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溺れるほど愛した百合の花  作者: 七色果実
【SEASON1】
3/20

3輪目【神様の祝雨】

「あなたが……好きです……」


 放課後。誰も居ない二人きりの教室で、突如緊迫した空気が流れる。


 目の前の友人――さくらこは、眼鏡越しの上目遣いで、あーしの返答を待つ。


 先に言っておくが、あーしはノンケだ。

 過去一度たりとも、同性を好きになったことはない。


 だから、さくらこに告白されたのは、正直かなり驚いてしまった。


 つい先ほどまで他愛のない会話をしていた、和やかな雰囲気はどこへやら。


 あーしは言葉に詰まって、その場で沈黙してしまう。


 さくらことは今後とも仲良くして行きたい。

 しかし、告白された身の上とあっては、そうも言っていられないかもしれない。


「わたしじゃ、駄目……かな……?」


 さくらこは上目遣いのまま、黙ってじっとあーしの目を見てくる。


「えっと、その……」


 あーしはさくらこのことが好きだ。


 何なら親友と思っているし、家族同然の仲だとも思っている。


 しかし、恋愛対象として見たことはない。


「……さくらこ、あのさ」


 あーしの言葉を避けるように視線を外すさくらこ。


 その目に溜まった涙を見て、あーしは一瞬言葉に詰まる。


 さくらこのこんな表情を見るのは辛い。


 しかし、正直に話してくれた気持ちに、あーしはちゃんと応えなければいけない。


「ごめんな……。お前の気持ちはありがたいけど、あーしの恋愛対象は……」

「……男の子なんでしょ?」

「それが分かってて告白してきたのか……」


 あーしは当惑したように大きく溜め息を吐いた。


「ねぇ、ともみちゃん。あなたがわたしに言ってくれた言葉を覚えてる?」

「なんだっけ?」

「あなたはね、わたしにこう言ってくれたの」


 ひと呼吸置いて、さくらこがゆっくりと口を開く。


「〝好きな気持ちは止まらないし、止めなくてもいい〟って――」


 ――言った。

 あーしは確かにそれを言った。


 が、まさか好意を抱かれているのが自分とは思いもしなかった。


「ともみちゃんはこうも言ってくれたよ」


〝たとえ手の届かない相手を好きになったとしても、好きな気持ちから目を背けてしまっては駄目だ。どんな時でも自分の気持ちには正直でいた方が良い〟

 

 ――って。


 さくらこはさらに続ける。


「ともみちゃんは何気なく言った言葉だったかもしれない。でも、あの時の言葉にわたしは、本当に心の底から救われたんだよ」


 さくらこは指で涙を拭うと、朗らかに笑った。


「……今日のことは忘れて。これからも友達としてよろしくね」


 ――沈黙。


 沈黙――。


 あーしは何も言わず、さくらこをぎゅっと抱き締める。


「……あーしたちさ、学校では凸凹コンビって言われてるじゃん?」

「うん。言われてるね。ギャルのともみに、地味子のさくらこだっけ」

「あーし、見た目が派手だからさ、お前と知り合う前は友達がいなかったんだ。でも、お前と友達になってからは毎日が楽しくてさ、学校での生活も悪くはないなって思うようになったんだ」

「……わたしも、ともみちゃんと知り合う前はいつも一人ぼっちだったよ」

「あーしたちってさ、似た者同士だよな」


 二人でくすくすと笑い合う。


「――なぁ、さくらこはさ、あーしのどこが好きになったの?」


 正直、それに至っては本当に分からない。


 女が女を好きになる。

 それはちょっと特別なことだと思っている。


 前にどこかで聞いた。

 女と女の恋愛は情熱的だと。


 あーしは思い切って、さくらこに尋ねてみる。


「そんなの決まってるよ」


 時が止まったかのような静寂の中、さくらこがあーしの耳元でそっと囁く。


「――――――だよ」

「えっ!?」


 雨音が聞こえる。

 しとしとと心地良い音。


 あーしの心臓はとくんとくんと大きく高鳴っていた。


 ――何時だったか。

 どこかでこんな話を聞いた――。


 ――雨とは、

 神さまの祝福を示してくれているのだと――。


 それならば、

 あーしの心は――、


 〝既にもう決まっている〟

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