナコが涙目で話しかけてきたが、大混乱で何も聞こえなくなっていた。


「よよよよう、ままままた一緒だな!ははは」

口から出た言葉は本当に伝えたかったことではなくて。俺は駆け出してしまった。



俺はハナコとの関係を修復したかった。

でもハナコを前にすると、どうもギクシャクしてしまって、いつも通りにふるまえなくて、ハナコからは「このノンデリ男!」と言われてしまった。


呆然としていた俺に話しかけてきたのがアキさんだった。

アキさんは自称「恋に恋する乙女?」らしく、ハナコを前にあんまりにもへなちょこな俺を見ていられなくなったらしい。

「私がセコンドになって、君の恋の成就を手伝ってあげる。だけど美味しいところは優先席で見させてね☆」


それから特訓がはじまった。

ノンデリ男を脱するために、アキさんから借りた恋愛小説と恋愛ゲームで乙女心を研究し。

流行りの服、髪のセットを教えてもらった。

アキさんの家のメイドさんに手伝ってもらって、エスコートの仕方を学んだ。


中学校では委員長としてクラスを支配していたアキさんに融通を利かせてもらって、ハナコとの仲を深められるようなシチュエーションを用意してもらったりもした。

行事ではいつも同じ班だったし、修学旅行の肝だめしも一緒だったのに。


結局、へたれな俺は告白することができなかった。

これにはアキさんも呆れていた。



ハナコの進学先の高校を、アキさんからこっそり教えてもらった。

学力的に厳しかったが、猛勉強で合格ラインまでもっていくことができ、無事合格。

母には「恋の力ね」と満足気な顔で言われた。


ハナコが落ちていないか心配だったが、掲示板の前ではしゃいでいるのを見てホッとした。

「恋の成就を優先席で見届けるって言ったでしょ?」

アキさんも同じ高校だった。




「あれ?フられちゃった?」

掃除用具入れのロッカーからガタガタと出てきたのはアキさんだった。

どこかに潜んでいると思ったが、そこにいたのか…


「…生徒会の仕事は?」

「用事があるって言って、ミユにお願いしておいた。こんな美味しい場面、見逃せないでしょ」

アキさんは服についたホコリを払いながら、身体をほぐしている。

へそが出てるぞ。


「これにてハッピーエンドで、ながーい甘々番外編がはじまると思ったのに。まさかもう一波乱あるとはね」

はーやれやれ、とわざとらしいリアクションをしている。それどころではない、挽回の一手を考えなければ。


「カズキ君、作戦会議が必要だよ。ハナコさん、諦めてないんでしょ」

「あたりまえだ。声が震えてた。本心じゃない…そう信じたい。ハナコは単純だから昨夜見たドラマとか、夢で見たとか、そんな感じで影響を受けて、思いつめてんだと思う」


アキさんは少し開いている扉の方に目を向けていた。

「カズキ君がへなちょこで、早くハナコさんに告白しないから、こうなるんだよ。手強いライバルもできちゃったかもね」





【ハナコ】

翌日。

わたしは一人で登校した。

車にひかれかけたり、電車内でつぶされかけたりと散々な目にあった。

いつもはカズキがいて、助けてくれてたんだ。いまさらながら実感した。


「おはよー」

教室には、ヒカル君、ユミちゃん、その他何人かの生徒がすでに登校していた。別のクラスのミユさんもいるのは珍しい。

すこし遅れて、カズキがはいってきた。なんとなく気まずい。


「おはよ!」

わたしはカズキの後頭部をベシっと叩いた。なんだか嬉しそう?

「おはよ」

そう、いまのわたしに必要なのは、この距離感だ。


これからわたしは新しい恋をさがす。

そして輝かしい青春を送るのだ。

待ってろよ、未来の彼氏!



ハナコがひとり、鼻の穴を大きくして決意を固めている中、教室内にはただならぬ雰囲気がただよっていた。肉食獣が、お互いをけん制し合う様な。


ネトラレを克服し、ハナコへアプローチをかけようとするヒカル。

欲望に忠実になろうと開き直り、ハナコと百合の花を咲かせたいミユ。

そして自分の気持ちを正直にぶつけようと、決意を新たにしたカズキ。



ハナコを中心として、恋愛戦争が静かに幕を開けた…

『恋愛戦争リベンジャー』…アイリーン著。主人公にフラれたハナコは闇堕ちし復讐者となる。急に主人公そっちのけでアイリが活躍し出し、愛の力でハナコを救い出す…というプロットを考えているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。