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弱さに触れるたび、僕らは沈む  作者: ネギもやし
第二章 触れてしまった距離
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第二十四話 何も起きてないのに空気が違う

月曜日の朝は、少しだけ重たい。


休みが終わったという事実より、

日常に戻る準備がまだできていない感じがするからだ。


拓真は教室に入って、

自分の席に鞄を置いた。


前の席には、まだ澪はいない。


(いつもより遅いな)


そう思った自分に気づいて、

拓真は一度視線を落とす。


「おはよー」


司が後ろから声をかけてきた。


「顔、寝不足」


「そう見える?」


「見える。あと、ちょっと機嫌いい」


「それは意味わからん」


「分かる人には分かる」


司は勝手に納得して、席に座った。


「土曜、何してた?」


「別に」


「即答怪しいな」


「映画見ただけ」


「誰と?」


「……友達」


「へえ」


司が、にやっとする。


「友達って便利な言葉だよな」


「うるさい」


そこへ、教室のドアが開いた。


「おはよー!」


聞き慣れた声。


澪だった。


いつも通りの明るい声で、

いつも通りに手を振って、

奈々と梨央と一緒に入ってくる。


見た目は、何も変わっていない。


「澪、昨日どうだった?」


「普通ー」


「その普通信用できない」


「ひど」


笑いながら席に着く澪。


拓真と目が合う。


一瞬だけ。


「あ」


小さく声が漏れて、

澪はすぐに視線を逸らした。


「……おはよ」


「おはよ」


それだけ。


それだけなのに、

胸の奥が少しだけざわついた。


司が小声で言う。


「今の、なに?」


「なにが」


「距離、変わってない?」


「変わってない」


「変わってるな」


「……気のせいだ」


「本人が言うならそういうことにしとく」


授業が始まる。


黒板の文字を追いながら、

拓真は前の席を意識してしまう。


澪は、時々ペンを止めて、

考え込むみたいに天井を見る。


その横顔が、

昨日の帰り道と重なる。


昼休み。


奈々と梨央が澪の席に集まる。


「ねえ、土曜なにしてた?」


「普通に」


「普通の中身が知りたいんだけど」


「映画とか」


「誰と?」


「……友達」


澪はそう言って、ちらっと拓真を見る。


ほんの一瞬。


梨央が、それを見逃さなかった。


「へえ」


「なにその反応」


「別に」


奈々が笑う。


「まあ、澪が元気ならいいや」


「元気だよ」


即答。


でも、その声は少しだけ柔らかかった。


放課後。


拓真は、鞄を持ちながら立ち上がる。


「なあ」


司が言う。


「今日、一緒に帰る?」


「……今日はいい」


「珍し」


「ちょっと用事」


「はいはい」


司はそれ以上、聞かなかった。


教室を出ると、

廊下の向こうに澪の背中が見える。


奈々と梨央に手を振って、

一人で歩き出すところだった。


「……宮下」


拓真が呼ぶ。


澪が振り返る。


「なに?」


「今日、帰り……」


言いかけて、言葉を探す。


「少しだけ、話せる?」


澪は、一瞬だけ考えてから笑った。


「いいよ」


それだけで、

月曜日が少し軽くなった気がした。


昨日の続きは、

もう終わっていない。

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