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Blood Sisters  作者: ジョウ・アイダ
Chapter Three: A person
17/29

3-7

挿絵(By みてみん)


「ミア! もっとスピード出せないの!?」

助手席のエルがアサルトライフルを抱えて叫ぶ。

その声に焦りが混じるのは珍しい。

「ずっとベタ踏みだッ! 油温も振り切ってる! いつブローしてもおかしくねぇ!」

猛然と車線をすり抜ける。

蛇行しながら駅を目指すその足元で、タコメーターはレッドゾーンのさらに奥を振り切っていた。

ブロアーの吸気音と、焼きつくような異音が交互に鳴り続ける。

あと――10分。

バックシートのレイは前を見据えたまま、両手を組んで震えている。

「レイ、大丈夫だ。あと少しで着く。間に合う」

「……ああ」

ヤンヤンを乗せた列車が、出てしまえば終わりだ。

タイムリミットは刻一刻と近づいていた。

「……っ、ミア!!」

エルが突然、前方を指さす。

「出た! 列車、もう出発してるッ!!」

視界の先――巨大な貨物列車が、黒煙を吐いて発車していた。

考えるより先に、私の手が動いていた。

「――捕まってろ!!」

ステアリングを切り込みながら、ハンドブレーキを引く。

タイヤが焦げる音と共に、車体が真横に滑る。

180度の急旋回――そのままアクセル全開。

「ッぐっ……!」

レイが後部座席に投げ出され、エルの額が助手席のガラスを叩いた。

進路の先にフェンス。

踏み込んだまま鉄格子を突き破り、車体は線路へと突入する。

「……予定より早く動いたね。向こうも、待ち構えてるかも」

エルが血を拭きながら銃を構える。

「ああ……上等だ。地の果てまで、追ってやる」

ゼニス・スパイアの外縁を抜け、車は砂漠地帯へ。

ついに列車の最後尾が視界に捉えられる。

貨物の金属ボディが光を反射していた。

あと少し――今はまだ、気づかれていない。

アクセルを踏み抜く。

エンジンが悲鳴をあげ、Gが背中にのしかかる。

「エル! 並走する! 飛び移れ!!」

「OK! 安定させてよね!」

エルがドアを開けて、車体から身を乗り出す。

――その瞬間。

前方車両から、銃声が鳴り響く!

「ちっ、気づかれたかッ!」

エルはドアを盾にして身を守り、私が車体をさらに寄せる。

だが、ボンネットから白煙。

――被弾だ。エンジンがやられた。

「ミア! 寄せて! もう行く!!」

「行けッ!」

ギリギリ三号車に車体を擦り寄せる。

エルは勢いよく飛び、貨物車の窓を蹴破った。

「オリャーッ!!」

ガラスが割れ、エルが姿を消す。

……見届けた。その直後。

側面に突き上げられる衝撃――追いつかれた。

乗り上げたドアが吹き飛び、車体が軋む。

もう、最後尾しかない。

「レイ! ハンドル代われッ!」

「えっ……! あっ、わ、分かった!」

アクセルを踏み込んだまま助手席に滑り込み、レイが身体をねじ込むように運転席に滑り込んだ。

視界の端に、最後尾が迫る。

「後ろにつけろッ!」

レイは必死に車体を操り、最後尾にぴたりとつけた。

ひびだらけのフロントガラスを割り、ボンネットに転がり出る。

焼けた鋼が、靴底を焦がす。

「……ここが、勝負所だ」

一歩、二歩、助走。

バンパーを蹴る――

跳んだ!

コンテナのハシゴを掴み、反動で軋む腕を引き寄せる。

そのまま上へ、登る。

背後では、レイの車のライトがひときわ光り、

爆音と共に――

消えた。

列車に立つ。

風が顔を切る。砂漠の熱が肌を焼く。

「……新記録、だな」

一度、後ろを振り返った。

もう車の姿は、どこにもなかった。

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