第一話「ネッ友はクラスメイト」
ラノベを書くのは初めてです。
当方、ラノベもほとんど読んだことないので色々と思うところがあるかもしれませんが、温かい目で読んで頂けると幸いです。
昼休み、俺は階段の端に一人座っている。
ここは屋上へと続く階段なのだが、その割には全く人が来ない。それもそのはず、屋上の扉は安全上の理由で固く閉ざされているのだ。アニメやラノベの世界ならきっと開放されていて、青春イベントが繰り広げられるような場所なんだろうが、現実はつまらない。
だが、そうして閉鎖されているおかげで、俺はこの場所を手に入れることが出来た。人目はなく、誰かに脅かされるようなこともない。
今日も今日とて、生徒の喋り声が微かに聞こえてくる。こだまして重なり合って、ようやく耳に届いた頃には意味を失い、雑音のように小さく耳を打つ。不思議とその雑音が心地よく感じるようになったのは、俺がここに通うようになってからだった。
ちなみにここに通うようになった理由は、「階段でぼっち飯してたら主人公っぽくてかっこいいんじゃね?」と思ったからである。我ながら、最高に短絡的な考えだと思う。それでも、気づいた時には、この場所は心を落ち着かせられる場所となっていた。
毎日のようにここで静かに昼食を摂り、一人物思いに耽ることが俺の日常。特に代わり映えもなく、意味のないことを思案するだけの時間。まあ、一人だと何か考える以外に大したやることもないしな。
…さて、今日は何について考えようか。
うーん、そうだな。ここは一つラノベチックな自己紹介を考えてみよう。
─青春真っ只中の学生たる者、新学期が始まれば、大きな変化が生まれるものである…と言いたいところだったが、全くそんなことはなかった。高校二年次が始まって既に一ヶ月が経過したのだが、今でもクラスに友達と呼べる相手はいない。本当に、冴えない高校生活だ…
そんな俺は、千葉の平凡な県立高校「前原高校」に通学する陰キャボッチ、花川 幽だ。
身長は178で、普通より少し高い。そして軽い筋トレを毎日やっているおかげか、ガタイも少し良い方だ。
まあ、見た目がどうだろうと中身があり得ないぐらい終わってるから、結局意味はないんだけど。
とある事がきっかけで自己肯定感は低く、それは自分のことながら異常と思える程だ。加えて、基本的に会話が嫌いであることもあってか友達はいなく、いつも寂しい時を過ごしている。
趣味はラブコメアニメを見ること。多くの時間を共に過ごし、すれ違いながらも成長していく個性的な登場人物たち──画面越しに眺めている分には最高だ。
そう、画面越しに眺めている分には。
なんて言ったって、現実で青春を謳歌出来るような人間は陽キャしかいないからな。個性もクソもない。
仮に陰キャな俺に友達が出来たとして、陽キャと同じことをやってみたらどうだろう。
「陰キャがなんかやってる」
こんな言葉で片付けられて終わりだろう。
つまり、青春を謳歌出来るのは陽キャだけなのだ。陽キャがキャッキャウフフしてる、そんな姿に喜びを覚える陰キャボッチなんてまあいないだろう。もちろん、それは俺も例外ではない。
だから、三次元の青春は嫌いだ。
でも、別に陽キャ自体が嫌いというわけじゃない。自分には何の関係もないような、テンプレ化された陽キャの青春が鬱陶しくて嫌いというだけの話。
それがぼっちである人間がゆえの捉え方でしかないことは、俺も当然に理解している。
だからこそ、新学期の始めは話せる相手の一人ぐらい作ろうと考えていたわけだが、身の程を弁えてやめた。
結果、五月になった現在でも、俺はずっとボッチのままなのだ。
まあ、中学の卒アルは寄せ書きゼロだったし、今もクラスLINEに入れてもらえてないし、そもそも誰ともLINE交換してないし、この前も俺だけが日課変更を知らなくて一人教室に取り残されたし、さっきの授業でも班の話し合いで俺だけ「花川さん」って呼ばれてたし、
おっと、挙げ始めたらキリがない。要するに、あまりにもボッチってことだ。
しかし、そんな俺にも、ネット上には一年程の付き合いになる"友達"が存在している。
そのネッ友は俺と同い年の女子で、同じく千葉県に住んでいるとのこと。青春ラブコメのアニメが好きなところと、三次元の青春を苦手としているところが共通していたため、俺達は意気投合出来たというわけだ。
リアルでの愚痴を言い合ったり、他愛のない会話をしたりすることがもはや日課となっている。
俺と違って彼女は普通に会話が出来るようだが、結構静かなタイプであるようだ。話している感じでも、それは感じることが出来た。
彼女の話によると、とあるアニメのヒロインに影響され、少し前に量産型の服を買ってみたらしい。しかし、派手目な特徴を持つ服ということで、外では未だに着ることが出来ていないとのこと。
そうした自己表現が不得意な点からも、彼女からは俺と同じ陰キャの性質を感じる。
だから、もし実際に会うことが出来たとすれば、今度は上手く関わることが出来るんじゃないか?なんて思っていたりもする。
長らく互いの本名を知らなかった俺達だが、昨日になってようやく本名を教え合った。心の距離が少し縮まったような気がして、何だか嬉しかった。響きの良い名前で、それはふと口に出してしまいたくなる程。
その名前は─
「あ…!」
唐突な声に思考を遮られた。
その声質は高く明るく、俺とは無縁な人物であると本能で感じ取ることが出来る程。
もちろん、俺は学校で誰とも会話などしないから、その声に聞き覚えはない。まして女子ともなれば尚更そうだ。
しかし、この場には俺しかいないはず。ならば、その人物は俺に用があるはずだ。気持ち的にはすごくスルーしたいところだが、本当に俺に用があった場合に申し訳なさ過ぎる。
ってことで、恐る恐る目線を向けてみると、声の主と目が合った。
階段下からこちらを覗いているのは、タレ目気味で温和そうな顔。そして、そんな顔つきには黒寄りの茶髪が肩辺りまで静かに添えられていた。横髪の毛先は綺麗に揃えられており、いわゆる姫カットと言われるやつだろう。
彼女はこちらと目が合ったことに気がつくと、律儀に小さく会釈をしてみせた。
当然、それを無視できるような度胸はないから、俺も小さく会釈をし返した。
もちろん、周りを十分に見渡して、その場に俺しかいないことを確認した後でな。
それで……この人は誰だっけ…?
……あー…この人、うちのクラスの陽キャ女子グループにいたっけ…正に明るい人といった感じで、中々に近づき難い印象を抱いた記憶が微かにある。
多分女子カーストの中でも、ナンバーファイブぐらいにはいたような…まあ詳しくは知らないけど…
で、俺に何の用なんだ…やっぱり陽キャ女子が陰キャ男子に用って言ったら嘘告しかないか?いや、これは偏見が過ぎるか…
なんて考えているうちに、彼女はこちらに近寄ってきた。
「急にごめん、あの…花川幽くん…だよね?」
彼女は少し自信がなかったのか、そっと繋げるように言葉を発した。
「あぁ、うん。そうだけど」
ここはちょっとかっこつけて、無愛想に返してみるか。
「良かった、花川くんってネットに友達とかいる?」
少し不安気な表情が可愛いしちょっと可哀想だな。よし、無愛想はやめよう。
「あ、まあ、一人いるけど…」
それで、どういう質問なんだこれ…
「…その人の名前って教えてもらえる?」
彼女は少しホッとした表情を見せると、そう続けた。
これ勝手に教えていいのかな…
「まあ、名字だけなら…えっと、"涼川"って人」
「なるほどね…じゃあ聞くけど、その人の下の名前ってもしかしたら"凪紗"だったりする?」
「おぉ、正解…すごい…」
いや、なんで当てられた?
「やっぱり…」
…ん?やっぱり…?
「私の名前、涼川凪紗っていうの…」
唐突に放たれたその言葉が、俺の思考を硬直させた。
「……え?」
声にならない声が喉を通り、ポロッと零れ落ちる。
…おい、待て。どういうことだ。この人は俺のネッ友?…ん?どういうことだ…
「あのね、それでその…ちょっと言いづらいんだけどさ…花川くんのネッ友ってさ…たぶん私…」
彼女は前髪に手をやると、恥ずかし気にそう言ってみせた。
「…あ…え?」
「ごめん、びっくりしちゃうよね…実は私、最近ネッ友に本名教えてもらったんだけどさ…名前が同じクラスの花川くんと同姓同名だって気づいたから、まさかとは思ったけど確認したいなって。それで、今日はずっと花川くんに話しかけるタイミング伺ってて…昼休み教室出ていくの見えたから…後追いかけてここにきて…」
少し自信がなかったのか、言葉は言い切られることなく、だんだんと消えていった。
…え、てか本当にこの涼川って人が俺のネッ友なのか? くそ、こうなったらあの質問をしてみるか。
「なるほど…じゃあ…その、抽象的で悪いんだけど……リアルの青春は苦手?」
俺がそう問うと、彼女は絞り出すように言葉を発した。
「…うん、苦手だよ」
…あー、
この人で決まりか…そもそも同姓同名なんか中々いないしな。
「そうか…俺たちはネッ友で間違いないと思うよ…ちなみにこれが俺のアカウントだけど…」
「あ!それ!私、その花川くんと昨日も話したよ。ほら」
涼川はそう言って、スマホの画面を見せた。
確かに、そこで会話をしていたのは紛れもない俺だった。
「まじじゃん…」
「…うん、本当にネッ友だったね」
彼女は言い終えると、可憐に笑って見せた。
まさか、ネッ友がクラスメイトだったとはな…それも割と陽キャな感じの人で…あぁ…俺は何を思えば良いんだ…
……………
昼間の静けさを引きずったまま、放課後の空気が流れ始めていた。部活動に勤しむ者たちの青春の音が耳に流れ込んでくるような、そんな時間だ。
あれからすぐにチャイムが鳴ってしまったため、その場は一旦解散となった。
だが、別れ際に涼川から「放課後またここで話したい」と言われてしまったため、放課後の現在、俺はまた先程の場所に来ている。
「あー、いたいた」
俺を見つけ安堵したのか、涼川は優しい表情を見せた。それから、人一人分ほどのスペースを空けて、俺の横に腰を下ろした。そして、ニコリとこちらに笑顔を向けている。
うん、やっぱりこの涼川が俺のネッ友だとは到底思えない…どう見ても陽キャ側の人間だし、実際に陽キャグループに属しているからな。
あと青春苦手ってのもまじかよ…そういうの大好きそうにしか見えないんだけど…
「…なんかめっちゃ元気…だな」
「えーそうかな?」
涼川は本当にわからないと言うように、首を横に傾げた。
「うん、超元気。なんなら元気超えてちょっとうるさいかもしれない」
「え……」
いやそんな悲しい表情しなくても…なんかすごい悪いことしちゃった気分だ。
「いや、ごめん。うるさいは冗談です…」
相手を悲しませる且つ、くそつまらないという最悪の冗談をかましてしまった…
やはり、コミュ障は調子乗るべからず。しっかりと肝に命じて反省しよう。
「それなら良かったけど…」
涼川はそう言いつつも、こちらに懐疑的な視線を向けている。
「…あ、ていうか、涼川って前に『自分は静かなタイプ』って言ってなかったっけ? 実際は陽キャ女子グループに属してるみたいだけど…」
俺は話題を変えようと、急いでそう尋ねてみた。
「…それはその…今は花川君に実際に会えて…その…嬉しいだけだから…テンション上がってて…普段はもっと静かだよ。私女子グループの中でも基本静かにしてるし…」
そう言葉を紡ぐ涼川の伏し目がちな表情に、うっかり視線を奪われてしまいそうになる。
「…な、なるほど…あんまり大人数で話すのは得意じゃないみたいな?」
「そう!私、中身は結構な陰キャだからね」
涼川は"待ってました"と言わんばかりに自信満々な表情でそう言い放った。
「いや、待ってくれ。涼川が陰キャって…そしたら俺は何になるんだ…暗黒物質?」
涼川の基準なら、もう俺陰キャの三つ下ぐらいにカテゴライズされちゃうんじゃね? なんならカテゴリー外も余裕だろ。
「え、いやいや、私も花川くんも同じ陰キャ同士だからね!」
涼川の顔が近づき、甘いシャンプーの香りがふんわりと漂う。
うん、近いとドキッとしちゃうから…やめてね?涼川のためにも。
「…そうか、まずは"陰キャとは何か"ってのを定義するところから始める必要がありそうだ」
「…え、私、ほんとに中身は陰キャだからね? 青春とか眩しいなーって感じちゃうし…人多いところ苦手だし…話すのも苦手だし…周りに流されやすいし…人の顔色伺ってばかりだし……だから、陰キャだよ!」
涼川は言い切ると、ふぅと息をついた。
こうも熱弁されると、こちらが折れてしまいそうになる…
「あーわかったよ…認めるよ…」
俺がそう言うと、涼川はパッと顔を明るくさせた。
まあ、確かによく見ると、涼川のメイクは他の女子に比べて薄い気がするし、制服を着崩している感じもない。まだ外観からでしか判断することは出来ないが、初めに抱いた印象よりは控えめな人なのかもしれないと考えた。
「それは良かった!あ、これからネッ友兼リア友としてよろしくね」
「おう…よろしく」
涼川の純粋無垢な笑顔に、少し怯んでしまいそうだった。
やっぱりネッ友の印象が現実でもそのままってわけじゃないんだなぁ…はっきり言ってネット上のイメージとは全然違った。
まあでも、俺もネットではちょっと陽キャになってるだろうし、人のこと言えないか。
そもそも、"表情も見えなければ仕草も見えない、唯一文字だけを頼りに相手を知ることが出来る" なんて状況でどうやって正確に相手の人物像を捉えられるのかって話か。
…でもなぁ…流石にここまで想像と違ってるとは思わねぇよ…
「あ、私が陰キャなことは他の人にはあんまり言わないでね…アニメ好きなこととかも…」
同時に見せた苦笑いが、脳裏に焼き付く。
その表情が物語った心情は、少し悲しげに思えた。
「あー、周りには言ってない感じなのか、まあ誰にも言わないよ」
そもそも言える相手がいないしな。頼まれても言えないから是非とも安心してくれ。まじ、セコムにも勝るセキュリティだからな?
「ごめん、ありがとう…私の周りの子はみんな明るい系だしアニメの話とかも全然しないから、そういうの知られたらやっぱり浮いちゃうかもなーって思うんだよね…」
少し俯きながらそう零した姿が、どことない寂しさを感じさせる。
クラスの立ち位置がどこにあろうと、きっと誰しも悩みを抱えているのだろう。
「まあ今の時代、アニメ趣味に寛容になってきてるから大丈夫なんじゃないかとは思うけど、周りからのイメージとかもあるもんな」
最初についたイメージを変えることは、やはり中々な勇気がいるものだ。
学校なんて同調圧力の塊みたいなもんだし。そんな中で、今更何かをガラッと変えるのは得策でないと、涼川も感じているのだろう。
「それだよ〜。新学期始まってもう一ヶ月も経ってるから結構イメージついちゃってると思ってさ…もう変えられないなーって。本当はもうちょっと落ち着いた子と一緒にいられたら嬉しいんだけど、最初の方に明るい系の子に話しかけられて…そのまま関わり続けてる感じ…」
俺から見ても、やはり涼川は陽キャのような雰囲気だ。優しい顔つきで、当たり障りのない印象。そしてコミュ力も人並みには高く、陽キャに属していないとおかしいまであるだろう。
「…なんか、今までも結構そんな感じだったんだっけ?」
ネット上で会話していた時も、涼川は同じようなことを言っていた。
クラスでは素を隠していると。
「うん、ずっと明るめの人と関わってるから全然素が出せてない……」
涼川は言いながら、前髪に軽く触れている。その手先に見えた迷いが、彼女の心理状態を表しているようだった。
「まあ無理してたらキツイわな。でもそれなら…」
"もういっそ、全部曝け出しちゃった方が楽なんじゃないか?"と言いかけたが、口を噤んだ。
他人が促すようなことではないし、涼川自身はそれが出来なくて悩んでいるのだから。
「…あーいや、なんでもない」
適当な口出しの鬱陶しさと意味の無さは、俺自身が一番わかっていることだ。
「そっ…か?」
涼川は少し不思議そうな表情をして見せたが、そのまま言葉を続けた。
「…まあでも、いつかは頑張って素を出せたら良いな。その方が楽なのはわかってるから」
「おー!そうだな」
涼川自身もそう思っていたなら少し安心だ。自分を周りに合わせようとしたところで何も生まれないからな。無理して組織に属せば閉塞感が取り巻き、不自由が増えるだけ。正直疲れるだろう。
俺自身、そんな考えをしているからこそ、こうしてぼっちをやってるわけだ。
まあ俺の場合は友達が"出来ない"という面が大きいだろうが。それでも、誰とも関わらないというのは、やはり自由で楽なのだ。無論、ぼっちでいれば楽ゆえに楽しくないけどな。
だから、もし俺の特性を認めてもらえる場所があるというのなら、俺はそこに行きたい。
そんな気持ちが、確かに存在している。
「…ちなみに、今のところ私が完全に素を出せる相手は、幼馴染の"藍咲"って子だけかな…」
「あ〜、そういえば幼馴染が一人いるって言ってたな」
「うん、その子は良くも悪くも正直で、それが居心地良くてね。一見冷めてる感じがするんだけど、優しいところもあって良い子だし。私と同じでアニメ好きだし共通点多くて、結構長い付き合いになるかな」
「なるほど…」
幼馴染について語る涼川は、先程と違って嬉しそうに見えた。
「…あ、一応だけど、藍咲は私達と同じクラスだからね…?」
小さく付け足された言葉は、優しい笑みで彩られる。
「え、まじかよ。全然知らなかったわ…」
クラスメイトの顔と名前全然一致してないからなぁ…
「何となくそうだと思った…今度紹介するね」
少し呆れた様子の笑いが、なんだか楽しそうだ。
「おー、オッケー。待ってるわ」
そう返すと、暫しの沈黙が生まれる。
あれ…なんかミスったかな…
と、不安になっていると、涼川はモゾッと言葉を発し始めた。
「…あ、あとさ…花川くんには割と素を出せてると思うよ…いま……だから、これからは学校でも仲良くしてくれる嬉しい…かも…」
少し考えた先の言葉は、ゆっくりと歩み寄りを図ろうとしていた。
俺と涼川のタイプは違えど、仮にもネット上では友達になれた同士。ならば、俺がそれを好意的に受け取っても良いだろう。
「おぉ、それはよかった。まあ俺も仲良く出来るならそれが良いと思ってるから…よろしく」
涼川は俺のその言葉を笑顔で受け取った。
「…ありがと!」
それからも俺達は会話を続け、気づけば、下校時刻が迫るような時間となっていた。
ネット上で既に関わっていたということもあり、初対面ながらも割と話し込んでしまったようだ。
「てかもう結構時間経ったよね…そろそろ帰る準備する?」
「あー、そうするか」
ここまで長く人と話したのは、多分初めてだろう。
だから、きっとそのせいだ。こうして少しの寂しさを感じてしまっているのは。
「うん、そうしよ。じゃあ私先行くね。また明日ね〜バイバイ」
涼川はそう言い残して、下の階の方へと消えていった。
"明日"があるのか…基本誰とも話さない俺にとっては、少し新鮮な響きだった。
…さて、俺も帰るか。
現在は春の夕刻、西日は目を突き刺すように差し込む。
だが、そんな眩しさの元を辿ると、朱に染められた美しい虚空が見えた。
気になる点や感想があれば是非教えて下さい!
批判でもなんでも大丈夫です!