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プロローグ

誰かの弱さに触れたとき、

人は二つの選択をする。


近づくか、

離れるか。


その場では、

どちらを選んだのかなんて分からない。


声をかけなかったことが、

正しかったのか。

踏み込まなかったことが、

逃げだったのか。


答えは、

ずっと後になってから、

沈むようにやってくる。


入学式が終わって、

北原高校の校舎は、

ようやく「日常」の音を取り戻し始めていた。


四月の終わり。

北原高校の教室は、いつも通り騒がしい。


窓は少しだけ開いていて、

風と一緒に、笑い声が流れ込んでくる。


最初の緊張は薄れて、

クラスの空気も、

それぞれの居場所も、

なんとなく形になり始めている。


話題の中心にいる人がいて、

それを囲む人がいて、

少し離れた場所で眺めている人がいる。


同じ制服を着て、

同じ時間割をこなしているのに、

沈んでいる深さは、きっと同じじゃない。


弱さは、

静かな場所にあるとは限らない。


むしろ、

一番明るい場所にあって、

一番賑やかな声の中に紛れている。


これは、

誰かの弱さに触れてしまった側の話であり、

触れられてしまった側の話だ。

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