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溺れるほど愛した百合の花  作者: 木子 すもも
【SEASON1】
10/20

10輪目【さよならは言わない】

 たとえこの先、あなたがわたしのことを忘れたとしても――。


 わたしはあなたと過ごしたこの時を忘れないから。


 あなたのくれた優しさを忘れないから。


  ――願わくは、


 〝此処でまたあなたと出会えますように〟


           *


 わたしは内向的な性格で、昔から一人で居ることが好きだ。

 今も町外れにある、誰も居ない小さな神社の境内で、のんびりと一人で携帯ゲームをしている。


(あー、新作のポキモン、めっちゃ面白いな)


 神社は山地の森の中にあり、普段から人が居ることは滅多にない。


 ――聖域。


 名前も知らない神社だが、わたしは其処を〝聖域〟と呼んでいた。


(家でゲームをしていると、お母さんが勉強しろ勉強しろってうるさいからな。此処は本当に天国だよ)


 わたしがゲームに没頭していると、ふと視界が陰った。


「んん!?」


 顔を上げたわたしは、突然のことに驚いて、思わず声が出てしまう。


 目の前にはわたしと同い歳くらいの女の子が居て、黙ってわたしを見下ろしていた。


「……それ、ポキモンの新作?」

「そ、そうだよ」

「あたし、まだ買って貰ってないの……。横でやってるのを見ていてもいい?」

「い、いいよ」


 わたしの返答に笑顔を見せた女の子は、わたしの横にちょこんと座る。


(ここら辺で見たことない子だけど、どこの子だろう……)


 わたしは疑問に思いながらもゲームを続けた。


          *


 しばらくして、わたしは口を開く。


「……ずっと見ていても退屈じゃない? 良かったらやってみる?」

「えっ! いいの?」

「いいよ。かわりばんこでやろう」

「ありがとう! 嬉しいな!」


 女の子は朗らかに笑う。それを見て、わたしも思わず笑みがこぼれた。


 それからどれくらいの時間が経っただろう。


 気付くと、ゲーム機のバッテリーはもう切れる寸前で、空はきれいな茜色に染まっていた。


「……もう帰る時間だね」


 わたしがポツリと、別れを惜しむように言う。

 それは自分でも思ってもいなかった悲しそうな声だった。


「今日はありがとう。とても楽しかった」


 女の子も別れを惜しむような顔をする。


「今度は、ポキモンバトルしようね!」


 わたしがそう言うと、女の子は儚げな声でこう言った。


「今回はたまたま此処へやって来たの……。だから、次また此処に来れるかは分からない……」

「……そうなんだ」


 がっくりと肩を落とすわたしに、女の子は優しくハグをしてきた。


 女の子から伝わる温かさに寂しさを感じるわたし。


 たった数時間ゲームをしただけ、ただそれだけのことかもしれないが、この偶然の出会いがわたしにとっては思った以上に大切な時間になっていた。


「いつかまた此処に来られることがあれば会いに来てね。わたしは此処にいるから」


 わたしも女の子にハグをする。


 そして、どちらからともなく小指を出すと、互いに笑い合いながら、わたしたちは指切りを交わした。


「「いつかまた此処で……!」」


 この時、初めて会った名前も知らない女の子に、わたしの胸は大きく拍動していた。


          *


 それから幾星霜、その時の女の子と再開する機会はまだ訪れていない。


 人は人を忘れる。

 でも、約束がある限り、いつか思い出すこともあるだろう。


 きっとまた会える。

 わたしはそう信じている。


 ――名前も知らぬあなたへ。

 あなたの人生に幸多からんことを――。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


物語は、SEASON2へと続きます。


もし、よろしければ、どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。

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