4話
土曜日の午後。悠真は大学の掲示板で見つけたツーリングサークルに体験参加していた。
集合場所に集まった十数人のバイクは、排気音も控えめで、走り出すと列を揃えてのんびりと進んでいった。海沿いの道を仲良く並走し、途中のカフェで笑い合いながら休憩する。
だが悠真は、列の中でアクセルを開けられず、心臓の鼓動が物足りなさに苛まれていた。速度を抑えた走りは、彼にとって「生きている証」を失うような感覚だった。仲間の笑顔の輪に入れず、孤独感だけが胸に広がった。
「俺は……違うんだ」
心の中で呟きながら、悠真はサークルの解散を待った。仲間たちが「また来週も走ろう」と声を掛け合う中、彼は曖昧な笑みを浮かべてその場を離れた。
帰路についた悠真は、土手沿いを走っていると偶然レーシングカート場の看板が目に入った。吸い寄せられるように立ち寄り、ヘルメットをかぶってコースに出る。
エンジンが唸り、低い視点から地面をかすめるように走るカートは、バイクとは違う迫力を持っていた。コーナーを抜けるたびに身体が振り回され、直線では風が頬を切り裂く。悠真は叫び声を上げ、笑いながらアクセルを踏み込んだ。
「これだ……これだよ!」
速度と疾走感が全身を貫き、彼は今まで以上にスピードの虜となった。孤独感は消え、ただ速度の熱だけが残った。
一方で早苗は、写真部の見学に足を運んでいた。部室には立派な一眼レフカメラが並び、メンバーは撮影旅行の計画を楽しそうに語っていた。だが早苗の心には迷いがあった。
「カメラを持ってツーリングなんてできるだろうか……」
重い機材は走りの自由を奪う。未知の土地に辿り着く旅に、余計な荷物は似合わない。結局、彼女はサークル参加を断念した。
その代わり、彼女は街のショップで最新のスマートフォンを手に取った。カメラ性能の良さを店員に説明され、試しに撮った写真の鮮明さに目を見張る。
「これなら、走りの途中でも景色を残せる」
契約を済ませ、新しいスマホを手にした早苗は、画面を撫でながら悦に浸った。走りの自由を守りつつ、景色を切り取る新しい方法を手に入れたのだ。
夕方、二人はそれぞれの場所で一人の時間を過ごしていた。
悠真は速度の余韻に酔い、早苗は新しいスマホの画面に微笑んでいた。
走り方は真逆でも、二人は同じように「自分のスタイル」を確かめていた。




