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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
閑話 メイド喫茶『とらんす♂』

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第73話 閑話 メイド喫茶『とらんす♂』5

「そうだ! 一応新しいメイドさんって事だから、写真上げちゃいましょ」


 信世にキッチンの説明や接客した時の対応方法を教え終わった店長がそう提案する。


「写真……ですか? それってチェキみたいな販売用の事ですか」

「それは注文があった後にするから事前に準備はしてないわ。SNS投稿用の写真よ」

「ボクの時もやったやつだ~」


 ここのお店では二種類のSNSを使っている。動画メインと、写真や文章メインで大雑把に仕分けしていて、たまに踊ってみたとかも投稿してはそこそこ反応を貰っている。

 フォロワーは1万に届いていないここら辺の地域のコンカフェとしては普通くらいの公式アカウントで、新しいメイドさんが入る度に告知をしているのだ。

 反応してくれるのは基本的に常連のお客さんばかりだけど、何分このお店のメイドさんは店長の好みに刺さった限りある人間しか採用されないので、新規のメイドさんの投稿した時は新規のフォロワーや新規のお客さんが爆増したりする。

 普通はクオリティが高いメイドさんが新しく入ったとしてもお客さんが爆増するなんてたまにある位のはずだけど、これにはちょっとした理由がある。


 簡単な話、競合のお店が無い。

 僕達が住む福岡県にはコンカフェ自体はそこそこあるけれど、女装喫茶という物が皆無と言って良い程無い。せいぜいハッテン場みたいな所があるだけ。

 競合が無い上にクオリティもかなり高い。そうなれば当然人気も出やすい。しかも採用担当の店長の趣味が良いとなれば新しいメイドさんで大きく盛り上がるのは当然だね。

 でも、信世に写真なんて大丈夫なのだろうか。

 信世は見た目こそはかなり良い人間で、通常時はイケメン、女装している現在は美女の見た目になってるけど、ボクが居ない時は常に表情が固まっている。緊張して動かないのではなくて、単に表情筋が動いていないのだ。

 要するに真顔。学校行事等で撮られる写真の大半は思考が読めない無の表情をしている。

 撮影者が「笑って」と言うので口だけが笑っているから余計に怖い。

 そんな写真映りが悪い信世にSNS投稿用写真の被写体なんて務まるだろうか……。


「じゃ、なんか可愛いポーズしちゃって~」

「SNSで見たやつの真似で良いですか?」

「もちろんよっ」

「わかりました」


 急な無茶振りにも上手く対応してどこかで見た事あるようなあざといポーズと表情を作る信世。

 その可愛いポーズはどこで見たのだろうか。

 なにせ信世はあまりSNSを見ない。ボクや穂希くん関連のアカウントとゲームの公式アカウントくらいしかフォローしていないから、仮に見ていてもこういう可愛いポーズの写真なんて一切見ないはずだし……。


「みもりん可愛いわよ~。そのポーズ可愛いわねぇ。でもちょっと妖艶な感じに! 誘ってる感じの表情とか出来る? アッそう! 良いわ! とてもスケ……エッチな表情でとても良いわ!!」

「ポーズの引き出し多いね!? そういうのどこで見つけるのさ」


 次々飛んで来る店長の要求に完璧に応える信世の見た事無い引き出しの多さについ口出ししてしまう。


「紡祇が動画で見てるやつで覚えた」

「よく覚えてたね……」


 たしかにゴロゴロしてる時によくそういう可愛いポーズしてるコンカフェで働く人の動画とか見てるし、信世は後ろから覗き見してたりとかは度々ある。けれど、信世はそういう可愛い女の子とか女キャラクターとかには一切興味無い人だから覚えてないかと思っていた。

 精々男の娘か女装男子が対象だと思ってたんだけどな……だって前からやってるゲームで使うキャラクターそういうのばっかだし。


「ふぃぃ……満足。じゃ、ネットに上げちゃうわよ」

「分かりました。あとで私からも確認しておきます」

「ボクのお仕事用アカウントも教えとこうか?」


「それはもう見つけてある」

「いつのまにっっ!!?」


 さっとスマホからお仕事用アカウントを確認すると…………通知欄には初期アイコンでプロフをほとんど弄っていない信世のアカウントからフォローされていると書いてあった。

 ボクのお仕事用アカウントはファン向けに媚びた雰囲気の写真や動画を投稿している。信世に見られていないと思ってやっていたから、文字だけではあるもののお仕事仲間とイチャイチャしている投稿がかなりある。

 今はコンカフェのお仕事をする立場にさせられてるから理解してくれるだろうなと思って教えようと思ったけど、前から知ってたなら……あの色んな投稿を見た上で素知らぬ顔で接してたって事!?

 ボクが甘えたりした時は「SNSであーいう投稿してるしな。演技だろ」みたいな目で見られてたって事なんじゃっ!!


「どどどどうやって見つけたの? 前から知ってたの!?」

「入口とかメニュー表にSNSアカウントのリンク貼ってるだろ」

「あ……たしかに」


 そう言われてメニュー表に書いてある公式アカウントの紹介ページを思い出す。

 あのQRコードから公式アカウントを見つけて、フォロー欄からボクの自撮りアイコンを探した訳か。


「紡祇の仕事用アカウントも今さっき見つけた。なんか気にしてるみたいだが心配すんな」

「うん…………分かった。ありがと」


 良かった。前から知ってる訳じゃなかったんだ。

 いつも通りの真顔に近い表情を見てちょっと安心する。

 そもそも信世がこのお店の存在を知らないのにボクのお仕事用アカウントを見つける訳ないじゃないか。あの信世だよ。他人に向けての興味関心がすっごい薄くて、SNSのプロフィールなんてほとんど初期状態で誰かのサブ垢にしか見えない状態でたまにアプリ開いてるだけの人だよ。

 信世のアカウントがあんまりにも何も無さ過ぎて本垢があるんじゃないかって疑って探してたボクじゃあるまいし。

 余計な心配だった。


「おおーーいいねとリプがいつもよりも多いわね。やっぱり美人さんだと常連さん以外にも受けが良いのかしら」


 手に持ったスマホで先程上げた新人メイドの写真の反応を見て大喜びの店長。

 何気に信世みたいなタイプのメイドさんはこのお店に居なかったから、新鮮味があって常連さん以外にもそこそこ良い反応が来たのだろう。

 自分のスマホでも公式アカウントの投稿を確認して引用リツイートでちょっとしたコメントを残す。

 投稿元の詳細を見てみたら確かにボクが新人メイドとして投稿された時よりも反応が良い。やはり美人で包容力がありそうな人は受け良いんだろうか。それとも偶然そういう趣味の人が多かったのだろうか。

 どっちにしても、この反応数なら今日は忙しくなりそうだ。

 スマホの画面を閉じる前に時間を確認して開店時間までどのくらい猶予があるか確認する…………ってもうあと数分じゃんか!?


「店長! もうそろそろで開店時間になりますよ!」

「マズイわね! 時間忘れてたわ」


 信世が「コイツ大丈夫か?」と言いたげな冷たい目線を店長に送る。

 見た目は可愛くても中身はしっかりいつも通りの信世である。


「それじゃあお店開けるわよ。みんなで今日一日を乗り切りましょ!」

「らじゃ!」

「了解しました」


「みもりん言葉硬いわよ」

「了解しました♪」

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