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溺れるほど愛した百合の花  作者: 七色果実
【SEASON2】
15/20

15輪目【いつかは全てが思い出に・・・】

「……好き」


 唇に唇を重ねながら、あたしは、実の妹のあいりと手を繋ぐ。


 あたしとあいりは双子の姉妹だ。


 何時からだったか。

 最初のきっかけがもう思い出せないが、生まれてから常に一緒だったあたしたちは、気付けばお互いの存在を求めるようになっていた。


 今はあたしの部屋で、秘密の情愛を交わし合っている。

 あたしたちはおでこをこつんと合わせると、どちらからともなく小さく口を開いた。


「「……ねぇ」」


 あたしはぷっと吹き出す。


「被っちゃったじゃない。言いたいことがあるのなら、あいりからどうぞ」


 どこか楽観的なあたしの喋りとは打って変わって、重々しい表情で、あいりがゆっくりと口を開く。


「あのね」

「うん」

「……わたしたち、このままずっと変わらずにいられるのかな」


 不安そうにそう呟くと、あいりは伏し目がちに俯いた。


「やっぱりあたしたち双子よね」

「えっ?」

「以心伝心ってやつよ。あたしも今、それを思ってた」


 あたしはあいりの腰に手を回す。

 それに倣い、あいりもあたしの腰に手を回してきた。


「……このままさ、歳を取ったら、わたしたちの気持ちってどうなるのかな?」


 今にも消え入りそうなか細い声であいりは言った。


 あたしにも先のことは分からない。

 が、正直に言って、あたしたちの関係は長くは続かないだろう。

 あたしたちがいくらお互いを愛し合っていても、世間がそれを許してくれることはないからだ。


「……わたし、あいなのことが好き。大好き。だから、この気持ちがいつか消えて無くなってしまうかもしれないのが凄く怖い……」


 大きく声を震わせながら、あいりは泣き出してしまった。


「あいり」


 ぎゅっと。あいりをぎゅっと抱き締める。


「あたしたちのこの気持ちが、ずっと消えて無くならない方法、あたし知ってるよ」

「……えっ?」


 あいりが驚いた表情になる。


「どうすればいいの?」


 あたしはベッドから立ち上がると、机の上からカッターナイフを手に取った。


「ちょっと怖いかもしれないけど、これで互いに互いを刻み込むのよ」


 沈黙。あいりは少々ぎょっとしていた。


 しかし、しばらくして、『やろう!』と声を大にして言った。


「じゃあ、まずは言い出しっぺのあたしから……」


          *


 あたしとあいりの腕から血が滴り落ちている。


 儀式は無事終わった。


「ちょっとしか切ってないのに、結構痛いね……」

「でも、これであたしとあいりの絆は、この先もずっとずっと続くわ」


 傷付いた腕をお互いに舐め合う。 


「あいな」

「あいり」


 〝永遠に愛してる〟


          *


 窓から差し込む西日が少し眩しい。

 ふと我に返ると、時刻は十六時を回っていた。


 あたしとれなは、二人きりのリビングで、漫画を読んでいた。


「……みくお姉ちゃん、なんか凄い漫画だったね」


 あまりに衝撃的な内容だった為、れなは読み終わったあとも呆然としている。


「れなにはちょっと刺激的だったわね」


 あたしはれなを抱擁する。


「でもでもっ! わたしもみくお姉ちゃんのことが好きだから、あの子たちの気持ち、何となく分かるよっ!」


 れなは興奮気味にあたしの手から離れる。


「……わたしも、あの子たちと同じことがしたいっ!」

「同じことって?」

「お互いにお互いを刻み込むってやつ!」


 あたしはれなの頭を撫でながら、ふふっと笑みをこぼす。


「どうしたの?」

「そんなことしなくても、あたしたちは大丈夫よ」

「なんで?」

「……もしも、この特別な気持ちが消えて無くなったとしても、それはあたしたちが大人になったってこと。ただそれだけのことなのよ」


 一呼吸置いて、あたしはこうも言った。 


「それに、たとえ大人になったとしても、あたしたちのこの思い出は一生消えない。れなにはまだ分からないかもしれないけど、思い出はあたしたちの中で永遠に輝き続けるの。だから、きっとあたしたちは大丈夫」

「う~ん、れなには難しくて、よく分からないや」

「分かりやすく言うと、二人きりの日々を大切に過ごそうって意味だよ」

「それなら分かるよっ!」


 あたしとれなはじっと見つめ合うと、堪え切れなくなったかのようにぷっと大きく笑った。


「みくお姉ちゃん大好きだよっ!」

「あたしもだよ」


 ――きっと、いつかは別れの時が来る。

 その時の為に、今は思い出をたくさん積み重ねよう――。

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