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溺れるほど愛した百合の花  作者: 木子の字
【SEASON2】
11/20

11輪目【二人の為の言葉】

 小学校での一日の授業が終わったその日の放課後。

 急な雨に降られたわたしたちは、通学路にある公園の東屋あずまやで雨宿りをしていた。


「……雨、やまないねぇ」


 隣にいるえまちゃんが、雨空を見ながら、気怠げにぼんやりと呟く。


「あおいちゃん、そこのベンチに座ろうよ」

「……うん」


 わたしはえまちゃんに促され、すぐ近くに置いてある木製ベンチへと腰掛ける。

 続いて、えまちゃんもゆっくりとベンチに腰掛けた。


「はい、詰めて詰めて」


 笑いながらそう言うと、えまちゃんは、ピッタリとわたしの身体に密着する。


「え、えまちゃん……、ちょっと暑苦しくない……?」

「そう? あたしはあおいちゃんとくっ付けて嬉しいけど」


 えまちゃんはわたしに対して、いつも距離感がおかしい。

 そして、そんなえまちゃんに、わたしはいつもドキドキしている。


「……あたし、あおいちゃんと一緒にいると、なんか胸の奥がきゅ~っと熱くなるんだよね」


 ほんのりと頬を赤らめながら、えまちゃんがぽつりと呟いた。

 わたしはえまちゃんの顔をまじまじと見てしまう。


「何なんだろうね、この気持ち」


 小首を傾げながら、えまちゃんは小さく笑った。


「……わたしも」

「えっ?」

「わたしもえまちゃんと一緒にいると、胸がドキドキして変な感じがする……」


 目線を下に向けながら、自分の胸に手を当てると、心臓の鼓動がとくんとくんと大きく高鳴っていた。


 わたしはえまちゃんと見つめ合う。


「――ねぇ」


 しばらくのあいだ、黙って見つめ合っていると、えまちゃんが口を開いた。


「手を繋いでみようか」


 わたしは『えっ』と驚きの声を上げた。


 えまちゃんと手を繋いだことは、今までに一度もなかった。


 だから、正直に言うと、ちょっと恥ずかしい。


 ――でも、このドキドキが何なのか分かるのなら。


 わたしはえまちゃんと手を繋いだ。


「……あおいちゃんの手、温かくて気持ちいいね」

「えまちゃんの手もだよ……」

「あたしたち」

「ん?」

「もしかしたら、お互いに『好き』、なのかもね」


 ぽつぽつと心地良い雨音が聞こえる。


 えまちゃんの不意な発言に、わたしの顔は真っ赤になった。


 だとしたら、わたしにとって、えまちゃんが初恋の人だ。


「えまちゃん」

「どうしたの?」

「わたしたち、将来結婚しようね」


 唐突にプロポーズしたわたしに対して、えまちゃんは、困ったように苦笑いを浮かべた。


「未来のことは誰にも分からないよ」

「じゃあ、約束をしよう」


 わたしはえまちゃんに小指を差し出す。

 それに倣い、えまちゃんも小指を差し出してきた。


「――大人になってもずっと一緒にいようね。約束だよ」


 ふと気付くと、雨音は勢いを増していた。


          *


 ゆっくりと目を開ける。


「……ここは」


 寝ぼけ眼を擦りながら、わたしは周囲を見回す。

 きれいに整理整頓された六畳ほどのその部屋は、住み始めてからまだ間もないわたしの部屋だ。


「喉が渇いたな……」


 わたしは冷たいお茶を飲みに、冷蔵庫があるキッチンへと向かう。


 ――あれから、十年以上の時が経った。

 えまちゃんはわたしを置いて遠くに行ってしまった。


 今、この家に居るのはわたし一人だけである。

 冷蔵庫の前に立つと、中から一本のペットボトルを取り出す。


 ペットボトルの中身は、先ほども触れたように、よく冷えた只のお茶だ。

 わたしはそのお茶を一口だけ飲むと、それから、ほうと大きく息をついた。


「……嘘つき」


 遠くのえまちゃんに向けて、ぼそりと悪態をつく。

 その日の夜、わたしは大量のやけ酒をあおった。


          *


『――あおいちゃん』


 どこかでえまちゃんの声が聞こえる。


『あおいちゃん――』


 なんかえまちゃんがすぐ目の前に居るような……。


「あおいちゃん!!」


 突如、耳の奥がキーンとして、重たいまぶたをやっとこさっとこ開けると、目の前にはえまちゃんがいた。


「あぁ~、えまちゃんだぁ~。もう帰って来たの~? おかえり~」


 〝あれから〟、大人になったわたしたちは、長年住み慣れた地元を離れ、二人で上京していた。


 今は少し都心から離れた町で、2LDKのアパートを借りて、二人仲良く同棲を始めている。


「もう酒くさいなぁ! いったいどれだけ呑んでるのよ!」


 えまちゃんは今日、友達の結婚式に出席していて、今の今まで家を留守にしていた。


 わたしはそれで家に一人ぼっちになり、その寂しさのあまり、大量のやけ酒をあおることになったわけだ。


「えへへへ……」

「……まったく! ちょっと目を離すとすぐ吞んだくれるんだから!」

「……だって、寂しかったんだもん……」

「そんなのあおいちゃんだけじゃないわよ! あたしだって……!」


 わたしたちは抱き締め合う。


「……えへへ、えまちゃん温かい」

「ねぇ、お土産をたくさん買ってきたから、今から一緒に食べない?」

「食べる食べる~!」


 わたしとえまちゃんは、大人になってもずっと一緒。多分、死ぬまでずっと一緒。


 ――永遠。

 それはきっと、わたしたちの為にある言葉なのだ――。

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