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Blood Sisters  作者: ジョウ・アイダ
Chapter Four:Alone in the room
21/46

4-1

挿絵(By みてみん)


「もー。せっかく、映画館で見られると思ったのに……」

そう言って前の車にクラクションを鳴らすエル。眉を歪ませて顔に不機嫌と大きく書いてある。

古典の名作ロマンスが数十年ぶりに一日だけの限定公開。私は興味がなかったが、エルは一か月前に二席分を予約していた。

今朝もそれでうるさかった。だが、よりにもよって今夜、それが起きた。

今から約一時間前――カジノ・エルドラドの換金所で従業員二人と観光客一人が死亡。更に二十万ドルも奪われる。そして三十分前、“逃走代行人を探す”見慣れないチンピラがシルヴィアの網に引っかかった。

そして今、苛立つエルの隣に乗ってハイウェイ沿いのしけたモーテルへと向かっていた。

仕事は簡単、モーテルに隠れているチンピラ共への意趣返し。二人で代行人のフリをして金を確認し、犯人だと確定したら“穏便”に返してもらう――それだけの、単純な仕事。

モーテルが見えるとエルはスピードを上げ、駐車場に荒っぽく車を停めた。

「さっさと終わらせよ。……何人だっけ?」

エルがドアを荒っぽく開けて、大口径のリボルバーをショートパンツに差し込む。肩を落として大きくため息を吐いた。

「カジノに来たのは三人、ドライバー含めたら四人かな。一人はショットガンを持ってるらしい」

「そっか、じゃあ二人以上はやらなきゃだね」

ペンキの剥げた階段、ちらつく電球、立ち入り禁止の札が掛かった部屋。

薄暗い廊下を歩き、目的の三〇八号室の前まで着いた。

目を合わせると、エルは頷いた。

相変わらずの表情でドアを三度ノックすると、瞬時にドアがチェーンの分だけ開く。

明かり一つ付いていない闇に黒い瞳が見えた。

「特急集荷よ、荷物を受け取りに来たの」

ドアが力強く閉められ、話し声が僅かに聞こえた。数秒の後、ドアが開けられる。中に入るとドアが閉められ、黄色の照明が付いた。

中に入ると見えたのは五人。一人は小さいが筋骨隆々で開けたドアのそばに立ち、ショットガンを持つ。もう一人は巨漢で正面のソファに腰かけて、ハンバーガー片手にピザを食っていた。瘦せ型の一人はベッドに、もう一人のロン毛はダイニングに立ち、タバコを加えてこちらを睨む。

壁紙は黄ばんでひび割れ、天井の蛍光灯がチカチカと点滅する。

部屋の空気は淀み、不快な湿度と緊張感で満たされていた。

「あなた達だけ?」

エルが腕を組んで聞くと、テーブルの男はピザをゆっくりと飲み込みコークを飲んだ。

「そうだ……この街から出たい。でも、お前らが信用できない」

ドアの男はそう言うと私の背中にショットガンを押し当てる。エルがそれに気が付いて更に不機嫌な顔になった。

「知ったことじゃないわ。こっちはね、仕事してさっさと金貰って帰りたいの。で?どこ行きたいの?」

アドリブながらいつになく棘のある声と睨み。私の背中に当たる迷いながらもショットガンが離れた。

「北の国境だよ。……あれ南だっけ?」

ピザの男が頬張りながら尋ねると、仲間全員から睨まれて顔を下げる。

「北なら一人一万ドル。前金で三千、到着したら七千。全額キャッシュで、だ」

私がそう言うと空気が変わった。ベットの男は起き上がり、ロン毛の男は煙草をシンクに投げた。

「合計四万ドルはぼったくりじゃないの?一人五千の二万ドルだ」

ロン毛はダイニングからゆっくりと出てきた。金時計の手には拳銃。背後のショットガンも再び上を向いた。

流れる沈黙。薄い壁から隣のテレビの音が聞こえる。

だが、とりあえずは上々だ。こいつらは私たちが代行人と信じている。あとは金。

「北までなら明後日には着くだろ?だったら、そんな金払えない。一人五千だ」

「ダメ、私たちは安い仕事は受けないの。一人一万、払えないなら帰るわ。ね?」

エルがそう言うと私に振り向いて頭を傾けた。

膠着状態。だが、良い。相手の死活問題を良い感じに挑発できている。エルの態度が最高だ。

「はぁ……。なら部屋に入るところからやり直す?」

エルがそう言い、後ろ手にドアにゆっくりと歩く。ショットガンが顔に向けられるも手で抑えた。

「どうせ、二万も持ってないんでしょ?ハイヤー…いや、タクシーでも呼んだら?」

そう吐き捨てて、ほくそ笑むエル。その瞬間、ロン毛がキレた。

銃声――部屋の空気と埃を振るわせる。そしてドアにしっかりと弾の跡を付けた。

「いいだろう……一人一万で飲んでやる。その代わりに途中で止められてみろ、殺してやるよ。お前ら二人、生まれたことを後悔させてやるよ」

ロン毛は気持ち悪く笑った。その様子を周りの仲間たちは怪訝そうに見る。

私も意外だったが、すぐに納得した。ロン毛の算段としては目的地までしっかりと運ばせて、その後に殺すつもりなのだろう。

汚いやり方だが、私たちも人のことは言えない。この部屋をヤツらの墓場にするつもりだから。

「じゃあ、お金。前金だしてよ」

エルがにっこりと笑いターンする。ロン毛は痩せた男に目配せすると、男はダイニングからボストンバッグを二つ持って来た。

「バカ、一つでいい」

ロン毛が怒鳴って男はダイニングに一つ戻す。苛立つロン毛がバックを開けると、そこには満杯の紙幣。紙幣が混ざってはいるが五万以上はある。

ほぼ確定だ。それにここに金はある。

荒っぽく札束を掴んで数え、そしてエルに出した。

「ほらよ、四人分の一万二千だ。これでいいだろ」

エルはそれをゆっくりと数える。その横顔が少し笑った。

「へー、お金持ちなのね?宝くじでも当たったの?」

ロン毛がゆっくりと息を吐き、エルの目の前に来る。

そして肉が叩かれた音。平手打ち。エルが少しだけのけぞり、紙幣が床に落ちた。私が飛びかかろうとしたが、エルの青い瞳が止められる。

「お前、調子乗るなよ。俺は今日は三人も殺ったんだ。それにな最大のカジノから金奪ってやったんだぜ」

九十九%が百%になる。そしてロン毛が意気揚々と銃を抜いた。

その瞬間、銃声――と共に彼の額に穴が開いた。

エルが撃った。スタートだ。

私はホルスターから銃を抜き、腋から背後のショットガン男を撃つ。男は三発で倒れた。

更にエルがピザ男の腹を撃ちぬくと、男はテーブルとソファをひっくり返して倒れた。私はベットの上でクッションを持って立っている瘦せた男の頭と胸に一発ずつおみまいした。

鼻を突くような埃と硝煙と――温め直しそこねた夕食の匂いが混ざった。

破れたクッションの羽毛が雪のように舞い、壁には血が滴っている。その弾痕は黒く焦げ、ファストフードの袋がピザ男の身体に踏み潰されて、ポテトを床に散乱させていた。

エルは口笛を吹きながらリボルバーをガンマンのように回して、ダイニングに向かった。

私は手前のボストンバッグ、エルはダイニングのバッグの札束を数える。今度は早い手つきで。

「こっちは大体…八万そっちは?」

「うーん。こっちは五万くらいだね」

足りない。あと一つあるはずだ。

「あと七万か……」

ロン毛が覆いかぶさっていたチェストを無造作に蹴り飛ばすと、何出ないが埃がふわりと舞い上がり鼻を刺した。

「失敗。一人くらい生かしてればよかった」

エルはそう言いながらクローゼットを引き倒し、中のガラクタを散らす。私は寝室に目をやったが、薄汚れたベッドの他にめぼしいものはなかった。戻る途中で踏み潰されたハンバーガーのぐちゃりとした感触が、ブーツ越しに伝わる。

一際大きな音を立て、エルがバスルームからスーツケースを抱えて戻ってきた。中には紙幣――血の跡がべったり付いた。七万はある。

「よし、帰ろ」

エルがそう言って振り向いた、その瞬間――。

部屋の隅に、まだ息のある影が潜んでいた。

エルに腹を撃たれたピザ男。血の海の中で半身を起こし、震える腕で銃口をエルに向ける。

「エル!」

反射的に地面を蹴った。エルに体当たりする。

銃声が響く。熱い痛みが喉を焼き、視界が赤に染まった。

――血の味。

呼吸ができない。胸の奥で空気が掻き消え、世界が歪んだ。

エルの瞳が大きく見開かれる。

二発目の銃声。かすれた視界でピザ男の顔が吹き飛ぶ。

気が付けば、私はエルに抱えられ、廊下を走っていた。

口から溢れた血が、エルのシャツを真っ赤に染めている。息が乱れ、耳に残るのは彼女の荒い足音だけだった。

エルの顔は蒼白で、唇が強張り、瞳の奥が揺れていた。

それは――恐怖の時のもの。

そこで意識は沈んだ。眠るように、自然と瞼が閉じた。

結果、傷は深かったが致命傷には至らなかった。死なずに済んだのは、エルの素早い搬送と運の良さのおかげ。

手術後も、しばらくは血の味が口に残り、飲み物すら喉を通らないため点滴を通した。

水が飲めない、それは癒えない乾きで、欲望の拷問だ。コップ一杯とか贅沢は言わない、手にすくった水でいい。だがそれも叶わない。

これまでに様々な苦痛は受けた。直近ではゾラの拷問が最高得点。だがこれは違う意味で苦痛だ。

水を口にできるようになったときは嬉しかった。エルはミネラルウォーターを山ほど買ってきて、それを入院中にほとんど飲み干す。

――水の苦痛で忘れていたが、同時に鏡に映る自分の首には消えない赤い痕が残っていた。

退院まで間もない夜、病院の白い壁の下で私はその傷跡を指先でなぞった。あの時の血の味を思い出すたび、胃に熱いものがこみ上げる。

だが、いつまでも見ていられるし、触っていられる。

誇らしい。――人生で唯一のトロフィー。

これはエルを守った証だ。

ただの傷じゃない。私がこの道を選んだ証で、存在証明。

私は鏡に映る自分に小さく笑った。――この首の傷は、私の人生最大の勲章だ。

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