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溺れるほど愛した百合の花  作者: 七色果実
【SEASON1】
9/20

9輪目【本当の物語は今此処から始まる】

 あたしの親友ひなは、ちょっとませた小学生だ。


 ひなとはオンラインゲームで知り合い、今ではSNSでも交友を深めている。


 いつものように一緒にオンラインゲームをしていると、今日は突然こんなことを言われた。


「ねぇ、わたしたち、知り合って結構経つじゃん? お互い住んでいるところも近いみたいだし、今度会ってみない?」


 そう言われて、嬉しい反面、正直ギクリとした。


 あたしはひなと会いたい。

 でも、今後も仲良くして行くなら、多分、会うのはやめた方が良い。


 ひなの思い描くあたしのイメージと、実際のあたしは違うから。


 あたしはやんわりとそれを伝えた。


 しかし、ひなは『わたしたち親友でしょ! どんなりんこでも受け入れるよ!』と怒り、結局会うことになってしまった。


          *


 そして、オフ会当日。


 お昼すぎの人通りが多い賑々しい駅前。


 ひなとの待ち合わせ場所は、駅前のダチ公像前になっている。


 あたしは事前に伝えておいたふりふりレースが特徴の、可愛らしいロリータファッションで、ひなの到着を待つ。


 ……しばらくして、目の前に同じロリータファッションの小さな女の子が現れた。


「もしかして、りんこ?」

「うん……。あなたはひな?」


 あたしが聞き返すと、ひなは大きく頷いた。


「一応初めまして、だね」


 そう言って笑うと、ひなは少し身長の高いあたしに、ぴょんと跳ねるように近付き、ハグをする。


 鼻孔をくすぐる甘い香りに当てられ、意識がフワっと浮きそうになるが、あたしも遅れてひなを抱き留めた。


「りんこ、わたしのイメージ通りだよ」

「そういうひなもあたしのイメージ通り」


 ひなの言ったイメージ通りという言葉に少しちくりとしながらも、お人形のような可愛らしいひなにあたしも同じ言葉を返した。


「今日はたくさん楽しもうね!」


 あたしの不安など掻き消すかのように、ひなの甲高い声があたしのハートを直撃する。


(アニメ声って言うのかな、こういうの。可愛い……)


「ん!」

「えっ、何?」

「……手!」


 小さな唇を結びながら、ぷくっと頬を膨らまして、手を差し出すひな。


「あっ、ごめん!」


 差し出された手を、あたしはギュッと握る。


「よし! じゃあ、行こう!」


 上機嫌なひなに先導されて、あたしは、今日を目一杯楽しもうと思うのだった。


          *


 すっかり日も暮れて、時刻は夕方になった頃。


「今日は楽しかった!」

「あたしもだよ」


 お互い満面の笑みで言葉を交わす。


「りんこ、また会おうね!」


 あたしは『もちろん』と言い掛け、口ごもる。


 もちろんあたしもまた会いたい。


 ……けど、


「……りんこ?」

「実はあたし、ひなに一つ嘘をついているの……」


 あたしの言葉に一瞬目を丸くするひなだったが、横に視線を外し、少し考えるような仕草をしたあと、ひなも口を開く。


「……実はわたしも」


 その言葉にあたしも吃驚する。


「じゃあ、いっせーのせで言おう!」


 今しかない。意を決してあたしたちは視線を合わす。


「実はあたしね……」

「実はわたしね……」




「「……アラサー、なの」」




 あたしたちは『えっ!?』となる。


「……ひな、小学生って言ってたのに」

「そういうあなただって、小学生って言ってたじゃない……」


 険悪なムードが流れるかと思いきや、しばらくして、あたしたち二人は、大きく笑い会う。


 そして、無言で頷き合った。


「わたしたち、本当の親友になれそうだね」


 どちらからともなく抱き締め合うと、あたしたちはおでこをコツンと合わせる。


「改めてよろしくね、ひな!」


 あたしは自分の嘘を告白出来たことより、ひなが小学生じゃないことに何故か嬉しさを感じていた。


 あたしたちの本当の物語は、今此処から始まる――。

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