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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
メイド喫茶『とらんす♂』

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第62話 閑話 メイド喫茶『とらんす♂』2

~~~~~~

 死んだ表情の店長から今さっき何が起きたのか詳しく聞かせてもらった。


 どうも今日出勤予定の「マオ」さんと「ヒカリ」さんの二人が一緒に熱を出してしまったらしい。二人共の体温は39度越え。今から頑張って病院に行って診断してもらうみたいだけど、さすがにこの体調で出勤させられないと店長が休みを取らせたみたい。


 代わりに来れる人が居ないか在籍している残りの店員計3人に連絡を取ってみたけど、ライブに行っている真っ只中だったり、県外に行っていたり、個人で開いているゲームの大会に出ていてすぐに戻れそうになかったりで、来れそうな人が居ないらしい。


「そうなんですか…………」

「そうなのよ……どうしましょう…………閉める訳にもいかないし……でも二人でやるにはむぎちゃんの負担が大きすぎるし……」


 そこそこ人が入る店というのもあって二人だけで回すのはかなり厳しい。店長はともかくボクはまだ一カ月も経っていない新人なのでしっかり回せるかは正直かなり不安しかない。

 いっそ今日は閉めちゃえばと言えれば良いんだけど、まだ何も知らないボクが言うのもおこがましい。こういう判断は店長にしてもらう他無い。


 とはいえ……綺麗な解決策見つかる気配もない。店長もどうしようかと若干パニックになっていて精神状態も危うげだ。

 パニックになった人の頭は理性的な思考が難しくなってしまう。かと言ってボクがどうにか出来るような事もない。


「人さえ居ればどうにか……でもそんな人なんて……」

 あーでもないこーでもないと似たような事をループしてぼそぼそ言う店長。

 今一番必要なのは店員の数なのだろうか。店長が真っ先に人さえ居ればとは言っているから多分そうなのだろうけれど、そういう人の当ては全員当たった後みたいだし……。


 ボクに出来る事__というよりボクの知り合いにはメイド喫茶で働けそうな可愛い男の子の知り合いは二人程居るけれど二人共あまり器用な方じゃないし、こういう接客がメインのお仕事に慣れていない人を紹介しても負担になるだけだ。


 女装が似合いそうで接客が得意な人。片手で数えれる男友達を一人ずつ挙げてみるけれど誰一人として両方が該当する人なんていない。そもそも女装が似合う時点でハードルが高いんだ。

 女装がよく似合うであろう裕太と穂希の内、裕太は接客が苦手。穂希くんはこの時間は未来ちゃんの病院に行っているから呼ぶ訳にはいかない。翔流は接客が出来そうだけど見た目が屈強過ぎるから論外だ。


 残りは信世……信世なら何でもすぐに出来る人だから接客もキッチンの仕事も即座に人並み以上に仕上げてくれるはず。信世の予定については日雇いのアルバイトに行っていないなら基本暇だから多分大丈夫だけど……。


 女装が似合うかどうかが問題だ。


 でもなぁ……信世の家からここまで一時間くらい掛かるんだよな……。

 ふと窓越しに店の外を見る。

 こういうボクが困った時、信世は異常な頻度で近くを歩いてたりする。


 強引なナンパに会った時は何故か確実に近くを通り過ぎていて守ってくれる。昔虐められていた時もそういう現場になりそうになった瞬間にすぐそこに信世が歩いているのだ。

 そして助けてくれた後に必ず言う事が「なんか嫌な予感がしたから」だ。


 人が助けてくれるのを当てにするのは失礼だけど、こうも高頻度で超精確に助けて欲しい時に近くを歩いているんだ。もしかしたら今回も信世が偶然「嫌な予感」がして普段信世が歩かないようなこういう場所を歩いている可能性も無くはない。

 そんな淡い希望を持って、悩んで不安定そうな店長を横目に窓の外を見る。

 もうそろそろ昼になるのもあって店の前の往来では人が沢山歩いている。そこを歩く人の姿はオタクみたくキャラクター物のアイテムをどこかしら身に付けていたり、グッズを買った後みたいな荷物を持っている人が多い。


 そんな中、妙に身軽そうな人が一人、歩いていた。


 そういう人がこういう所を歩くのは別に珍しくはない。


 でも、その顔に、その服装に、強く惹かれてしまった。


 よく見覚えのある姿。


 その人物が唐突に、気まぐれにこちらを__この店の窓を見る。


「え……」


 ボクがそうやって声を漏らすのと同時に窓の向こうの人もこちらの姿に気付く。


 ギョッとした表情をしてスマホを急いで取り出して耳に当てる。


 それと同時にボクのスマホから着信音が鳴る。


「ちょ、ちょっと電話しますっ!」


 反応が帰って来ない店長に一言言ってスマホの画面を確認する。

 電話の『深森 信世』から。

 店の外で立っている人の名前だ。

 外の人と同じようにスマホを耳に当てて電話に出る。

「なっ、なんでここに居るの!?」

『こっちのセリフだ。バイトしてるとは聞いていたがメイド喫茶に行ってたのか』


 驚いている風の声色だけどどこか落ち着いた感じで。この声がボクは好きなのだけど今はそれはどうでも良い。

 まさか期待通りに来るとは思わなかった。


「そんなのどうでも良いから! 今入口開けるから入ってきて!」

『……なんかあったみたいだな。分かった行こう』


 物分かりが良過ぎて少し怖い信世からの電話を切って急いで入口を空ける。


 外の風はまだ少しだけ寒い。その空気を入れないように信世をさっさと店内に入れて項垂れてぼそぼそ言っている店長に「店長! お洋服とウィッグ借りますね!!!」とだけ言って信世を化粧室に連れて行く。


「なんか店長さんヤバそうだな……」

「うん……ちょっとメンタルヤバめみたいだから信世に手伝ってほしいの」

「分かった。俺に出来る事ならやろう」

 特に理由を聞かずに手伝ってくれる親友に感謝しつつさっさと準備をする。


 店長のロッカーから予備のメイド服とロングのウィッグを一つずつ、ボクのロッカーからメイク道具一式を持って化粧室に戻って信世にメイド服とロングのウィッグを渡す。


「これ着て」

「ほう……」

 急ぎ気味で渡されたメイド服とウィッグを受け取って一度服を広げてどういう物かを把握する。


「ほう…………?」

 ここまで来てようやく理解し始めたみたいだ。困惑しながらも現状を一つ一つ頭の中で整理するようにあっちこっちに目を動かして考え始める。


「なるほど……なるほどね…………マジで言ってる?」

「うん。マジで」


「いやでも女装はマズいだろ。紡祇はともかくさ」

「このお店、店長含めて店員全員男だから」

「そっかぁ……」

 空を仰いで先程までのキリっとした目付きがなくなった信世。


「逃げ場……無くなっちまったなぁ……」

「ドンマイ。それとありがとう」

 逃げれるなら逃げようとしていたみたいだけど、そういう時間すらも与えずにここまで来させた甲斐があった。


 ボクが今からやろうとしている事。それは人員の補充。


 少し見れば大体何でも出来るとてもとても都合の良い人間。それが特に理由も聞かずに来てくれた。カモがネギを背負ってきたこの状況。逃す訳にはいかない。

 先程までの覚悟を決めた漢みたいなテンションはどうしたのか、諦めの顔をしてメイド服に着替え始める。


 サイズは合っているはずだ。なにせ店長と同じ身長なのだから。

 メイド服は初めて着るには少し手間取ってしまう物だけど、服の全体を見てすぐに理解した信世からすればこの程度どうって事ないみたいでボクの手助け無しに着てくれた。

 ウィッグは流石に手間取るか……と思ったらものの数分で綺麗な付け方を理解出来たみたいで、初めてとは思えない手際の良さで仕上がっていく。


「これで良いか?」

「うんっ! バッチシ!!」

 文句一つない信世の着付けに感激する。


「それじゃ、ここに座って」

「俺の初女装がこんなあっさりしてて良いのかよ……」

「大丈夫。そこまでのリアクションは求めてないから。むしろメイクが終わった後が本題なんだからね?」

「期待が重いな……」


 椅子に座らせてメイクを施す。

 穂希くんに何度か女装させた事があるから他人にメイクをするやり方は大体分かる。

 服装と髪の色に合わせてメイクポーチの中で比較的合いそうな色を使って、顔というキャンパスに絵をを描くみたくファンデーションやチーク等を塗っていく。

 やり切った後にまた再調整するだろうから、あまり盛りすぎないようにほとんど基礎的なメイクをする。

 ていうか顔整ってて腹立つな。

「うっわ……綺麗過ぎて腹立つ」

 肌も綺麗だし顔の形も信世のお母さん寄りで中性的なイケメンな風合いだ。

「なんで苛立ってんだよ」

「黙ってて。メイクしにくい」

「あいよ」

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