【2】浄化か、死か。 〜60分完全沈没〜
リオはロクシーを支え、
アーチーボルトも一緒に、
一旦部屋から出た。
ロクシーはへなへなと、
モーテルの廊下に座り込む。
リオがしゃがみ込み、
ロクシーと視線を合わせる。
「ロクシー、
俺たちにも見えたよ。
スマホのカメラ越しだったけど。
あの血塗れの“人間もどき”は誰だ?
順を追って話してくれない?」
その時、
ルシアンが口を開いた。
「人間もどき?
人間ではないんだな?」
リオが頷く。
「人間なら、
俺たちにも絶対に見えたはずだ。
だけど見えなかった。
ベッドメイキングされたベッドが
二つ並んでいるだけだった。
……でも、
スマホのカメラ越しには見えた。
つまり、
ベッドに横たわっている
“人の姿をした何か”は、
人間じゃないよ」
ルシアンが即答する。
「よし、分かった。
私も確認する。
君たちに危険が及ぶかもしれないから、
車で待っていてくれ。
アンジュさまを頼む」
次の瞬間、
アンジュがルシアンの手からふっと消え、
ランボルギーニの後部座席に
横たわっていた。
リオはロクシーを支えながら、
ルシアンを見る。
「分かった。
でも、ルシアンも危険だと判断したら、
すぐに車に飛んで来て」
「分かっている」
ルシアンの手に握られた天使の剣が、
ギラリと光る。
そして、
ルシアンは部屋の中へと消えた。
ルシアンは
1分もかからず、
ランボルギーニへ戻って来た。
運転席の窓をノックし、
低く言う。
「リオ、トランクを開けてくれ。
彼を乗せて、
アーチーボルトの別荘へ帰る。
それとアーチーボルト、
鉄の手錠と鎖を用意してくれ」
アーチーボルトがほっと息を吐く。
「良かった……!
リオの車にUMA対策キットを
隠しておいて……!」
リオが目を剥く。
「俺のランボルギーニに何してんの!?」
「リオ、早くしてくれ」
ルシアンに促され、
リオとアーチーボルトは
車から飛び出す。
リオがトランクを開けると、
アーチーボルトは
巧妙に隠されたケースを取り出し、
鉄の手錠と鎖を取り出した。
二人には見えないが、
ルシアンは
ベッドにいた“何か”を
肩に担いでいる。
それをトランクに押し込み、
手錠をかけ、
さらに身体を
鉄鎖でぐるぐると巻き上げた。
リオとアーチーボルトは
スマホのカメラ越しに、
その一部始終を見届ける。
「やっぱり、
コイツは怪物なの?」
リオの問いに、
ルシアンが一瞥をくれる。
「リオ、忘れたか。
ここは魔術無効のセレニス州。
早くアーチーボルトの別荘へ。
アンジュさまとロクシーに、
やってもらわねばならないことがある。
ロクシーからも話を聞く。
――トランクを閉めてくれ。
ただし、
絶対に中の“彼”に触れるな」
言い置いて、
ルシアンは後部座席に乗り込み、
アンジュを抱きかかえた。
別荘に着くと、
ルシアンは
トランクの“何か”を背負い上げる。
「絶対にこれに触るな」
念を押し、
ただ一人で
地下のUMA監禁室へ急ぐ。
そこは、
アーチーボルト特製の
鉄製の監禁部屋だ。
リオは、
ロクシーの世話と
気を失っているアンジュを
アーチーボルトに任せ、
スマホ越しに
ルシアンの行動を追った。
まじないが描かれた床の上に、
“何か”が
そっと横たえられる。
鉄の手錠も、
身体を拘束する鉄鎖も、
そのままに。
どんなに目を凝らしても、
血は見えるのに、
傷は見えない。
“何か”を担いだせいか、
ルシアンのスーツも
血で染まっている。
「これでいい」
そう言った瞬間、
ルシアンは
リオの前に現れていた。
すでに血の痕はなく、
いつもの完璧なルシアンだ。
「ルシアン。
コイツはどうする?」
「このまま監禁する。
――次は、
アンジュさまとロクシーだ」
二人は監禁室を閉め、
リビングへ戻る。
ロクシーは毛布に包まり、
ガタガタと震えながら泣いていた。
アンジュは、
まだ意識がない。
ルシアンが、
短く告げる。
「この別荘には
複数のバスタブがあるはずだ。
近い部屋の二つのバスタブに、
ぬるめの湯を張ってくれ。
二人同時に浸かれる
バスタブなら一つでいい。
私は“死海の塩”を取ってくる」
言うが早いか、
ルシアンはパッと消え、
すぐに戻って来た。
手には、
赤でまじないが描かれた
グレーの袋。
ジロリと二人を見る。
「風呂の準備はできたか?」
「ルシアンが戻るのが早すぎる!
今すぐやるから!」
リオが浴室へ駆け出す。
アーチーボルトも、
無言で全力疾走だ。
やがて、
息を切らせて
二人が戻ってくる。
「続き部屋のバスタブに
湯を張ってきたぞ!」
とアーチーボルトが言えば、
リオも焦った声を出す。
「ルシアン、
そろそろ事情を教えてくれよ!」
リオの言葉に、
ルシアンは
珍しく焦りを含んだ声で答えた。
「今は時間との勝負だ。
アンジュさまとロクシーを
清めるのが先決。
でなければ、
二人は――
死ぬかもしれない」
リオのグリーンの瞳が見開かれる。
「……二人が、死ぬ?」
「かもしれない。
だから今は、
私の指示に従ってくれ。
二人が清められたら、
私の知っていることを
すべて話す」
「了解!」
リオは即答し、
ロクシーの前に膝をつく。
「ロクシー、いい?
これからは
ルシアンの指示に従って。
ロクシーとアンジュちゃんは、
絶対に俺たちが守る。
分かってくれるよね?」
ロクシーは毛布の中で、
しゃくり上げながら
強く頷いた。
その時、
浴室から
給湯の停止音が鳴る。
「お湯が張られたぞ!
これからどうする?」
アーチーボルトの問いに、
ルシアンはロクシーへ向き直る。
「ロクシー。
君とアンジュさまは、
これから“死海の塩”を混ぜた湯に、
頭から爪先まで浸かってもらう。
――潜るのではない、
完全に沈むんだ。
湯の中では、
目を絶対に閉じるな。
開けていなさい。
時間は60分」
ロクシーががばっと立ち上がる。
そして、
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、
叫んだ。
「それって拷問じゃん!
私は人間よ!?
60分も沈んでいられない!
アンジュちゃんの目はどうするの!?」
ルシアンは、
ただ、淡々と告げる。
「アンジュさまの瞼は、
セロテープで留める。
君は息継ぎをして構わない。
アンジュさまの呼吸は、
私がさせる。
ただし、
“沈んでいる時間”の合計を
60分にしなければならない。
時間は私が正確に計る。
――さあ、行こう」
ルシアンは
アンジュを抱き上げ、
ロクシーの腕を取った。
その瞬間――
空気が、止まった。
風も、
音も、
時間すらも、
この世界から切り離されたかのように、
静止した。
そして――
地下の監禁室の方向から、
“何か”が現れる。
足音は無い。
だが、
そこに“存在している”と、
本能が理解してしまう。
神聖でもない。
邪悪でもない。
ただ――
“存在そのものが違う”。
ルシアンの瞳が、
鋭く細められる。
その存在を、
大天使として認識した瞬間――
能天気な声が、
静寂を粉々に砕いた。
「チョリース☆
初めまして!みんなイケてるぅ〜♪」
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