【1】血塗れの男は、彼女にしか見えない。 〜その正体は天界を震わせる"存在"〜
この物語は、「恋を知ってしまった大天使」の物語です。
感情を持たず、ただ神のために剣を振るう存在――大天使ルシアン。
その完璧な日常は、ある日、血に塗れた“存在”との遭遇によって崩れ始めます。
それは、人間でも、悪魔でも、天使でもない存在。
この出会いは、やがて大天使の運命を大きく変えていきます。
どうか、その最初の瞬間を見届けてください。
それは一本の電話から始まった。
「リオ、助けて!」
リオはシーズンオフに、
セレニス州にある
アーチーボルトの別荘に来ていた。
クリスマスをセレニスで過ごしたアーチーボルトは、
温暖な気候をたいそう気に入り、
豪奢な別荘を購入したのだ。
磨き上げられた床、
重厚な書斎。
外にはインフィニティプールと
プライベートビーチ。
リオの来訪を見越して整えられた、
トレーニングルームまである。
そして地下には――
アーチーボルト自慢の、
UMA専用の研究室。
もっとも、
休暇を満喫している二人にとって、
今は地下室など関係ない。
海風に揺れる椰子の影を眺めつつ、
小さな傘が刺さったカクテルを、
並んでビーチサイドで啜る。
「美味いね、これ!
アーチーって料理得意なんだ!」
彫刻のように整ったリオの顔に、
無邪気な笑みが広がる。
「わしをアーチーと呼ぶな!」
アーチーボルトは肩をすくめ、
それでもどこか得意げに続けた。
「……まあ、料理は得意だ。
それにシェフなど雇いたくないからな。
屋敷の中を他人にウロウロされたくない!」
「UMAの情報漏洩を恐れてるんだね……!」
「分かっとるな、リオ。そうじゃ!
まあ地下室以外の掃除は来て貰っておるがな!」
ワハハ、と豪快な笑い声が、
波音に溶けていった。
そして――
そんな穏やかな時間も、
ロクシーからの電話によって、
破られた。
受話口から聞こえたのは、
泣き叫ぶ声。
「リオ、助けて!」
そして――天界では。
執務室で、
大天使ガブリエルが倒れていた。
その瞬間、
天の空は黒雲に覆われ、
無数の雷鳴が轟いた。
大天使ミカエルはただ一人、
聖務の鎧と聖剣を手に、
ガブリエルのもとへ駆けつける。
重く開かれた扉の向こう――
そこには悪臭が漂い、
ガブリエルの右手は
赤黒く爛れ、
紫の液が滴り落ちていた。
それでもなお、
その姿は神々しく、
美しい。
まるで、
眠るように静かで。
「ガブリエルさま!」
ルシアンの声が響く。
次の瞬間、
ミカエルとルシアンの身体が
眩い光に包まれた。
漆黒の豪雨の中を、
真紅のランボルギーニ・アヴェンタドールSVJが疾走する。
行き先は、
ロクシーが泣きながら告げたモーテルだ。
リオは駐車場に乗りつけると同時に
運転席を蹴って出て、叫んだ。
「ロクシー!」
アーチーボルトも、
すぐ後ろから降りる。
ロクシーは
一階の扉の前で、
しゃがみ込み泣いていた。
「どうした!?
何があった!?」
リオに肩を掴まれたロクシーが、
その胸に飛び込む。
「リオ……
私、頭がおかしくなったみたいなの!
もう少しで精神病院に入れられるところだった……!」
リオはやさしく
ロクシーの濡れた髪を撫でながら、
静かに言った。
「何があったの?
ゆっくりでいい。
話してくれないか?
一人なの?」
ロクシーが泣きながら答える。
「アンジュちゃんも……
一緒よ……」
そして、
震える声で続けた。
「そ、その前に……
部屋の中を見て……
どうなってるか、教えて……」
「分かった」
ロクシーが震える手で
ポケットから鍵を出そうとするが、
床に落としてしまう。
リオがそれを拾い上げ、
隣のアーチーボルトを見た。
「アーチー!
俺は中を確認する!
ロクシーをお願い!」
その瞬間、
白い閃光が走り――
大天使ルシアンが現れた。
「ルシアン……!」
三人の目に、
希望の光が射し込む。
「来てくれたの!?」
泣き叫ぶロクシーに、
ルシアンが力強く頷く。
「もちろんだ。
アンジュさまは?」
「……バスルーム!」
ルシアンが扉に手を翳すと、
スーッとひとりでに開いた。
そして、
冷静な声で言う。
「私はこの中には入れない。
リオ、アーチーボルト。
ロクシーは私が預かる。
君たちが中を確認してくれ。
命の危険があれば、
すぐに救う。
できるか?」
その手には、
すでに天使の剣が握られている。
リオとアーチーボルトは頷き合い、
モーテルの部屋へ足を踏み入れた。
――だが。
中は、
驚くほど普通だった。
ツインベッドも乱れていない。
清掃されたばかりのように、
何一つ乱れがない。
リオとアーチーボルトは
無言のまま目配せをする。
リオはクローゼットへ、
アーチーボルトは浴室へ。
「アンジュが倒れておる!」
アーチーボルトの叫び。
次の瞬間、
浴室からアンジュの姿が消え、
ルシアンがすでにその身体を抱き上げていた。
リオがクローゼットを開く。
中は――空だ。
アーチーボルトが浴室から出てきて言う。
「アンジュは助かったようじゃな。
浴室も使われた形跡はない」
リオが首を傾げる。
「何にも無いよね?」
「ああ、何も無い。
ロクシーに伝えよう」
だが。
部屋を出た二人に、
ロクシーは絶望した瞳で言った。
「見えてないのね……?」
「見えないって、何が?」
リオが笑顔で応じる。
「部屋は掃除したてみたいに綺麗だったよ?」
ロクシーは弾かれたように走り出す。
「ロクシー、待て!」
リオが叫び、
二人が追って部屋に戻ると――
ロクシーが絶叫した。
「このベッドに、
血塗れの男の人が寝てるの!!
でも、
二人には見えないの……!?
やっぱり、私……
おかしいんだ……!!」
リオとアーチーボルトの目には、
本当に何も見えない。
ただ整った白いシーツが二つ。
皺一つなく、
清潔そのもの。
ロクシーは床に崩れ落ち、
泣き叫ぶ。
「血塗れの男の人がいるの……!」
リオが低く囁く。
「アーチー、どう思う?」
アーチーボルトが静かに頷く。
「ロクシーにしか見えておらん。
つまり“人間”ではない……
こういう時はこれだ!」
ポケットからスマホを取り出す。
「カメラ、か!」
「そうだ。
幽霊なら映る。
怪物なら正体が写る。
やってみよう」
リオが頷き、
スマホを構え――
レンズ越しに見た“それ”は。
背の高い逞しい男。
ローマ神話の神々のような
白いローブを纏い、
頭には
黄金と宝石を散りばめた王冠。
腰には長剣。
胸には
黄金の装飾が煌めく。
それに、
素足には革の編み上げサンダル。
そして――
ロクシーの言葉通り、
血に塗れた姿で、
静かにベッドに横たわっていた。
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