【8】大天使、妖精王に改造される。 〜王冠とギャップの罠〜
そして――
妖精王はリビングでパソコンを叩いているロクシーを見つけると、好奇心に満ち溢れた声で言った。
「あ!ロクシー先生!
ロクシー先生なら経験豊富じゃん?
初恋ってなに?」
ロクシーはチラリと妖精王を見ると、重々しく答えた。
「……初恋?それはね……スイスの口座にある。
あんた、“ドル”を理解出来る?」
妖精王が、んー……と考えると、ニパッと笑顔で言った。
「ドルは分かんなーい☆
俺ってペラッペラ〜だし❤️テヘ☆」
ロクシーがウンウンと頷く。
「……だよね。
じゃあ理解出来る様になったら、番号を教えてあげる」
妖精王が嬉しそうに声を上げる。
「なーるなる☆
みんなー!
初恋って番号らしいぜ☆
俺、算数苦手!なーんつって♪」
するとルチアーノが、わなわなと身体を震わせて言った。
「違う……!!
俺様は地獄の王にして、香水の魔術師……そしてロクシー先生の一番弟子!
だから、お前に教えてやろう……!
初恋は香水だし、ロクシー先生は経験豊富じゃない!
“イイ女”だッ!!」
その瞬間――
手元にあったペーパーナイフを、ルチアーノに向かって投げるロクシー。
ペーパーナイフは物凄い速さで、ルチアーノの顔ギリギリを掠めて飛んでゆく。
そしてロクシーは、低く鋭い声で言った。
「……全部間違ってて、あんたが一番失礼!」
だがロクシーの口元が、ゆっくりと上がっていく。
――勝ち筋、見えた。
軍師モード・オン。
――あの妖精王は、使える。
そんな不毛な論争を知らないアンジュは、ルシアンが用意してくれた朝食に、青い瞳を輝かせていた。
「なんと……!
私の好物ばかり……!
ルシアンよ、ありがとう!
礼を言うぞ!」
その無垢な笑顔に、ルシアンの無表情が僅かに揺れる。
ルシアンはそれでも冷静に、「恐れ入ります」と返す。
そしてルシアンの前にも、アンジュと全く同じ朝食セットがあった。
――アンジュはきっと、ルシアンにも感想を聞いてくるだろうと予想して。
そして、それは正解だった。
アンジュはパンケーキを一口食べては「美味しい〜❤️甘〜い❤️」と感動し、ルシアンに「ルシアンはどうだ!?」と訊いてくる。
ルシアンは「はい。美味しいです」と返すだけだが、アンジュは本当に嬉しそうな笑顔になる。
「であろう!?
ルシアンの料理は完璧だ!」
まるで幼い子供のように、えへんと胸を張るアンジュ。
その清らかさ、美しさ――
ルシアンの胸が熱くなる。
そして、そんな二人を見守っているアーチーボルトとリオ。
アーチーボルトが決意に満ちた声で言う。
「……純愛じゃっ……!
リオ!
あの妖精王に二人の邪魔はさせぬぞ……!」
リオも深く頷く。
「……そうだね!
あの平成チャラ男に、ルシアンの初恋を邪魔させるわけにはいかないよ!」
しかし、世の中そんなに甘くない――
ルシアンがアンジュに食後のロイヤルミルクティーを淹れて、アンジュの座る窓際のソファの前に置き、その半歩後ろに立っていると――
妖精王がリビングの入り口のところから、ルシアンに向かって手を振った。
ルシアンは即座に戦士の眼になる。
――何か事を起こす合図か……!?
ルシアンは静かにアンジュに告げる。
「少々席を外します」
アンジュはルシアンを見上げると、「聖なる務めだな?うむ!ご苦労!」と言って、にこりと微笑む。
その神々しくも美しい笑顔が、ルシアンの眼を直撃。
それでもルシアンは、“大天使の戦士”として妖精王に向かう。
そしてルシアンがリビングのガラスの扉を閉め、妖精王に厳しく問う。
「何だ?」
妖精王はニパッと笑った。
「今さあ〜二人を見てて……気づいたんだよね!」
「……何を?」
即座に大天使の剣を隠し持つルシアン。
「ルシアンってさ……いっつもスーツじゃね?
女の子ってさ〜ギャップに落ちるの☆
スーツばっかじゃ女の子が引くよ?
もっと自分を魅せなきゃ☆」
ルシアンの顔が瞬時に真っ青になる。
「……女の子が引く……つまり、アンジュさまに引かれる………!!」
「それそれ☆
だ・か・ら!
アンジュちゃんに刺さるコーデ、しない!?
俺が責任を持ってプロデュースするっす☆
ウィッス・ウィッス・ウィッス☆」
「……な、なるほど……!」
そして二人は、ルシアンの寝室へと向かう。
それを影から見ているルチアーノが、深紅のハンカチを噛む。
「ロクシー先生!
今の妖精王の言葉を聞きましたか!?」
ルチアーノがスマホに向かって言うと、ロクシーは余裕の笑みを浮かべた。
「いいから……あんたは手出しをするな!
成り行きを見ていなさい!」
そして、やはり別方向から見ていたアーチーボルトとリオの側にある大型テレビの高性能スピーカーが、低く唸り……。
――カチッ。
「アーチーボルトとリオ。
あんた達も手出ししないでよ」
突然のロクシーの氷のような声に、二人は飛び上がった。
ルシアンの寝室では――
妖精王がテンションMAXで、スーツの上着とベストを脱いで、ワイシャツ一枚になったルシアンに向かっていた。
「んー……!
素材はオッケー♪
よっし!
じゃあ俺のローブ着る?
あ!!
王冠も似合うよネ☆
イケメンって何でも着こなすからさあ〜♪
オッケー!
ネックレスも……いや全部行こうぜ!!
チョベリグ〜☆☆☆」
そして、数分で金色に光り輝くジャラジャラのルシアンが爆誕した。
アンジュがロイヤルミルクティーのカップを、ゆっくりとソーサーに置く。
すると――
「サプラーイズ!!」と妖精王の声がして、振り返る。
そこには妖精王ではなく、ジャラジャラに飾り付けられたルシアンが立っていた。
アンジュが小首を傾げる。
「ルシアン?
何をしておる?
仮装大会か?」
ルシアンはその瞬間に、無表情の顔色が火山のマグマ色へ。
そして、妖精王の王冠やローブ、装飾品を5秒で完璧に脱ぎ捨て、プールへと走る。
そして、始まるバタフライ。
妖精王がパパッと元の姿に戻ると、言った。
「彼って泳ぐの好きだネ☆」
アンジュは誇らしげに宣言する。
「ルシアンのバタフライは1ミリの狂いも無いのだ!」
そして、その光景を見守っていたリオが頭を抱えた。
「アンジュちゃん……そこじゃない……!!」
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