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弱さに触れるたび、僕らは沈む  作者: ネギもやし
第二章 触れてしまった距離
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第十八話 噂は騒がしくて、後に残る

この回では、

噂や視線に対して、

澪がどう振る舞うのかを書いています。


立ち止まらず、

笑って、騒いで、流していく。


それでも残るものがある、

そんな一日の話です。

体育のあと、教室に戻ると空気が少しだけざわついていた。

さっきまで体育館にいたはずなのに、話題はもう一周して、勝手に広がっている。


澪は席に着くなり、机に突っ伏した。


「はー、疲れた!」


声を張る。


「体育しんどすぎ!」


奈々がすぐに反応する。


「いやいや、澪めっちゃ動いてたじゃん」


「動いた分だけ疲れるんだって」


梨央が笑う。


「それ、説得力ある」


澪は顔を上げて、肩を回す。


「もうさ、明日絶対筋肉痛だわ。青春って筋肉痛だよね」


「雑なまとめ方」


「褒めてる?」


「どっちでもない」


三人で笑う。


その後ろで、男子の声が聞こえた。


「宮下、今日すごかったよな」


「運動神経いいの意外だった」


「てか普通に目立ってた」


澪は、振り返って即ツッコむ。


「ちょ、聞こえてるから!」


教室が一瞬静まって、すぐに笑いに変わる。


「本人に言うなよ!」


「いや言われる前に言うわ!」


澪は手を振る。


「はいはい、見ましたー!ありがとー!以上、宮下でしたー!」


奈々が腹を抱える。


「強いな、澪」


「生きるためにはこれくらい必要」


梨央は少しだけ澪を見てから言った。


「でもさ、悪い感じじゃないよ」


「分かってる分かってる」


澪は軽く頷く。


「ほら、噂ってさ、放置すると変な方向行くじゃん?だったら先に笑いにしといた方が楽」


その言い方は軽い。でも、どこか慣れている。


少し離れた席で、司が拓真に絡んでいる。


「お前さ、さっきから静かすぎ」


「お前がうるさい」


「それ言うと思った」


拓真は視線を逸らしながら言う。


「……宮下、普通に上手かった」


その声は小さくて、澪のところまでは届かない。


でも、放課後。


帰り支度をしながら、澪は拓真に声をかけた。


「ねえ拓真」


「なに」


「さっきさ、体育見てた?」


「まあ、見てた」


「どうだった?」


澪は、からかうように笑う。


「ちゃんと褒めなよ?」


拓真は一瞬言葉に詰まってから、短く言った。


「……普通に、上手かった」


「え、それだけ?」


「それだけで十分だろ」


澪は一拍置いて、笑った。


「ま、拓真らしい」


そのまま話は終わる。

いつも通り。

軽くて、深掘りしない。


司が横から割って入る。


「はいはい、いい感じの会話でしたー」


「どこが」


「空気が」


「意味わかんない」


「分からせる気もない」


澪はそのやり取りを聞きながら、思う。


噂なんて、どうせすぐ別の話題に流れる。

騒いで、笑って、上書きされる。


でも。


拓真の「普通に上手かった」は、

なぜか頭の端に残っていた。


大げさじゃなくて、

評価しすぎでもなくて、

でもちゃんと見ていた感じがして。


澪は帰り道、少しだけ歩幅を速めた。


五月の風は軽くて、

騒がしい一日を、そのまま運んでいく。


噂は消える。

でも、言葉は残る。


たぶん、そういう違いなんだと思った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


澪は、強いです。

少なくとも、そう振る舞うことができます。


噂を笑いに変えて、

空気を自分で回して、

先に騒ぐことで身を守る。


でも、

すべてを流せるわけじゃありません。


誰にどう言われたかより、

誰が、どんな言葉で見ていたか。


その違いが、

少しずつ積もっていきます。


次の話では、

その積もったものが、

別の形で動き始め...るかもしれないですね...

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