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溺れるほど愛した百合の花  作者: 七色果実
【SEASON2】
18/20

18輪目【陰と陽】

「「……あっ!」」


 それはまったくの同時だった――。


 今日は新刊漫画の発売日。

 あたしは巷で話題の超過激なガールズ・ラブ漫画を買うのを楽しみにしていた。


(今日この時を一日千秋の思いで待っていたわ。早く本屋に行って、漫画を買わないと)


 大急ぎで行きつけの本屋に行くと、一目散に新刊漫画コーナーに向かう。

 そして、お目当ての漫画を見付けると、平台に一冊しか置かれていないことに気付く。


(……残り一冊! ギリギリだったようね……!)


 あたしは驚いた様子で、すぐさま漫画に手を伸ばす。

 が、焦っていた為、この時のあたしは、周りの人が見えていなかった。


「「……あっ!」」

 それはまったくの同時だった――。


 ふと声がした方を見ると、そこには、クラスの陽キャ女子たかぎがいた。


 たかぎはあたしのお目当ての漫画を手に取ろうとしている。


 しばらくのあいだ二人して固まっていると、漫画は別の人に持ち去らわれてしまった。


「……あんたのせいだかんな」


 たかぎがあたしを睨みながら、恨み言を言う。

 そんなたかぎにあたしは腹が立ち、『学校で言いふらしてやるから』と言った。


 顔面蒼白という言葉があるが、今のたかぎはまさにそれだった。


「い、言いふらしてやるって、な、何を?」

「あなたが超過激なガールズ・ラブ漫画を好んでいるってことをよ」


 ニヤニヤと挑発的に笑っていると、たかぎは顔を真っ赤にして、『あんたのことだって言ってやるから』と言った。


「お好きにどうぞ。どうせあたしは陰キャだし、そんなの大して堪えないわ」


 今にも泣きそうなたかぎの顔を見て、あたしはぷぷぷと声に出して笑った。


「……お願いだ。ガールズ・ラブ漫画のことはみんなに言わないでくれ……」


 小さな声でぼそりと、たかぎはあたしに懇願する。

 上目遣い調のその仕草に、あたしは不覚にも少しきゅんとしてしまった。


「とりあえず、此処だとみんなの邪魔になるから、外に出ましょう」


 そして、そのまま近くの公園へと行った。

 公園はきちんと整備され、それなりに遊具もあり、中々の広さだったが、人気がなく、あたしたち二人しかいない。


「こ、こんなところに来て、いったい何をするつもりだ?」


 ひどく怯えた表情でたかぎが言う。

 あたしはベンチを指差し、あそこに座ろうという。


「……あんた何が目的? もしかして、わたしの身体を狙っているんじゃ!?」


 それはそれで面白そうだが、それよりもあたしは欲しいものがある。


「あなた、ガールズ・ラブ漫画が好きなの?」

「えっ!?」


 たかぎはキョトンとした顔になる。


「だ・か・ら! ガールズ・ラブ漫画が好きなのかって聞いてるの!」

「す、好きだけど、それがどうしたんだよ?」

「ふーん」


 じっとりとした目でたかぎを見つめる。


 今まであたしの周りにガールズ・ラブ漫画を好きな子はいなかった。


 正直に言って、たかぎに興味がある。


「な、何だよ、何か文句でもあるのか?」

「別にない」


 あたしはふんっとそっぽを向く。


 ……言いたいことが中々言い出せない。

 ただ素直に『友達になって』と言えばいいだけなのに……。


「何か言いたそうにしてるけど、エッチなことは御免だからな!」

「ば、馬鹿言わないで! 最初からそんなの興味ないわ!」

「じゃあ、何だってんだよ」


 両腕を組みながら、たかぎが首を傾げる。


「……あのさ」

「?」


 大きく息を吸って、その先を口にする。


「あたしと友達になってくれない?」

「は?」


 いったい何を言っているんだ、こいつは……。


 そんな表情でたかぎは、あたしを訝しげに見る。


「……友達になってくれなきゃ、学校のみんなに言いふらしてやるから」


 黙ったままのたかぎにあたしは怒ったように言う。


 さらに続けて、


「いい? これは、命令よ」


 と言った。


「わ、分かったよ」


 ぶつぶつと文句を言いながら、たかぎは渋々とあたしに手を差し出す。


「……わたし、たかぎ・あずさ。よろしくな」

「ほさか・おとはよ。こちらこそよろしく」


 差し出された手をあたしはギュッと握り締めた。


 陰キャなあたしと、陽キャなたかぎ。


 似ても似つかないあたしたちだが、これからあたしたちは、ガールズ・ラブ・ストーリーを繰り広げることになる。


 そして、近い将来、あたしたちはお互いをパートナーに選ぶのだが、この時のあたしたちは、まだそのことを知らない。

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